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これからの企業ネットワークの運用/保守はAIが主役、しかし全てはカバーできない羽ばたけ!ネットワークエンジニア(103)

企業ネットワークにおいてもAIを活用した運用/保守の省力化、自動化が進められている。AI活用のメリットと限界について述べる。

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 2026年6月27日、第121回情報化研究会をオンラインで開催し、NEC BluStellar事業推進部門BluStellarシナリオ統括部 主任 中根智絵氏に「企業ネットワークはNoOps時代へー自動化・AI活用で『つながる・見える・止めない』運用ー」と題して講演していただいた。

 講演の後、企業ネットワークの運用/保守でAIに期待することや、現在のAIでできることについてディスカッションした。

 この研究会の内容を踏まえ、企業ネットワークの運用/保守におけるAI活用のメリットと限界、人間の役割について述べる。

AIOpsとNoOps

 AIOps(Artificial Intelligence for IT Operations)はAIを活用してシステムの運用/保守を自動化、高度化する。これによって障害の検出や解析、復旧、機器設定などを効率化、迅速化し、運用/保守の省力化とサービスレベルの向上を実現する。高度な技術力を持たない運用担当者でも運用/保守ができる「容易化」も大きなメリットと言える。

 中根氏によれば、企業ネットワーク運用における課題に対する答えが、”NoOps(No Operations)"、すなわちAIと自動化を最大限活用した予測的・自律的な「AIネイティブ運用」だ。「最終承認は人が行いながら、データから推測して事前にインシデントを防ぐ『予測的』な動きと、実際の運用実務は人ではなくAIエージェントなどが労力として動く『自律的』な世界を目指します」(中根氏)

 AIOpsとNoOpsはどういう関係になるのか。筆者はAIOpsが進化してNoOpsになるわけではなく、これらは別物だと考えている。また、NoOpsを直訳すると「運用ゼロ」となるが、現時点でそれは実現していないし、将来的にも企業ネットワーク全体の運用/保守をAIが自動化することは不可能だ。理由は後述する。

 しかし、企業ネットワークの運用/保守においてAIに任せる部分が増えて、省力化と容易化、サービスレベルの向上が進むことは間違いない。

 研究会の参加者に聞いたところ企業ネットワークの運用/保守でAIに期待することとして多かったのは「障害の原因解析、復旧の迅速化」と「属人性の排除」だった。

LAN保守を容易化、効率化するAIOps

 普段どんな障害に悩まされているか研究会参加者に質問すると「無線LAN関係の障害」という声が多かった。

 「無線LANが遅い、無線LANが頻繁に切れる」といった障害申告があった場合、次のような点がないかどうかを確認する。

  • Wi-Fiの周波数帯の中で比較的遅い2.4GHzでの接続
  • 利用場所から離れた場所の無線LANアクセスポイント(以下、AP)への接続
  • 電波干渉による電波不安定の発生
  • APに多数のデバイスが接続されることによる、APのスペック不足、またはネットワークの輻輳(ふくそう)の発生
  • PC側のインタフェースの不具合、設定の不備

 このようなチェックを人間が時系列を追ってやっていくのは手間と時間がかかるため、AIが端末とAPの接続状態、電波状態、蓄積されたログなどから自動分析し、障害の原因や発生個所を瞬時に特定することが期待されている。

 無線LANでは既に対応できるAIOpsが実用化されている。その一つの例が2025年4月にこのコラムで取り上げたセブン&アイが使っている「Juniper Mist」だ(図1)。

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図1 セブン&アイの無線LAN AIOps「Juniper Mist」

 セブン&アイグループでは、かつて2種類のAPを併用していた。しかし、電波干渉などが原因で「遅い」「切れる」といったクレームが多発した。

 Wi-Fiに詳しい担当者がAP管理アプライアンスを使って原因分析し、チューニングを繰り返してもなかなか効果が得られなかった。そこで、AIでWi-Fiを効果的、効率的に運用できるJuniper Mistを導入した。旧来のAPは撤去してMist APに統一し、クラウド型のWi-Fi管理プラットフォーム「Mist Cloud」でAP約900台を監視/制御する構成とした。

 Juniper MistはWi-Fi環境の可視化とAIによる分析が可能なサービスだ。APの稼働状況だけでなく、ユーザーが快適に使えているかどうかをスコアで把握できる。APに接続される端末数の変化など、Wi-Fi環境の変化に応じて電波強度などをAIが自動調整するので、手間をかけずに快適な運用ができる。

 障害の原因となる事象をいち早く把握し対処できるので障害件数が減り、障害が発生しても原因の特定と対処が簡単、迅速にできるようになった。その結果、Wi-Fiの運用負荷は従来の数分の一になり、容易化によってWi-Fiに詳しくない担当者でも運用できるようになった。

 NoOpsに近い運用が実現したとしても、Juniper MistのようなAIOpsは必須だ。なぜなら、NoOpsからWi-Fiの電波環境やAPの設定内容/稼働状況を詳しく見たり、MistAPを制御することは不可能だからだ。AIOpsが進化してNoOpsになるわけではなく、両者は目的が違うものとして併用されることになるだろう。

