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なぜTypeScriptは「最も使われる言語」になったのか? 言語・ツール選定基準の今後は GitHub見解AIが変える言語のトレンド 「型」の重要性

GitHubの年次レポート「Octoverse 2025」でTypeScriptが利用言語の首位に浮上したことを踏まえ、GitHubは、生成AIが言語選択や企業の開発プロセスをどう変えつつあるのか見解を明らかにした。

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 GitHubは2025年10月28日(米国時間)に公開した年次調査「Octoverse 2025」の結果を踏まえ、AI(人工知能)がプログラミング言語の選択や企業の開発体制に与える影響について、公式ブログで見解を示した。

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 Octoverse 2025によると、2025年にTypeScriptがJavaScriptとPythonを追い抜き、GitHub上で最も利用される言語となった(参考記事)。

 GitHubのR&D部門「GitHub Next」の責任者でリサーチ担当シニアディレクターのイダン・ガジット氏は、AIはコードの書き方だけでなく「そもそも何を、どの言語で作るか」という意思決定そのものを変え始めていると指摘する。

AIが変える言語のトレンド 「型」の重要性

 GitHubによると、TypeScriptが最も使われる言語になったのは、ここ10年余りで最大級の言語トレンドの変動だという。ガジット氏は、これは単に「TypeScriptがPythonに勝った」という話ではなく、AIが内部から言語トレンドを形成し始めた結果だと説明する。

 かつての技術トレンドがクラウドやコンテナなど「コードをどこで動かすか」に焦点を当てていたのに対し、現在は「どの言語や構成要素でコードを書くか」という選択の重みが増しているという。

 開発者が言語を切り替える主な動機は、思想的な理由ではなく、生産性やリスク低減といった実利にある。AI時代においては、「この言語を選べば、AIツールがどれだけ支援してくれるか」が新たな判断軸になると指摘する。

 「特に静的型付き言語は、AIとの相性が良いとされる。型情報という『ガードレール』があることで、AIが生成したコードの正しさをコンパイラや型チェックで素早く検証でき、生成AI特有のハルシネーション(幻覚)が発生する余地を狭められるためだ」(GitHub)

 ガジット氏は、AIモデルは「正しさ」に関する情報が明示されているコードほど性能を発揮しやすいと説明する。その結果、AIツールを活用する開発者ほど、新規プロジェクトで静的型付き言語を選ぶ傾向が強まり、個人の好みよりも「AIとの適合性」が優先されるフィードバックループが生じている。

 一方で、Pythonも依然として機械学習やデータサイエンスの分野で支配的な地位にある。豊富なフレームワークやライブラリというエコシステムが確立されており、「車輪の再発明」を避ける意味でも合理的だからだ。つまり、AI支援を受けやすいTypeScriptと、AI開発そのものに不可欠なPythonが、それぞれの適所でシェアを伸ばしている状況といえる。

「書くのがつらい言語」の復権

 今回の調査で特筆すべきは、シェルスクリプト、特にBashを使ったAI生成プロジェクトが前年比206%増と急伸した点だ。

 ガジット氏はBashを「ソフトウェアのダクトテープ(見栄えは洗練されていないが、システムをつなぎ合わせる万能なツール)」と表現する。多くの開発者にとってBashの記述は苦痛を伴う作業だったが、AIエージェントに面倒な部分を任せられるようになったことで状況が一変した。

 「『その言語が好きかどうか』という感情的なハードルが下がり、『その作業に最適な道具だから使う』という本来の基準で言語を選べるようになった。AIは、単に生産性を高めるだけでなく、これまで敬遠されていた言語を実用的な選択肢へと復権させていることを示唆している」(GitHub)

AI導入で変わる評価指標とシニア開発者像

 企業におけるAI導入の議論を巡っては「導入すべきか」から「導入後に組織がどう変わるか」へと移行している。

 ガジット氏によれば、多くの企業でAIによる具体的な成果が見え始めており、それに伴いエンジニアのスキル評価や役割分担にも「二次的な変化」が起きているという。

 Octoverse 2025では、AI導入前後の変化を以下のように対比させている。

  • スキルの定義:AI導入前は、「どれだけ多くのコードを書いたか」で測られていたが、導入後は「AIが生成したコードをどれだけ正しく検証し、設計し、デバッグできるか」が重視される
  • ジュニア開発者:AI導入前は、ジュニア開発者はコードを出すまでに時間がかかったが、導入後はシニアがレビューし切れないほどのスピードで成果物が上がる
  • シニア開発者:AI導入前は、「最も難しいコードを書く」役割だったが、導入後はAIが生成した複雑なコードを評価し、判定する役割になる
  • 開発ツール:AI導入前は、開発ツールや環境は個人の「好み」の問題だったが、導入後は「AIエージェントがどこまで操作できるか」を左右する基盤となり、誤ったスタック選択はAI活用の足かせとなる

 ガジット氏は「静的型付き言語はこうした変化を加速させる」との見解を示している。型やテストなどの検証プロセスが強固であればあるほど、AIに任せられる作業領域が広がるためだ。

 こうした変化の中で、シニア開発者の定義も変わり、大量のコーディング能力よりも、AIと協働しながら仕様を策定し、リスクを見極める能力が求められるようになるという。

WebAssemblyがもたらす「ポータビリティ」の未来

 2025年現在は、言語選択が実行環境に縛られているものの、多様な言語のコードを共通形式で実行できる仕組み「WebAssembly」(Wasm)の普及がこの前提を変えつつあるとする。あらゆる言語がWasmをターゲットにできるようになれば、「どこで動かすか」という制約から解放されるためだ。

 将来的には、開発者はRustやGo、Pythonなど任意の言語で仕様を書き、AIがコードを生成し、コンパイラがWasm向けに出力することで、Web、クラウド、エッジを問わず動作するフローが現実味を帯びてくる。これは特定の言語が勝者になる世界ではなく、「ポータビリティ」(移植性)が重視される世界へのシフトを意味する。

 ガジット氏は、今後の言語やツールの選定基準は、構文の書きやすさではなく、エコシステムの厚みやデバッグのしやすさ、そして「AIと人間が共有できるメリットの大きさ(レバレッジ)」に移っていくと結論付けている。

 開発者にとっては、特定の技術への忠誠心よりも、このレバレッジを最大化するスタック選びが重要になるという。

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