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第304回 「次のNVIDIA」はBroadcomか? “謎の半導体巨人”の知られざる正体頭脳放談

時価総額で4兆ドルを突破したNVIDIA。その次を物色する動きの中で「Broadcom」が有力視されているらしい。OpenAIと共同でAI(人工知能)チップを開発しているという報道がきっかけのようだ。このBroadcom、あまりなじみがないように思えるが、半導体業界でも売上高トップ10の常連企業だ。Broadcomについて、その歴史から解説していこう。

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「次のNVIDIA」はBroadcomか?
「次のNVIDIA」はBroadcomか?
時価総額で4兆ドルを突破したNVIDIA。その次を物色する動きの中で「Broadcom」が有力視されているらしい。OpenAIと共同でAI(人工知能)チップを開発しているという報道がきっかけのようだ。このBroadcom、あまりなじみがないように思えるが、半導体業界でも売上高トップ10の常連企業だ。Broadcomについて、その歴史から解説していこう(画面はBroadcomのWebページ)。

 株式市場で「次のNVIDIA」を物色する動きがあるらしい。その有力候補の一つとして注目されているのが米国の「Broadcom Inc.」である。英国の経済紙「The Financial Times(FT)」などが、「OpenAIがBroadcomと共同で自社向けのAI(人工知能)チップを開発している」と報じたこともあり、いま話題のAI方面でもBroadcomに注目が集まっている。

 Broadcomは、半導体業界でも売上高トップ10の常連企業であり、何をいまさらという感もある。直近、2025年の第3四半期の売上高を調べてみると約2兆4000億円、前年比22%増である。押しも押されもせぬ大企業である。

 しかし、ArmやNVIDIAもそうだったのだが、もてはやされるまで一般投資家からは「謎の会社」と思われている半導体関連企業は多い。その物色の先に、ようやくBroadcomが目に入ってきたのだろう。

 謎と思われるのは、Broadcomの主要製品分野がコンシューマー市場からは目立たないからと思われる。似たような「〜com」の名を持つ大企業「Qualcomm」(Qualcommは最後の「m」が2つあるが)と比べても、一般向けの認知度が低いようだ。消費者の関心が高いスマートフォンの中核SoC(System On Chip)を販売しているQualcommは、その主力製品「Snapdragon」の名とともに、スマートフォン関連のニュースなどで目にする機会も多い。その点、Broadcomのチップに関する記事はほとんど見かけない。

Broadcomという名なのにティッカーシンボルが「AVGO」の謎

 Broadcomという名前なのに米国の株式市場「NASDAQ」でのティッカーシンボルは「AVGO」である。これはAvago Technologies(アバゴ・テクノロジー)がBroadcom Corp.を買収後、社名としてBroadcomを採用し、「Broadcom Inc.」となったためだ。こうした例は米国で時折見られ、電機メーカーのWestinghouse Electricが、放送局のCBSを買収してCBSを名乗ったようなケースもある(その後、CBSはViacomに買収されている)。

 Avago Technologiesは、もともとがHewlett-Packardの半導体事業(その当時、Hewlett-Packardは計測器会社という世間一般の認識だった。コンピュータも作ってはいたが)を起源とする歴史と伝統を持つ大手半導体メーカーだった。しかし、当時はB2Bビジネスばかりで業界外での認知は高くなかった。そこで、「まだまし」なBroadcomという名を採用したのではないか、と勝手な推測をしている。

Broadcomの製品はどこに使われている?

 過去を振り返れば、20世紀から21世紀への橋渡しの時期に、Broadcom製の半導体を搭載した製品が急激に流布した時期がある。インターネットの爆発的な普及とともに、各家庭に浸透したADSLモデムなどがそれだ。メタルから光ファイバーへの移行の際に使われていたxDSLモデムの多くにBroadcom製品が採用されていたはずだ。また、本格的な多チャンネルテレビ時代を迎えた初期には、セットトップボックスにもBroadcom製品が使われていた。

 ホビーストの間でもBroadcom製のSoCの認知度は高い。ホビースト御用達のLinux搭載のシングルボードコンピュータ「Raspberry Pi」に搭載されているからだ。