「遅い」を解決するSD-WANオーケストレーター

 「遅い」というクレームもネットワークではよくある。原因は上記のWi-Fiにあることもあれば、回線の帯域幅不足、クラウドの過負荷、PCのスペック不足など多様だ。事象の発生個所、原因の特定に時間を要することが多い。これを効率化できるサービスとして「SD-WAN」がある。

 2023年10月に本コラムで取り上げたオムロンのSD-WAN(図2)は働き方改革やDX(デジタルトランスフォーメーション)に対応する柔軟性の向上、コスト抑制、ユーザーエクスペリエンスの向上とともに、運用負荷軽減を目的としていた。

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図2 オムロンのSD-WANとオーケストレーター

 人手をかけることなく、時々刻々変化するネットワークの状況に応じてSD-WANオーケストレーターがアプリケーションのQoS(Quality of Service)を自動制御することで、電話の音質や業務アプリケーションのレスポンスタイムを保ち、ユーザーエクスペリエンスの向上を実現している。

 ネットワークの不具合への対応は迅速かつ容易にできるようになっている。「ネットワークの見える化」で、拠点の回線の品質、トラフィックの多いアプリケーション、機器の状態などがすばやく把握できるのだ。例えば、「インターネットが遅い」というクレームがあった拠点の状況を見ると回線に問題はなく、特定の個人が大きなファイルを送信していることが原因だと即座に分かったという。

 「自動化」と「見える化」が運用負荷の軽減と障害原因の解析、復旧の迅速化に役立っている。

AIに見えない領域と人間の役割

 セブン&アイやオムロンの例で分かる通り、AIの活用や自動化を進めることが企業ネットワークの運用/保守を省力化、迅速化、容易化し、サービスレベルを向上させる上で有用なことは間違いない。しかし、AIが企業ネットワーク全体をカバーすることは将来的にもあり得ない。AIには見えない領域、制御できない領域があるからだ。それを示したのが図3だ。

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図3 AIに見える領域と見えない領域

 左の2つの楕円内はAIが見える領域、制御できる領域を表している。3つ目の楕円がAIに見えない領域だ。企業ネットワークで広く使われているインターネットはAIで制御できないだけでなく、内部を見ることもできない。キャリアのIP-VPN、広域イーサネットなどの閉域固定網の内部もAIからは見えないし、制御もできない。4G/5G網も同様だ。

 例えば、2026年5月に本コラムで取り上げた奈良市の先進的なクラウドPBXではネットワークは100%、4G/5G網だ。もし、ネットワーク運用のためのAIを導入したとしても何の役にも立たない。「電話がつながらない」「音声が途切れる」といった電波が原因と思われるトラブルが起こっても、電波状態を見ることもできなければ、電波の強さを制御することもできない。AIにやれることは何もない。

 人間が電波起因のトラブルだと推定し、携帯電話事業者にトラブルが出ている場所の電波調査を依頼して必要があれば電波対策を取ってもらうことになる。

 閉域固定網でもキャリアによる調査が必要なトラブルがある。筆者は以前、500拠点を超える大規模ネットワークでループ障害を経験したことがある。ネットワーク全体が輻輳状態になり、ネットワーク管理システムから診断や制御のためのパケットを送信することもできなくなった。そこで、キャリアにネットワーク内部のトラフィックの流れを調査してもらった。関西の1拠点から大量のパケットが発生していることが分かり、すぐに原因を特定できた。あろうことか、拠点のエンドユーザーがルーターに勝手にLANケーブルを接続したことが、ループ障害を引き起こしていたのだ。このケースも、仮にAIを使っていたとしてもAIにループ障害の発生場所は見つけられない。監視/制御する通信ができないからだ。

 このように、AIに見えない、制御できない領域が企業ネットワークには必ずある。

 AIに見えない領域を含め、ネットワーク全体を見て運用/保守の在り方を考え、実行できるのは人間だけだ。AIを上手に活用してネットワーク運用/保守の省力化、迅速化、容易化、サービスレベルの向上を図りながら、人間系を含むネットワーク全体の運用/保守体制を最適化していくことが必要だ。

筆者紹介

松田次博(まつだ つぐひろ)

情報化研究会(http://www2j.biglobe.ne.jp/~ClearTK/)主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。

IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。本コラムを加筆再構成した『新視点で設計する 企業ネットワーク高度化教本』(2020年7月、技術評論社刊)、『自分主義 営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(2015年、日経BP社刊)はじめ多数の著書がある。

東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)、NEC(デジタルネットワーク事業部エグゼクティブエキスパートなど)を経て、2021年4月に独立し、大手企業のネットワーク関連プロジェクトの支援、コンサルに従事。新しい企業ネットワークのモデル(事例)作りに貢献することを目標としている。連絡先メールアドレスはtuguhiro@mti.biglobe.ne.jp。


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