Prometheusとの関係から整理、なぜGrafanaは「OpenTelemetry」を推進する?:オープンへ向かうオブザーバビリティー(2/2 ページ)
オブザーバビリティーの分野で存在感を増している「OpenTelemetry」。なぜ今、テレメトリーデータを特定の仕様に閉じないオープンな仕組みが重要になっているのか。GrafanaとOpenTelemetryの関係から考える。
特定ベンダー向けの「計装」から切り離したオープン性
Grafana LabsがGrafana Cloudのユーザーに対しても、基本的にはGrafana独自のSDK(ソフトウェア開発キット)ではなくOpenTelemetryを使うよう案内しているという。OpenTelemetryが普及すれば、ユーザーは特定のオブザーバビリティーツールに合わせてアプリケーションを計装(テレメトリーデータを取得できる状態にすること)する必要がなくなるからだ。Grafana Cloudにデータを送っていたユーザーが、別のオブザーバビリティーツールへデータを送ることも容易になる。
従来オブザーバビリティーベンダー各社は、それぞれ計装用のライブラリを提供してきた。それぞれが出力するデータに互換性がなければ、仮に別のオブザーバビリティーツールへの移行や統合をするときに、計装用のコードまで変更する必要がある。OpenTelemetryで計装していれば、この関係を切り離せる。「移行前に2つの製品を比較したければ、同じテレメトリーデータを複数のサービスへ送って検証することもできる」(山口氏)。実際に、テスト環境ではGrafanaのOSSを利用し、本番環境ではマネージドのオブザーバビリティーサービスを利用するといった使い方もあるという。
それでもGrafana LabsがOpenTelemetryを推すのは、ユーザーに選択肢を残すこと自体に価値があると考えているからだ。ユーザーが業界で広く使われる仕組みでシステムを計測し、標準化された形でデータを出力する。そのデータをGrafana Cloudに送ることもできれば、別のオブザーバビリティーツールを選択したり、試したりすることもできる。「こうした選択の自由がある状態がユーザーにとって望ましく、その中で価値を提供していけるのがGrafana Labsとしても理想だ」と山口氏は言う。
Expert's View:山口能迪氏(グラファナラボ合同会社 スタッフデベロッパーアドボケイト)
前々職のGoogleにいた頃からSREを広く普及させることを自身のミッションの一つとし、その重要な構成要素の一つとしてオブザーバビリティーを推進してきたという同氏。2018年からはOpenCensusのプロジェクトにも携わり、それが2019年にOpenTelemetryと合流して以降もプロジェクトへの貢献を続けてきた。AIによる運用が広がる今後も見据えて「OpenTelemetryの普及には継続して取り組んでいきたい」と語る。システムを理解するためのデータを共通の仕組みで扱える環境を広げていくことが、オブザーバビリティーを普及させる上でも重要になるという。
AIにシステムの状態をどう理解させるか
オープンなオブザーバビリティーという考え方は、AIの利用が広がることでさらに重要になる可能性があるという。山口氏はSRE(サイト信頼性エンジニアリング)を普及させる上で、オブザーバビリティーは重要なプラクティスの一つだと考えてきたが、AIを使ったシステム運用が広がれば、AIにシステムの状態を正しく把握させる上でもオブザーバビリティーが重要になるとみる。
AIにシステム運用を任せるには、AIに「コンテキスト」を与える必要がある。ソースコードやアーキテクチャのドキュメントなどと同様に、「システムが今どのように動いているのか」をAIに伝えるためのコンテキストとなるのが、オブザーバビリティーによって得られるメトリクスやログ、トレースなどのデータだ。
その際、テレメトリーデータが製品ごとに異なる形式で存在するより、OpenTelemetryによって標準化された形で取得できることには意味がある。「標準化されたデータであればAIも理解しやすくなる」ため、AI時代においてもOpenTelemetryの重要性は増してくる。
オブザーバビリティーにおいてオープンであることの重要性は、システムを取り巻く環境の変化とともに高まっている。クラウドとオンプレミスにまたがってシステムが構成され、コンテナやマイクロサービスなど利用する技術も多様化している。それに伴い、オブザーバビリティーに必要なメトリクスやログ、トレースの取得元も、さまざまな環境やシステムに広がっている。
こうした環境になるほど、全てのシステムを一つのベンダーの方式に合わせることは難しくなる。異なる環境や技術から得られるテレメトリーデータを、OpenTelemetryのような共通の仕組みで収集、処理し、必要に応じてさまざまなツールに送って利用できることが重要になるだろう。
AIを使ったシステム運用を視野に入れれば、AIがいかに正確にシステムの状態を把握できる環境を整えるかも欠かせない視点だ。オープンで標準的な仕様であれば、仕様や実装例などの情報が広く公開、蓄積されるため、AIモデルも事前学習している可能性が高く、AIにとっても扱いやすい技術になる。システムの複雑化に加えてAI活用が進む中では、オブザーバビリティーにおける「オープン」の重要性はこれまで以上に高まっていくと言えそうだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
誕生から7年「OpenTelemetry」が異例のスピードでCNCFの“卒業”に なぜ支持されるのか
CNCFが、オブザーバビリティー(可観測性)のオープンソースフレームワーク「OpenTelemetry」を「Graduated」に認定。異例の速さでの認定になったという。なぜここまで支持されるのか。
「ClaudeとGeminiの躍進」も「AIエージェントの波」も、来たる“IT運用の変化”の序章に過ぎない?
企業における生成AIの利用は、PoCから本番運用のフェーズへと移りつつある。マルチモデル化やAIエージェント活用によって複雑化する運用に、企業はどう向き合うべきか。Datadogの調査レポートを基に、新たな運用管理の視点を考える。
転職dodaの基幹システム「DC廃止→AWS移行前倒し」を“無事故で”どう実現? コスト予測も高精度に
転職サービス「doda」を提供するパーソルキャリア。同社はグループ共通のデータセンター廃止の計画が進む中、基幹業務システムのクラウド移行を無事故で完了。その後、クラウドでのアーキテクチャ改善や、クラウドコストの予測精度向上、障害対応の迅速化などに取り組んできた。どう実現したのか、その裏側を聞いた。
社内サービスにもSREが必須の時代へ その理由とは
「システムを稼働させ続けること」に重点を置いた従来のIT運用では、もはや不十分だ。Gartnerは、SREを全社的に導入する企業の割合は、2024年の30%から2028年には80%へと急拡大すると予測している。本稿では、このSRE導入の急増が単なる一過性のトレンドではなく、企業のイノベーション推進やDEXの向上において不可欠である理由を解説するとともに、SREを活用した運用への5つのステップを紹介する。