この1年で「パブリッククラウドからの回帰」を加速させた、セキュリティだけでは語れない変化:なぜ自社環境への揺り戻しが起きる?
VMwareなどのインフラ向けソフトウェアを手掛けるBroadcomの調査によれば、企業はクラウド利用において「無駄」を強く感じている。パブリッククラウドから自社環境への移行に関しては、AIがその動きを加速させているという。
VMwareなどのインフラ向けソフトウェアを手掛けるBroadcomは2026年6月9日(米国時間)、クラウドインフラの利用動向を調査した年次レポート「Private Cloud Outlook 2026」を発表した。前年のレポートでは、企業がパブリッククラウドとプライベートクラウドの利用のバランスを取ろうとする「クラウドリセット」の動きが見られたが、今回の最新調査ではパブリッククラウドの利用を減らす動きが加速したという。こうした企業のクラウド戦略の変更に何が強く影響しているのか。
加速するパブリッククラウドから「自社環境への回帰」 その背景は?
調査は、調査会社Radius TechとBroadcomが2026年2〜3月に実施した。北米、欧州、アジア太平洋地域の8カ国で、従業員数1000人以上の企業に所属するIT部門の上級意思決定者1800人が回答している。
ポイントの一つは、企業がAIワークロードを実行する場所の急激な変化だ。2026年には、プライベートクラウドで本番AI推論を実行中または実行予定の企業が56%に達した。一方、パブリッククラウドでは同じ割合が前年比15ポイント減の41%となり、前年のほぼ拮抗(きっこう)した状態から逆転した。この15ポイントの下落は、今回のレポートでも劇的な変化の一つだという。
パブリッククラウドは、パイロット運用やモデルのトレーニングには依然有効だが、大規模なAIワークロードの運用では、コストとガバナンスの要件から「自社環境への回帰」が起きているとBroadcomは説明する。実際、ITリーダーの62%が、生成AIやエージェント型AIの運用にかかるインフラコストについて「非常に」または「極めて」懸念していると回答した。企業のIT部門が直面する新たなAI関連の課題としても、「データ保護とプライバシー」(37%)、「セキュリティと管理」(36%)が上位に挙がっている。
コストが初めてセキュリティを上回った 「無駄」の実態
パブリッククラウドに対する懸念事項では、「コスト」が「セキュリティ」を上回った。コストは2025年の26%から2026年には31%へと上昇し、最大の懸念事項となった。象徴的なのが「無駄」への意識だ。ITリーダーの97%が、パブリッククラウドの利用料金の一部に無駄があると考えており、52%は総予算の25%以上で無駄が発生していると試算している。
こうした問題意識が、従来からのセキュリティやコンプライアンスへの懸念と相まって、プライベートクラウドへの回帰を後押しする。既に一部のワークロードをプライベートクラウドへ回帰させた企業は前年比15ポイント増の50%に達し、回帰を検討中の企業を加えると同14ポイント増の83%に上った。
プライベートクラウドに回帰する要因の上位3つは、「セキュリティとコンプライアンス」(51%)、「コストの予測可能性」(39%)、「パフォーマンス」(39%)だった。中でも「コストの予測可能性」が急浮上したことが顕著な変化の一つだ。AI時代にパブリッククラウドの費用対効果が著しく低下していることが浮き彫りになっている、とBroadcomは強調する。投資意欲もこれに連動し、プライベートクラウドへの投資意向はパブリッククラウドの2倍のペースで拡大。今後3年間でパブリッククラウドが10ポイント増なのに対し、プライベートクラウドは21ポイント増だ。
地政学とデータ主権も回帰を後押し
2026年はもう一つ、インフラを巡る議論のテーマとして地政学が浮上した。ITリーダーの5人に4人が、地政学的要因が自社のIT戦略や運用に直接影響を与えていると回答している。インフラの決定に影響を与える主要な要因としては、「データ主権およびデータ所在地要件」(54%)が「管轄区域ごとのコンプライアンス」(51%)を上回り、データ主権は単なるコンプライアンス上の要件から取締役会レベルの優先課題へと移った。特に、金融サービス、公共部門、医療、ライフサイエンスといった高いセキュリティ・コンプライアンス要件が求められる業界が、この変化の最前線に立つ。機密データを自社の管理下に置くプライベートクラウドの導入が、ますます有力な選択肢となりつつあるという。
BroadcomのVMware Cloud Foundation部門でマーケティングを担当するプラシャント・シェノイ氏(バイスプレジデント)は、企業がAIをパイロット運用から本番運用へと移すにつれて、インフラや運用のコストが急増するだけでなく、セキュリティ上の課題が顕在化し、複雑さも増大すると指摘する。その上で「企業が本番環境でのAI運用に際してプライベートクラウドを選択する傾向が高まっている」と述べる。
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