企業コミュニケーションにおける本当の課題 リアルコム
ここで企業コミュニケーションにおけるツールの活用について、巷間よく指摘される問題の例をいくつか挙げてみよう。
コミュニケーションの効果を計測するのは、難しいものだということは直感的にも理解できるだろう。 しかしこれは、コミュニケーションに限った話ではない。電子メールを全社で利用するようになったとき、ERPを導入したとき、IP電話に置き換えたとき、そのほかイントラネットやグループウェア、ナレッジマネジメント・ソフト、企業ポータルなどさまざまなITソリューションに対して、どれほどの効果があったのかをきちんと把握・検証した、あるいはしようとした企業はどれほどあるだろうか。何らかの効果を計測する仕組みや方法論があるのではないだろうか。
新しい社内外コミュニケーション、情報共有ツールとして、企業内でもブログを活用しようという動きが活発化してきた。過去似たような試みとして、ナレッジマネジメント・ソフトやイントラネット、企業情報ポータルなどがあったが、その成否のポイントは“コンテンツ”である。コンテンツの量、質、タイミングなどが適切で役立つレベルに達しているかどうかが重要だ。 ところが、いざ資料をまとめてイントラネットに掲載しよう、ブログに自分の興味ある技術分野の記事を投稿しようとすると、どうしてもある一定の時間を割かなければならない。頻繁にコンテンツを掲載・更新している人が「あいつは仕事をしていないんじゃないか」「そんなことをしている暇があったら得意先へ行け」といった批判を(評価基準なしに)受けてしまうようでは、本人のモチベーションダウンにもなるし、コンテンツの質・量の向上は望めない。 また知識や情報を提供する側としても、「これは自分が半年かけて調査した。まとめるのも苦労した。それを他人に公開して、いとも簡単に利用されてしまうなんて!」「社内では自分だけが知っている。これで周りを出し抜こう」といった感情や思惑から、社内で公開することを避ける人もいるだろう。
電子メールが登場した際、あるいはPC1人1台環境となりネットワークへの常時接続が当たり前となった際にも議論されたが、各種ツールや機器の私的利用の問題もある。最近ではメール、Web閲覧(ブログ含む)に加え、IM(インスタント・メッセージング)も私的利用を把握すべき対象になってきている。 ブログなどへの記事投稿のうち、どこまでが会社としてのオフィシャルな情報発信で、どこからが個人としての意見表明なのか、という公私の切り分けという問題もある。社名を冠したブログに書いた不適切な記事により、顧客から苦情が来てトラブルになる例はよく見られる。あるいは従業員が個人ブログに書いた記事が情報漏えいにつながり、最終的にはその従業員が解雇されてしまうといった事例も実際に存在している。
ある企業で起こったことを紹介しよう。その会社のWebサイト上にあるページのリンクがうまく動作せず、「エラーになってしまう」という連絡が取引先からあった。ところがそれを受けた社員は、「至急対応されたい」という連絡をイントラネット上の掲示板に投稿したのである。 投稿された記事内容は、投稿と同時に担当者に電子メールでも届く仕組みにはなっていたものの、担当者がその掲示板あるいはメールを見ない限り、“至急”には対応されない。本来は直接、担当者に一言いえば済む話である。できれば対面でのコミュニケーションが良いだろうし、フロアや拠点が違うのであれば電話やIMでもよい。 結果、対応が遅れれば「すぐに掲示板(メール)を見ない担当者が悪い」ということになりがちだ。このときの担当者の心情は、「至急というなら、口頭でいってくれればすぐ対応できるのに……」だろう。コミュニケーションツールの特性に対する理解不足によって、職場の人間関係が悪くなってしまっては、ツール導入が本末転倒な結果を導くことになってしまうことになる。 とりわけIT関連企業や情報システム部など、比較的ITリテラシーが高いメンバーが集まる組織においては、「リアルなコミュニケーション」ではなく、ついつい電子メールを書いたりIMを送ったりと、「IP上のコミュニケーション」に頼りがちだ。その一方で「メールを送ったのに、何ですぐに返事をしない!」と怒ったりする。ITツールにデータをポストするということと、人間に何かを伝える/理解してもらうということは本質的には別次元の話だという“根本理解”がなければ、問題は繰り返されるだろう。
上記のような問題点を解決する方策を考えるに当たり、大枠では次のようにまとめておくことができるだろう。
次に、この目標を実現するに当たって、障害となっているものや現在抱えている課題を検討する。「革新的な製品やサービスが生み出されていない」といったことが挙げられるかもしれない。ここで注意すべきことは、投資効果を判断するために課題を解決する前とした後の評価指標をしっかり定めておくことである。これは、できるだけ定量的に計測できるものが好ましい。製品やサービスの特性にもよるが、製品ごとの利益率や、製品発表の頻度、顧客満足度(指標を設けること)などが該当するだろう。 そして最後に、その課題を解決する策を練る。結果として、「新しいアイデアを発表したり、共有したりする仕組みを作ること」といった、具体的な解決策に落とし込む。ポータル導入など、「仕組みを作ること」を目標にしてしまうと、課題には「予算がない」だとか、「上層部が(現場が)反対する」といった言い訳めいたものが登場してしまいがちである。本当に必要なものには予算も付くだろうし、全社的な目標としてトップダウンで意思決定されることもある。 課題や解決策を検討した中で、企業コミュニケーションに関係し、さらにはツールを導入することで解決できると判断できれば、具体的な導入に向かって実行開始である。そこで2.と3.が絡んでくる。次回以降で提示する、さまざまなツールのメリット/デメリットや事例がツール選定やポリシー設定の参考になるだろう。 なお、ITツールを利用しない方法──リアルなコミュニケーションの場を意識的に設けるというのは、重要で効果的な施策である。会議体の設置、会議の運営方法なども社内のコミュニケーションや意思決定にとって重要なテーマだが、本連載では取り上げない。 ◇ 今回は第1回として、社内コミュニケーションとツールの活用に関しての現状と課題を整理し、解決へ至る考え方について概説した。企業ではさまざまな取り組みがなされてはいるが、まだいくつかの課題がある。そこで、そもそも達成したい組織の目標について再考しようという問題提起を行った。 次回は、電子メール、IM、グループウェア/ポータル、Web会議など各種のコミュニケーションツールが持つ利点と陥りやすい問題点および限界点などについて解説していく。
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