お悩み相談のエキサイト、通話基盤刷新で「利用者が2.5倍」でも「5億円超のコスト削減」ができた理由:「利用が増えるほど通信コスト増」から脱却(2/2 ページ)
サービスの利用者が増えて事業が成長する一方、通信コストやIT基盤の運用負荷も同時に膨らむ――。20年近く続く通話相談サービスを展開するエキサイトは、そうした課題に直面していた。事業の成長を支える通信基盤をどう見直したのか。
新基盤は「インフラは持たない、開発は自社で」
これらの課題を解消するために、エキサイトは次の通話基盤をどう考えたのか。ポイントの一つが、通信インフラそのものを自社で抱え込まないことだった。利用増に合わせて回線や設備を増強し、そのキャパシティーを管理する従来のやり方を続ければ、事業が成長するたびにインフラへの投資や運用負荷が増えてしまう。一方で、システム全体を外部事業者に任せてしまえば、これまでと同じように、サービスを変更するたびに外部への依頼が必要になりかねない。
そこでエキサイトが目指したのが、通信基盤そのものはマネージドサービスとして利用し、その上で動くサービス固有の機能は自社で開発、変更できる構成だった。
「エキサイトは基本的に技術部隊を社内に持ち、インハウスで開発していくスタイルを取っているため、システムそのものを全て外部にアウトソースするという考え方はしなかった」(秋吉氏)。既存と同じアナログ方式のまま、通話システム全体を外部事業者にアウトソースする選択肢もあったが、それは同社の開発方針にはそぐわなかった。同社は電話やSMSなどのコミュニケーション機能をAPI経由でアプリケーションに組み込める、クラウド型コミュニケーションプラットフォームの「Twilio」を採用した。
この移行に当たって重視したのは、まずコスト構造を変えられることだった。従来のように利用増に合わせて同時接続数を確保するための設備を増設する必要がなく、需要に応じて拡張できる。事業が成長するたびに設備投資やその管理負荷が膨らむ構造から脱却できる点は大きかったという。
もう一つ重視したのが、システムの拡張性と技術的な汎用(はんよう)性だ。「通信機能をAPI経由で利用でき、その仕様や技術情報も公開されているので、検証もしやすく、自社のエンジニアが開発しやすい環境だったことも大きかった」と秋吉氏は振り返る。
利用者2.5倍、コストは大幅減 基盤刷新で何が変わった?
エキサイトは新たな通話基盤の構築を進め、約8カ月をかけて2021年に移行を完了した。開発をリードした千葉雄介氏(テクノロジー戦略室 コンシューマーエンジニアリング部 部長)は、Twilioの通話基盤への移行において、将来の機能拡張の余地が大きく広がったことは重要なポイントだったと話す。
同社では通話基盤の移行と同時に、その拡張性を生かし、通話方式やユーザーインタフェース(UI)にも手を入れていった。従来はシステムからユーザーに電話をかける方式に限られていたが、移行後はユーザー側から発信する方式も選択できるようにした。
またインフラの移行から少し時期をずらして開発したのが、Webブラウザ間で音声やビデオによるデータ通信をするための標準技術「WebRTC」を利用してインターネット経由で通話できるアプリだ。電話回線を使わない新たな通話手段を加えることで、通信コストを抑えると同時に、ユーザーが選べる通話方式を広げた。
「まずは既存基盤のリプレースを実現する一方で、その先にはさまざまなことを試せる拡張性があった。将来を見越しながら移行を進め、実際にその後の機能拡張にもつなげられている」と千葉氏は話す。
基盤の移行後も、サービスの利用者は増え続けた。2026年現在の利用者数は、2021年の新基盤導入時と比べても約2.5倍に増えている。それでも、従来のように利用増に応じて設備を増強したり、同時接続数の上限を細かく管理したりする必要はなく、利用状況に応じて基盤を拡張できるようになった。
通話方式を見直し、ユーザー側から発信する方式やWebRTCによる通話を利用できるようになったことに加え、同時接続数を増やすための設備投資も不要になった。こうした効果によって、秋吉氏は「コスト削減効果は現在までに少なく見積もっても5億円を超えている」と説明する。
20代の利用者が大幅増に
基盤刷新によって生まれた余力は、サービスそのものの改善にも振り向けている。例えば、相談内容が多様化する中で、利用者とカウンセラー、占い師とのマッチング精度を高める仕組みを整備。決済手段の拡充や、利用者と専門家とのエンゲージメントを高める機能なども開発してきた。秋吉氏は「通信コストの負担が非常に大きかった。それを3分の1程度に削減できたことで、さまざまな機能改善のための開発に投資を振り向けられるようになった」と話す。
そうした余力の創出と通話基盤の柔軟性は、変化するユーザーのニーズに対応する上でも生きている。近年は相談内容が多様化するとともに、サービスを利用する年齢層も若年層へ広がっている。特に20代の利用者は、5〜6年前には全体の1割程度だったが、2026年現在では2〜3割程度まで増えているという。背景の一つにあるのが、コロナ禍を経た生活環境の変化だ。テレワークの普及などによって人間関係や生活の在り方が変わり、それに伴って相談内容やサービスを利用する場面も変わってきた。「若い方は経済的な事情から、できるだけ通話料金をかけたくないというニーズもあり、IP電話にも慣れている。そうしたニーズに適した選択肢を用意できたことは大きい」(秋吉氏)
刷新で生まれた余力は生成AI活用にも
サービス改善は、生成AIの活用にも広がっている。例えば、カウンセラーや占い師と利用者との相談内容を生成AIで要約し、相談後の記録作成を支援する仕組みを取り入れている。
従来、カウンセラーや占い師は相談が終わるたびに、誰からどのような相談を受け、どう回答したのかといった内容を自ら記録する必要があった。生成AI技術を使えるようになった今ではこの作業を自動生成で効率化しており、相談員が利用者との対話そのものに集中しやすい環境を整えている。相談内容を分析してサービス品質の改善に役立てたり、利用規約に反する不正利用などを検知したりする用途にもAIを活用しているという。
エキサイトにおけるAI活用は、こうした相談サービスだけにとどまらず、藤田氏によれば全社的に推進している最中だ。2026年4月には、法人向けの受託開発や社内DXを推進するDX事業部を新設。AIを活用した受託開発に取り組むとともに、社内でも既存業務をAIに置き換える取り組みを進めている。「グループ会社も含めて、既存の業務をAIに置き換え、業務改善につなげる取り組みをかなり細かな粒度で進めている」と藤田氏は説明する。
約20年にわたって提供してきたサービスの基盤を刷新したエキサイト。5億円を超えるコスト削減もさることながら、利用者の増加に伴って設備や運用の負担も膨らむ構造を見直し、サービス改善に開発リソースを振り向けられるようになったことも重要な変化だ。
基盤刷新によって、エキサイトはWebRTCを使った通話方式を追加するなど、ユーザーのニーズの変化に応じて新たな機能を開発できるようになった。単なるインフラの置き換えやコスト削減にとどめず、その後のサービス改善や事業成長まで見据えて基盤をどう設計するか。エキサイトの取り組みは、その一つの参考になりそうだ。
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