「SD-WANでネットワーク全面刷新」の計画が失敗だった理由 なぜ“閉域網との二刀流”に?:エイチ・ツー・オー リテイリングが得た教訓(1/2 ページ)
クラウド活用の拡大に伴い、従来のデータセンター中心のネットワークに限界が見え始めたエイチ・ツー・オー リテイリング。当初は「SD-WAN」の全社展開による刷新を計画したが、パイロット導入で想定外の問題に直面し、事業特性に応じた「二刀流」ネットワークへと方向転換。そのいきさつを追う。
阪急・阪神百貨店をはじめ、食品スーパーマーケット(以下、食品スーパー)などを全国に約500店舗展開するエイチ・ツー・オー リテイリング。
同社は当初、「SD-WAN」(ソフトウェア定義ネットワーク)を全社展開する構想を描いていたが、パイロット導入で想定外の課題に直面。そこから、事業特性に応じてネットワークを使い分ける「二刀流ネットワーク」戦略へと方向転換した。その経緯を「@IT NETWORK Live 2026 春」で明かした。
エイチ・ツー・オー リテイリングは小売業を中核に、100年以上にわたって関西を中心に事業を展開してきた。それぞれの顧客に合わせた価値や体験を提供する「コミュニケーションリテイラー」を目指し、IT・デジタル技術の活用を進めている。
「二刀流ネットワーク」戦略を推進したエイチ・ツー・オー リテイリング。森岡邦之氏(IT・デジタル推進グループ ITマネジメント室 ネットワークセキュリティマネジメント部長)が説明(エイチ・ツー・オー リテイリング講演より)
同社の森岡邦之氏(IT・デジタル推進グループ ITマネジメント室 ネットワークセキュリティマネジメント部長)は、従来のデータセンターを中心とした環境からクラウドを活用した環境へ移行し、それを支える通信基盤も刷新する必要があったと振り返る。
通信帯域は枯渇、コスト増加やWAN複雑化も
エイチ・ツー・オー リテイリングは、2021〜2023年度に243億円を投じ、マルチクラウド基盤を構築した。データセンターで稼働していたシステムを順次クラウドに移行するとともに、「EDR」(Endpoint Detection and Response)や「SSE」(Security Service Edge)を導入するなど、セキュリティ対策も強化してきた。2024〜2026年度には259億円を投じ、構築したIT・デジタル基盤を活用した事業変革を進めている。
こうしたクラウド活用やデジタル施策の拡大を支えるため、エイチ・ツー・オー リテイリングはネットワークの刷新に着手した。従来のデータセンターを中心としたネットワーク構成では、以下のような3つの壁に直面していたと森岡氏は説明する。
(1)通信帯域の枯渇
各店舗や事務所からの通信をいったんデータセンターに集約してからインターネットに接続する構成だった。そのためクラウドサービスの利用拡大に伴ってインターネット向けの通信が増加した結果、データセンターの出口がボトルネックになった。日常的に帯域が逼迫(ひっぱく)し、店舗の業務端末からインターネットに接続できなくなることもあった。
(2)高コスト化
データセンターの機器やシステムを自社で保有、運用することによるコストと調達の問題があった。インフラの維持に継続的なコストがかかるだけでなく、コロナ禍ではハードウェアの調達に遅延が生じ、ビジネス側からの新たな要求に対して、迅速に対応することが難しくなっていた。
(3)複雑なWAN設計
合併などに伴って複数のネットワークを継ぎはぎする形で利用してきた。その結果、ネットワーク全体が複雑になり、新たなデジタル施策やシステムを導入する際にも、ネットワークを容易に変更できない状態になっていた。
全社SD-WANを目指すも断念、その理由は?
こうした課題の解決に向け、2020年に全拠点へのSD-WAN導入、およびローカルブレークアウトの導入を進めることを決定した。狙いは3つあった。
- WAN集約によるシンプルな設計と広帯域インターネット回線の利用
- データセンターを経由しない直結経路の確保
- アプリ単位での精緻なパフォーマンス可視化と遅延検知
並行してエイチ・ツー・オー リテイリングでは、顧客データの統合やグループ共通IDの導入、標準PCやスマートフォンの全社配備、業務の電子化、マルチクラウド化など、IT・デジタル基盤の整備を進めていた。
こうしたデジタル活用を支える通信基盤として、SD-WANを全社に展開する構想だったが、食品スーパーの一部店舗でSD-WANをパイロット導入すると、当初の計画を見直すきっかけとなる2つの問題が明らかになった。
1つ目がコスト増による事業側の反発だ。SD-WANの構築には、専用機器とライセンス、導入コストがかかる。また店舗ネットワークを刷新するためLAN構築費用も必要になり、1店舗当たりのコストが想定以上に高額になるため、費用対効果の面から全面的な見直しが必要だった。
2つ目が想定外の通信品質だ。選定したベストエフォート回線に通信品質の問題が発生し、日中に通信遅延が発生するためPOSシステムが動かないなどの問題が発生した。
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