なぜ日本航空のパイロットは、ローコードでアプリを開発したのか:財政的な余裕はないが、時間と情熱があった(1/3 ページ)
2011年、1人のパイロットがローコード開発ツールでアプリの開発を始めた。客室乗務員もその後に続き、現在はさまざまなアプリが内製されているという。彼らはなぜ、アプリを自ら作ろうと思ったのか。その根底には、航空業界の人間の責任と誇りがあった。
コンピテンシーベーストトレーニング(Competency-Based Training 以下CBT)という言葉を皆さんはご存じだろうか。
知識を活用するための思考力、判断力、表現力や主体的に学習に取り組む態度などの資質、能力を身に付けることを重視したトレーニングで、欧米の企業で積極的に取り入れられている。このCBTを、CBTA(Competency-Based Training and Assessment)としてパイロットや客室乗務員の訓練に取り入れているのが日本航空だ。
科目ベースの訓練の限界
その始まりは、2011年のことだ。パイロットの訓練はそれまで、過去の事例を基にした1000本ノックのようなものだった。ボーイング777機の機長であり、飛行訓練教官でもある松田剛氏は、当時の訓練の様子を振り返る。
「パイロットの訓練は、離陸や着陸の練習に加え、離陸して上昇して、運航中にトラブルが起こったら対応して、場合によっては空港に戻って着陸するといったケースを想定して行います。以前の訓練は、過去事例をベースにした同じ科目の練習を何度も何度もやって、基準通りにできるようになったかどうか審査を受ける、というものでした。
しかし、飛行機は日々進化しています。いま飛んでいるエアバスのA350などは、次世代の飛行機です。飛行機がどんどん進化して航空の環境もどんどん進化しているのに、いつまでも1000本ノックのような同じ訓練でいいのかと私たちは危機感を抱いていました」
そのころ世界の航空業界でも、同じ危機感からある変化が起こり始めていた。今までのような科目ベースの訓練では、決められたことはできるが想定外の事態に対応できず、事故を減らせない。それであるなら、パイロットのコンピテンシー(高いパフォーマンスを発揮する人物に共通して見られる行動特性)に着目して訓練すれば、想定外の事態にも地力を持って対応できるのではないかという考えが、国際民間航空機関などの組織で、欧米の方から始まっていた。
財政的な余裕はないが、時間と情熱はあった
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