「大きな靴」に導かれ、高卒の技能実習生が1000人超のAI-BPOトップへ:Go AbekawaのGo Global! ユイさん from ベトナム(3/3 ページ)
将来は工場で小さなチームを任せてもらえたらいいな――大学進学を諦めた青年は、小さな夢を抱いて日本にやってきた。だが、周囲が履かせてくれた「大きな靴」は、青年を想像もしていなかった世界へ導いた。
学歴という「肩書」は、いまの私には不要だ
高卒からたたき上げでグローバルIT企業のトップリーダーとなったユイさんだが、「学歴が無意味だ」とは決して言わない。
「大卒ではない人が成功できたら、大卒だったらもっと成功できると思います。だから、どの道でもどの会社でも頑張る必要があります」
学歴のハンディーを乗り越えてきたユイさんだが、取材中何度も「大卒ではないけれど」という言葉が出てきた。本当は大学にいきたかったのだろう。いまから進学することは考えていないのだろうか。
「いまは4年間の大学の勉強よりも、新しい技術や今の仕事に役立つ勉強の方を優先しています。学歴という肩書よりも、実際に役立つ知識や実績の方が欲しいです」
「工場で小さなチームを任せてもらえたら」と願っていた19歳の青年は、いまや1300人の組織を指揮し、AIと人間が協働する次世代BPOの未来を描いている。
しかし、彼の挑戦はここでは終わらない。
「現在いる1300人のスタッフを、10倍の1万人の規模にしたいです。本当の影響力を持つリーダーになり、担当する領域、売り上げ、スタッフの規模を大きくして、社会に貢献していきたいです」
ユイさんの足元には、かつて与えられた「大き過ぎる靴」が、いまやぴったりと収まっている。彼はさらに大きな靴を履き直し、ベトナムと日本のIT産業の未来へ向かって、力強く歩み続けていく。
Go's Thinking Aloud
「私はラッキーだった」インタビュー中、ユイさんは繰り返した。技能実習生に選ばれ、造船業に携わることができた、IT企業に就職した、日本とダナンで仕事ができ、良き妻とかわいい2人の娘に恵まれた、と。
そうおっしゃる方は必ず、人知れず努力を重ねている。苦労が分かるから他人もおもんぱかることができ、その謙虚さ、真面目さが、新たな機会を連れてきてくれる。ユイさんは間違いなく、自らの力で訪れた機会を確実につかみ、自らの地平線を越えてきた。
「大学にはいっていない」とも話してくれた。大学にいっていなくとも素晴らしいエンジニアもいれば、大学にいっているのにうまくいかない人もいる。大学にいく/いかないではなく、何を学ぼうと決め、学ぶための道を自らの力で開くかどうかだ。AI時代の今こそ、自らの学ぶ力、人間本体の力が求められる。
私は大学の教員だが、従来型の大学は早晩なくなるのではないかと夢想する。大学にいったというより、インタフェースはMIT、AIはスタンフォード、マーケティングはインシアード、文学はオックスフォード、ゲーム制作はデジタルハリウッド、各種の実務や実学は企業が提供する実践講座など、個々のMOOCsを修了したことの方が、どこどこ大学卒業よりも意味のあるものになるのではないか。ユイさんのキャリアは、そんなモデルを先取りしている。もちろん、その朗らかな笑顔、飾らない人柄、恩師や同僚へ感謝を忘れないことも、大きな武器であることは論をまたない。
阿部川“Go”久広
アイティメディア 事業開発局 グローバルビジネス戦略担当、情報経営イノベーション専門職大学(iU)学部長、教授、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)元特任教授、インタビュアー、作家、翻訳家
コンサルタントを経て、AppleやDisneyなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時から通訳、翻訳も行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在、iU情報経営イノベーション専門職大学の学部長、教授も兼務し、多くの企業とプロジェクトを推進。元神戸大学経営学部非常勤講師、元立教大学大学院MBAコース非常勤講師。ビジネスや起業のコンサルティング、英語やコミュニケーション、プレゼンテーションのトレーナーの他、作家、翻訳家としても活躍中。
編集部鈴木の Editor's view
良い大学に進学できるか否か。アジアの国々の若者にとって、これは切実な問題だ。どこの大学を卒業したかで、就職できるレイヤーが決まり、生涯年収が大きく変わる。良い大学に進学して良い人生を歩むために、中学高校は記憶もないほど勉強をした、大学入試時の試験の点数は一生忘れない。そういう話はGo Globalの取材で何度も聞いてきた。
だがユイさんは、こうした中国やインドの苛烈な受験戦争とはまた別の事情で、大学進学を諦めなければならなかった。ベトナム全土がまだ貧しく成長段階にあった1990年当時、大学進学は望んでもかなえられない「夢」だった。
だがユイさんは、その状況にくさったりグレたりすることなく(グレるにも、一定の金銭は必要だ)、農作業や建設現場からスタートし、造船現場でプロセス順守の大切さと日本語を学び、IT企業でPCとプロジェクト運営を学び、大規模プロジェクトを導くリーダーになった。
1300人を超えるプロジェクトメンバーの多くは、故郷ベトナム勤務のオフショアスタッフだ。彼は故郷に雇用を生み、かつての彼のような貧困から何かを諦めなければならない人をなくそうとしている。「故郷に錦を飾る」とは、まさに彼のことだろう。
編集部から
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