Database Watch 6月版 Page 2/2
蛇と蛙とナメクジ、そしてデータベースは進化する
加山恵美
2007/6/15
■蛇の威嚇、蛙とナメクジの抵抗
しかし、どれか弱点があったとしても、大抵は他者と比較すれば劣る(かもしれない)というレベルで実用に堪えないというものではありません。それにどの製品も弱点をうまくカバーするように改善を重ねており、最近ではその差が分かりにくくなってきています。そこでふと想像をめぐらせてみました。
もしかしたら蛇は余裕で顧客にこうささやくかもしれません。「こっちは検索も更新も強いですよ。データベースに必要なのはこういう能力でしょう? お望みならXMLのまま格納だってできますけど、ねえ、タグなんて本当に必要ですか? データが非定型なら必要なだけ列を追加すればいいじゃないですか。スカスカのテーブルになっても運用で心配することはありませんよ。どうぞこちらをお使いください」
一方、蛙とナメクジは互いににらみ合いながらも蛇に抵抗するかもしれません。「定型のデータは限られています。ユーザーの現場には非定型なデータが多くあるでしょう。それをシステム化するにはXMLのツリー構造が有利なんですよ。多少検索や更新で劣ることがあるかもしれませんが、いまなら運用に問題のないレベルのシステムを構築することができますよ。こちらだって捨てたもんじゃありません」
データベース版「三すくみ」、今後のにらみ合いから目が離せません。
■PostgreSQLの成長に日本コミュニティの貢献あり?
次はPostgreSQLに話を移しましょう。先ほどのネイティブXMLデータベースではありませんが、オープンソースRDBMSにも「多機能」対「高性能」という対立軸がありました。PostgreSQLは多機能が強みですが、どっこい近年ではパフォーマンス向上にも相当力を入れています。その実力は先日の@ITニュース「「R25」サイトをPostgreSQLで構築、リクルートはOSSをこう考える」にあるように、月間約1.2億PVもある人気の高い「R25」および「L25」のサイトでPostgreSQLが採用されるほどです。
6月5日に開催されたPostgreSQLカンファレンス 2007ではPostgreSQLコアチームのJosh Berkus氏が来日し、冒頭に「11年前にPostgreSQLが誕生したばかりのころ、こんなにPostgreSQLが成長するとは思わなかった」と述べていました。なにせ11年前のPostgreSQL開発者といえばまだほんの一握りしかいなかったのに、昨年の10周年記念式典には世界各地から開発者が大勢詰めかけるようになったのです。さぞ感無量でしょう。
いまでは機能や性能だけではなく、コミュニティも大きく成長しました。日本にPostgreSQLユーザ会があるように、世界各地にPostgreSQLのコミュニティが誕生しています。ところでご存じでしょうか。世界のPostgreSQL管理者の約半数は日本にいるそうです。加えて毎年PostgreSQLのカンファレンスを開催するのは北米を除けば日本くらいだそうです。PostgreSQLの発展は日本のコミュニティの貢献が大きいといえるかもしれません。
■パフォーマンスで首位を目指すPostgreSQL
さて今後PostgreSQLはどうなるのでしょうか。現在正式版として公開されている最新版はPostgreSQL 8.2です。2007年4月に8.3の機能を確定し、後は開発作業を進めていくだけになりました。正式版の公開は2007年10月あたりを予定しているそうです。Berkus氏は「いまでは開発や検証に参加してくれる人や企業が増えたため、予定どおりに開発が進むようになってきました。いまや8.3は機能確定したため、(まだリリースしていないのに)もう8.4のことを考えている人がいるくらいです」と笑いながら述べていました。予定どおりにいけば(鬼が笑いそうですが)、8.4も同様に2008年4月ごろに機能を確定して同年8月から10月の間にリリースする予定だそうです。
スケジュールはともかく、8.3の新機能やいかに。最も力が入っているのはパフォーマンス向上でしょう。MLでもイベントでも常にパフォーマンスが話題になっているそうです。VACUUM処理のインデックス再作成にかかる時間の短縮、UPDATE処理を効率化するHOT(Heap Only Tuples)、Checkpointの改良などを行い、ほかのRDBMSを超えるパフォーマンスを目指しています。これ、かなり本気みたいです。加えてデータベースサイズは8.3では8テラバイト、8.4では20テラバイトへと拡大し、大容量化も目指しています。
パフォーマンスだけではありません。新機能をどん欲なまでに盛り込んできたPostgreSQLらしい文化も健在です。8.3ではXML機能や全文検索機能も強化するようです。加えて開発者向けツールも拡張し、MySQLからのマイグレーションを容易にするENUMsやPL/pgSQLデバッガなども開発しています。近い将来PostgreSQLは名実ともに巨像へと大成長するかもしれません。
ではまた来月、お会いしましょう。
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Index | |
連載 Database Watch 6月版 蛇と蛙とナメクジ、そしてデータベースは進化する |
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Page 1 ・大規模で検索に強いネイティブXMLデータベース ・非定型なデータにXMLは強みを発揮する ・検索か、更新か、自由度か |
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Page 2 ・蛇の威嚇、蛙とナメクジの抵抗 ・PostgreSQLの成長に日本コミュニティの貢献あり? ・パフォーマンスで首位を目指すPostgreSQL |
Database Watch |
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