Rubyは「みんなのプロジェクト」 まつもとゆきひろ氏が振り返るRubyとコミュニティーの30年:AIにRailsアプリを作らせたら、できて、動いて、使えるんです(2/3 ページ)
Rubyのフリーは「自由」のフリー。その自由を守り、OSSを維持するためにはコミュニティーの貢献が不可欠だ。Rubyの未来は「私たち」の熱意にかかっている。
Ruby、国際標準規格に
Rubyは言語としての地位を確立する過程で、標準化が進められた。2011年にはJIS X 3017として日本産業規格(JIS)化された。このJIS規格をベースに、その後ISO 30170として国際標準規格化が達成された。
なお、国際標準規格として定められている開発言語には、C++(ISO/IEC 14882)、C、COBOL、FORTRANなどがあるが、Java、JavaScript、Pythonなどの多くの開発現場で広く使われている言語は、標準規格化されていない。
会議室で生まれたRubyGems
Rubyのエコシステムに不可欠な管理ツール「RubyGems」は、2001年の第1回Rubyカンファレンス開催中に、参加者の集団作業によってプロトタイプが誕生した。
「最初のRubyカンファレンスの出席者って、36人しかいなかったんです。そこでホテルの会議室か何か借りて、みんなでわさわさっと集まって、『RubyGemsいるよね。どんな機能がいるだろう。インストールとかですかね。じゃあちょっと待って。俺がプロトタイプ作るからさ』みたいなことをガリガリ始めて、最初のプロトタイプができたのが、Rubyカンファレンス2001の会期中だったんですね」
その後「RubyGems 0.4」としてリリースし、「RubyGems 1.0」を2004年にリリース。2010年からは、Ruby CentralがRubyGems.orgの運営を担っている。
Rubyとコミュニティーの親密な関係
Rubyコミュニティは、その初期から協力的な文化を育くみ、「フレンドリーなコミュニティー」として知られている。「Matz is nice and so we are nice(まつもとさんがナイスだから、私たちもナイスだ)」というフレーズが広がるほど、コミュニティーの文化は友好的な雰囲気で形成されてきた。
「Rubyコミュニティは本当に素晴らしい人たちの集まりだと自負しています。Rubyの人たちはRubyに対してすごく強いパッションを持ってるんですよね。どうしてRubyをそんなに好きでいてくれるのかよく分からなくて不思議なんですけど、本当にありがたいと思います。RubyGemsもカンファレンスも、世界中の熱意を持つ人々によってメンテナンスされてます。さらに、気前が良い素晴らしいスポンサーのおかげで、たくさんのカンファレンスが開かれたり、いろいろな開発ができる。30年間のRubyコミュニティの成長は、そういうたくさんの人たちの熱い情熱に満たされて支えられていると思います」
コミュニティー運営に生じる危機
だが、友好的なコミュニティーにも、苦労と悩みは絶えない。
オープンソースソフトウェア(OSS)は「無料」ではあるが、そのインフラや活動を維持するためには大きなコストがかかる。コミュニティーの規模が拡大し、重要インフラのトラフィックが全世界で膨大になるにつれて、費用も増大しているというのだ。
「コミュニティーが大きくなり世界的になるに従って、以前よりももっとコストがかかるようになりました。Webのホスティングも、ドキュメンテーションの整備も、セキュリティオーディット=チェックに対してもコストがかかるようになりました。そのことを考えると、私たちはいま、結構危ないバランスにいるんじゃないかなと思います」
もし資金面でインフラを維持できなくなったり、セキュリティ上の大きなトラブルが発生して信頼が失墜したりすれば、ユーザーがRubyから離れ、コミュニティーが衰退してしまうという強い危機感をまつもと氏は抱いている。
貢献と誤解
コミュニティーの拡大に伴い、意見の対立や炎上といった問題も発生している。英語圏では最近、特定の貢献企業に対する誤解という問題が起こった。
Shopifyは、Ruby on Railsを利用する企業の一つであり、Rubyのパフォーマンス向上に対して多大なリソースを投入しているスポンサー企業でもある。「YJIT」(Ruby用JITコンパイラ)などの画期的な高速化技術は、Shopifyからの多大な貢献によって実現している。
ShopifyがRubyの性能向上に貢献するのは、Rubyが速くなればShopifyのサーバコストが削減されるという明確な利益があるためである。だが、ShopifyがRubyをコントロールし、乗っ取ろうとしているという話が出回ったことがあった。
これはShopifyがRubyの性能を上げることに熱心なあまりに生じた誤解であり、実際にはShopifyのような企業の貢献は、Rubyの持続的な発展に不可欠である、とまつもと氏は力説する。
「Shopifyが『私たちのためにRubyを○○してくれ』と言ってきたことは一度もありません。Shopifyにとって、速いRubyはうれしいRuby。例えばRubyが10%高速化されると、Shopifyのサーバコストが10%安くなるんです。彼らの10%って多分何億円にもなるので、優秀なエンジニアをフルタイムで雇用して「ZJIT」(次世代Ruby用JITコンパイラ)の開発を主導してRubyアプリケーションを高速化するのは、彼らの利でもあるのです。Rubyを高速化したら私もうれしいし、世界中の全てのRubyを使ってる皆さんもうれしい、ということを実践しているだけなんです」
まつもと氏は、現状はShopifyの貢献が大きいから目立っているだけであって、他の企業や団体もスポンサードやコミッターの雇用などで、もっとRubyの開発やコミュニティーを支援してほしいと訴えた。
「Rubyを使ってもらいたいし、Rubyを使って新しいチャレンジをしていただきたい。Rubyの生産性は他の言語に対して十分競争力を誇れるものだと思ってます。たくさんチャレンジをすればビジネス的に成功するものも出てきて、お金が稼げる人たちも出てくるんです。もし、たくさんのチャレンジの中から大もうけする人が出てきたら、その中からほんのちょっとをわれわれに還元するスポンサーになっていただきたいと思います」
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