 ホビーストは若手エンジニア層と重なるため、Raspberry PiのおかげでBroadcom製SoCに慣れ親しんでいる技術者はとても多い。その結果、小型、軽量、高性能かつ安価なRaspberry Piは、ホビーストだけでなく少量多品種の産業用途向けコンピュータとしても人気を誇る。

 産業用途に使われるようになって、品質も向上した感じが大いにある(個人的な感想だが)。ロボットやドローン、AI監視などへの利用例も大変多い。また、少し悲しいことだが、昨今続く戦争で使用されているドローンの多くにRaspberry Piかその類似ボードが使われているという話も聞く。戦争に利用されると、ソフトウェアとハードウェアの技術進歩は著しく速くなる傾向がある。利用技術は民生用途の数倍の速さで現在も進歩しているのではないかと想像している。

Broadcomの製品はデータセンターを支える?

 上記は一般消費者の目にも触れる末端の事例であったが、Broadcomの製品が最も活躍する場所は、一般人の目に付くことがないデータセンターの奥深くとか、ネットワークのインフラ部分なのである。

 端的に言えば、もしBroadcom製の全ICがこの瞬間に機能停止したら、世界中のインターネットとそれに接続しているコンピュータの全てが止まってしまうはずだ。現代社会は一瞬にして崩壊する。ネットワークスイッチやルーター、トランシーバー、アダプターなどという名で呼ばれているネットワーク部品(と配線されているケーブルや光ファイバー)を使って流れている巨大なデータが全停止してしまうということだ。

 もちろん、他社製のICも存在するが、Broadcom製品のシェアは高い。ネットワークの末端から末端までの経路のどこかで、データは必ずBroadcom製品の中を通っているはずだ。現代社会を支えていると言っても過言ではない。

半導体製品だけでなくインフラ向けのソフトウェアも持っている

 そしてBroadcomの強いところは半導体製品だけではない、ということだ。データセンターとネットワークを稼働させるにはソフトウェアも必要である。Broadcomは、仮想化ソフトウェア大手のVMwareをその傘下に持つだけでなく、買収したSymantecによってセキュリティなどのネットワーク関連ソフトウェア技術も持っている。

 単にICを販売するだけでなく、その利用技術のインフラ部分も押さえているのだ。ただ、VMwareの利用料が実質値上げになってしまったなど、ソフトウェア業界の評判はよろしくないようだが……。

 それらのソフトウェア技術は、ほとんど企業買収で手に入れている。どうもこれは源流を成すAvago Technologiesの企業体質に由来するようだ。旧Avago Technologiesは、Broadcomの買収以前から、積極的な企業買収で知られていた。動きの速いネットワーク業界において、旧来の技術にしがみついていたのでは後れを取ってしまう。

 また、インフラの上から下までコントロールしようとしたら重層的なソフトウェアもサポートせざるを得ない。買収も全てが成功ではなかったと想像するが、買収を重ねて現在の地位を築き上げてきているのである。いままでのところ買収に長けた会社といえるだろう。

BroadcomとNVIDIAの違いは?

 最後にNVIDIAとの違いについて述べておこう。「次のNVIDIA」を探す投資家からは、次のAI関連半導体企業としてBroadcomを推している雰囲気がある。

 しかし、NVIDIAと大きく異なるのはGPUといった単一の製品が出発点となっているわけでない、という点だ。Broadcomはデータセンターやネットワークのインフラを広く支える製品群とサービスを基盤としており、その上でAI処理をするための製品群をラインアップしている。

 NVIDIAのように新たな型番の新製品が出たというようなプレゼンスの在り方とは違う。端的に言えば、NVIDIAの場合、NVIDIA製品よりも安くて高性能、かつソフトウェア互換性のある(知的所有権があるのでここは難しいと思うが)チップが出てきたら一気に覆る可能性もある。

 一方、Broadcomの場合、インフラの広い用途に合わせてそれぞれ異なる多様な製品を作り込んできている。何か1つで覆るような体制でもない。また、売り切って終わりでもない、インフラだから毎月の利用料を取りたい、という指向みたいだ。サブスクでガッポリ(?)だから「次」なのか?

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサを中心とした開発を行っている。


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