「SD-WANでネットワーク全面刷新」の計画が失敗だった理由 なぜ“閉域網との二刀流”に?:エイチ・ツー・オー リテイリングが得た教訓(2/2 ページ)
クラウド活用の拡大に伴い、従来のデータセンター中心のネットワークに限界が見え始めたエイチ・ツー・オー リテイリング。当初は「SD-WAN」の全社展開による刷新を計画したが、パイロット導入で想定外の問題に直面し、事業特性に応じた「二刀流」ネットワークへと方向転換。そのいきさつを追う。
「二刀流」ネットワークへの転換
森岡氏は、「2つの問題により新しいネットワークに対する信頼が大きく揺らいでしまった」と振り返り、このパイロット導入の失敗から、1つの教訓を得たとする。SD-WANのような最新技術を全店に一律導入すれば全ての課題が解決するというのは、インフラ側の勝手な思い込みだった、ということだ。
そこで全社統一という理想ではなく、事業特性に合わせて軌道修正し、“二刀流”戦略にシフトすることにしたという。
同社は事業ごとにネットワーク要件を整理し直した。百貨店では、動画配信や大容量コンテンツなどを扱うための広帯域幅の通信ができることに加え、新たな施策やサービスに合わせてネットワーク構成を柔軟かつ迅速に変更できることを重視した。
一方、食品スーパーでは、POSシステムや発注端末など比較的通信量の少ない業務が中心であるため、高機能なネットワークは不要と判断した。多数の店舗へ展開することを踏まえ、導入や運用のしやすさとコスト削減できることを重視した。
こうした要件の違いを踏まえ、百貨店向けの「高機能WAN」にはSD-WANとそれによるローカルブレークアウトを採用した。複数回線をActive/Activeで利用するとともに、アプリケーションに応じて経路を振り分けるルーティングによって、通信量の増加やネットワーク変更に対応できる構成とした。
一方、食品スーパー向けの「標準WAN」には閉域網を採用した。インターネット接続には、データセンターを経由せず、閉域網から通信事業者のゲートウェイを介してインターネットに接続する「キャリアブレークアウト」を採用している。
次なる挑戦として「ゼロトラスト2.0」と「BCP強化」
エイチ・ツー・オー リテイリングの今後の挑戦として、森岡氏は「ゼロトラスト2.0」と「BCP」(事業継続計画)の強化を挙げる。同社は2021年に「Zscaler」を導入し、ゼロトラスト化を進めてきた。ただし、ローカルブレークアウトを利用する通信にはZscalerを介したセキュリティ制御を適用する一方、閉域網を経由する通信には従来型の境界防御が残っていた。
そこで、昨今の脆弱(ぜいじゃく)性を突く攻撃やランサムウェア(身代金要求型マルウェア)攻撃の増加を踏まえ、閉域網を含む通信を監視できる環境への移行と、攻撃対象となり得るVPN(仮想プライベートネットワーク)機器の廃止を進めることにした。閉域網からの通信もZscalerを経由する構成に変更することで、クライアントソフトウェアを導入していないPOS端末なども含め、通信経路にかかわらず共通のセキュリティポリシーを適用できるようにする。
BCP強化では、ランサムウェア被害を教訓に、社内のクラウド環境においても通信を細かく分割するマイクロセグメンテーションを実施。万が一のときにも被害を最小限にすることを目的に、安全にシステムを復旧できるバックアップサイトの構築、および運用ベンダーを含めた復旧手順の確立を進めている。
SD-WANの失敗から何を学んだか――3つの教訓
エイチ・ツー・オー リテイリングが、今回のネットワーク刷新で得た教訓は、以下の3つ。
教訓1:アーキテクチャはビジネスモデルに従う
最先端の「単一ソリューション」を全社に強制してはならない。相反する事業特性に応じた仕組みで応える。
教訓2:早く失敗し、現実的に軌道修正する
パイロットにより課題を早期検出し、真摯に向き合ったことが、最適化された構成への転換を生んだ。
教訓3:多様性は「セキュリティ」で束ねる
ネットワークが多様化しても「ゼロトラスト」という統一レイヤーを持つことで、ガバナンスとアジリティは両立できる。
森岡氏は「事業はこれからも新しいデジタルサービスやコンテンツを生み出していく。それを支えるためのインフラの刷新に終わりはない」と述べ、ネットワークを含むインフラの継続的な見直しが必要だと強調した。
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