エージェント型AIでITインフラ運用は転換期に 担当部署の役割は大きく変化:Gartner Insights Pickup(445)
エージェント型AIの普及により、企業のITインフラ運用は転換期にある。Gartnerの調査によると、企業の60%がAIエージェントによる自動化を既存ソフトウェアに取り入れるユースケースを試験運用するか展開しているとしている。AIエージェントの導入に当たり、CIOはどう準備を進めるのがよいのだろうか。
企業のITインフラと運用(I&O:Infrastructure and Operations)は、大きな過渡期を迎えている。エージェント型AIが成熟した能力を持つようになり、広く普及しようとしていることが背景にある。
CIO(最高情報責任者)や技術リーダーは、AIエージェントは単なる自動化アドオン(付加機能)ではなく、「複雑なITエコシステム全体にわたってタスクの計画、連携、実行が可能な自律的ソフトウェアエンティティとして、運用の変革を促進する」と考えるようになっている。
企業が重要なワークフローにエージェントを試験的に組み込む中、CIOは「こうしたシステムが運用モデル、人員構成、サービス提供への期待をどのように再構築するか」を検討し始めている。
Gartnerの調査は、「企業の過半数(60%)が、AIエージェントによる自動化を既存ソフトウェアに取り入れるユースケースを試験運用するか、あるいは展開している」ことを示している。テクノロジープロバイダーは、こうした需要に応えて製品戦略を急速に進化させており、定型業務を処理できる組み込み型エージェントを投入する一方で、部門横断的なワークフローやより複雑な運用シナリオを調整するマルチエージェントアーキテクチャの検証も、並行して進めている。
運用のパラダイムを変えるエージェント型AI
これらの初期実装はまだ出始めたところだが、エージェント型AIが実験段階から戦略的な展開へと移行する転換点を反映している。
「2028年までにエージェント型AIが運用のパラダイムを根本的に変え、I&Oの役割がタスク実行から、監督、ガバナンス、成果保証へとシフトする」と予想する企業は、半数を超えて増えている。企業は今後数年間に、ますますAIエージェントを独立したデジタル労働力として扱うようになり、AIエージェントの管理フレームワーク、パフォーマンス監視、既存サービス提供モデルへの統合が必要になるだろう。
だが、その道のりは簡単ではない。エージェントのレガシーシステムとの統合、高品質かつコンプライアンスに準拠したデータアクセスの確保、セキュリティリスクへの対処、エージェントによる処理がコストに与える動的な影響の管理は、いずれも大きな課題だ。CIOにとっては、ガバナンス体制の強化と新たなスキルセットへの投資が、AIエージェントを安全に展開しその変革の可能性を引き出すために不可欠になる。
AIツールの進化とI&O担当者の役割の変化
Gartnerは2029年までに企業の70%が、ITインフラの半自律的な運用を目指し、エージェント型AIを導入すると予測している。2025年にはこの割合は5%に満たなかった。
従来の自動化ツールの限界に不満を持つCIOの間では、複雑で非決定論的なITインフラ運用を自然言語インタフェースで自動化する手段として、エージェント型AIへの期待が高まりそうだ。I&Oにおける従来のAI自動化は、APIに大きく依存し、高コストで希少になりがちな、専門的DevOpsスキルを持った人材を必要とする。これに対し、エージェント型AIは自然言語を理解するので、より導入しやすい。
これらのシステムの能力向上に伴い、I&O自体の役割も変わろうとしている。I&O担当者は手動でコマンドを実行したり、ログを確認したり、インシデントのトリアージをしたりするのではなく、自律的なエージェントワークフローの調整や監督を担うようになる。大量に発生する定型的なタスク(インシデントの初期診断、ヘルスチェック、標準的な修復措置など)は、I&Oチームが定義したガードレールの下で、エージェントが実行することになる。
こうした役割の転換により、I&O人材の重要性は、低下するどころか高まるだろう。ネットワーキングやストレージ、コンピューティング、クラウドにおける深い専門知識・ノウハウこそが、これらのシステムが学習し、意思決定するための知識基盤となるからだ。人間の実務者の価値は、作業の実行から作業の実行管理へと、より上流に移っていく。
これらの変化の過程で、I&Oで日々利用されるツールセットも進歩する。初期段階では、企業は既存プラットフォームに組み込まれたAIアシスタントとやりとりする。これらは自然言語のプロンプトに基づいて、高度な診断をしたり、コンテキスト情報を収集したりできる。やがてこれらのアシスタントは、I&O担当者によって構成される専門エージェントへと進化し、あらかじめ定義された運用ポリシーに沿って、自動データ階層化、セキュリティパッチ適用、キャパシティー調整といった機能を自律的に管理するようになる。
いずれは、企業がエージェント開発フレームワークを導入し、独自の運用知識をコード化してカスタムエージェントを開発し、組織の専門知識・ノウハウを、再利用可能でスケーラブルな運用ロジックへと効果的に変換できるようになる可能性がある。
I&O担当者は従来、コマンドラインインタフェース(CLI)やグラフィカルユーザーインタフェース(GUI)に頼ってツールを操作してきたが、その仕事は、AI駆動ワークフローに対するプロンプトエンジニアリング、ポリシー定義、継続的な監督へと移行することになる。
ガバナンスの再構築とスキルの整備
このように、I&O担当者の役割が変わるほど自律的に、かつ安全にエージェントを動作させるには、CIOはガバナンスを見直す必要がある。I&Oチームが権限と説明責任を維持できるように、エージェント型AIは、判断の境界が明確で、実行経路が監査可能で、推論が透明でなければならない。
そこで重要な基盤となるのが、データ品質だ。エージェントは、動作時に使用するテレメトリーデータがノイズを含んでいる場合や、不完全な場合、一貫性を欠いている場合、適切な判断を下せないからだ。
そのため、企業は最も重要なシステム向けに、自動テレメトリーの拡充と、キュレーションされた高精度データパイプラインへの投資を拡大していくと予想される。これによってエージェントに、正確でタイムリーなアクションに必要な、信頼性の高いコンテキストを持たせられる。
I&O担当者の役割のシフトに伴い、戦略的なスキル育成アプローチも必要になる。CIOは、I&Oチームがインフラを直接管理する立場から、インフラを管理するAIシステムを管理する立場へと移行するのを支援しなければならない。この移行により、エージェントワークフローの監督、AIセキュリティの基盤、パフォーマンスとコストの監視に関するスキルが不可欠となる。
基本的に、I&O担当者は、これらのエージェントが実行する日常業務の枠を超えた、新規の極めて複雑な問題のみを解決することになる。このことは、人間の判断力や直感、深いドメイン知識(業務知識)が引き続き重要であることを示している。
最終的に、エージェント型AIは現代のインフラ運用の在り方を再定義するだろう。体系的なガバナンスと組み合わせて安全なエージェント実験を早くから奨励するCIOは、この技術が急速に成熟するにつれて、運用上の大きな優位性を築くことになる。手をこまねくCIOは、エージェント型AI主導の運用が成熟した未来において、後追いを余儀なくされるかもしれない。
出典:How CIOs Must Prepare for an AI-Driven Shift in Infrastructure and Operations(Gartner)
※この記事は、2026年3月に執筆されたものです。
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