日米大手銀行がLinuxを採用したそれぞれのワケ
 〜 IPAフォーラムに見るオープンソース導入事例 〜



高橋 睦美
@IT編集部
2007/11/6

管理コストの削減――三菱東京UFJ銀行の場合

 続いて、UFJISのオープンプラットフォーム部プロジェクトリーダー、板倉和宏氏が、三菱東京UFJ銀行におけるLinuxやオープンソースソフトウェア導入の経緯について説明した。UFJISは、三菱東京UFJ銀行/フィナンシャル・グループのITシステム企画、開発および保守を行っている。

 三菱東京UFJフィナンシャル・グループでは、2003年よりLinuxの導入を開始した。まず情報系システムから始まり、次いで銀行内の勘定系システムでも採用。2005年からは、顧客に直接サービスを提供するという意味でミッションクリティカルなサービスである「ダイレクトバンキング」にも適用した。

 同行の場合も、Linux導入を検討するきっかけはコストだった。数多くのシステムが林立した結果、運用管理コストが増大するという課題に直面していたという。IAサーバの性能向上という背景も踏まえ、「ブレードサーバにLinuxを搭載し、再構築することでTCO削減を図った」(板倉氏)。UNIX上で稼働していたレガシーアプリケーションとの互換性が課題となったが、これはJavaで再構築したという。

 最初の導入時には、事前に2カ月をかけてUNIX/RISCプロセッサと比べての検証を行った。2003年当時の結果だが、コストは2分の1、性能は2倍以上という上々の成果が得られたことを踏まえ、本格的な導入を開始したという。

 2003年7月より、それまでばらばらだった情報系システムを、グループ全体にまたがる「総合金融プラットフォーム」としてLinux上で再構築する作業に取りかかった。このシステムは9月にカットオーバーし、1つの基盤上で12種類の業務アプリケーションを提供できるようになった。現在では、50を超すシステムが100台以上のLinuxサーバ上で稼働しているという。

拡張保守契約で信頼を確保

 一連の取り組みの中で最も大きな課題として浮上したのは、障害対応だった。「適用範囲を拡大するにつれ、それまで見えてこなかった問題も顕在化してきた。その解決のための資料もなかなか見つからず、一時期Linuxへの信頼が低下した時期もあった」(板倉氏)

ゴールデン氏
UFJISのオープンプラットフォーム部プロジェクトリーダー、板倉和宏氏

 これを解決するために同社が取った手段は、メーカーやシステムインテグレータ、障害解析専門の業者などとの間で拡張保守契約を結ぶことだった。

 現実に障害が発生してしまえば、Linuxのメインラインにパッチが取り込まれるまで待つわけにはいかない。システムクラッシュなどに至る深刻な障害の場合は、保守契約に基づいて個別にパッチを作成してもらって適用したり、個別にパラメータを調整して対応したこともあったという。

 1つの例が、メモリアクセスの排他制御の不具合によってシステムクラッシュやデータ破壊が引き起こされるトラブルだった。今でこそ、ディストリビュータが提供するセキュリティアップデートによって公式な修正が取り込み済みだが、障害発生当時はそれもない。サポートベンダに「すぐ動く個別修正パッチ」を作成してもらい、対応したという。

 並行して、グループとしての「スタンダード」を作成し、標準的なシステム構築を支援していった。「『何がなんでもLinux』というわけではないが、スキルを集中させ、ベンダによるロックインを避けるという意味でも、Linuxを優先するという基本方針を取っている」(同氏)

■コラム 「本当に信頼できるの?」という先入観

 IPA OSSセンター、センター長の田代秀一氏はフォーラムの中で、オープンソースソフトウェアを巡る不安の解消や標準化の推進といった取り組みを推進していきたいと述べている。

 同氏によると、オープンソースソフトウェアはこれまで主に、メールやWebといった比較的使いやすいところから広がってきた。しかしいま、適用領域は「ミドルウェア、さらにはミッションクリティカルなエリアへと急速に拡大しつつある」(同氏)。現に、法務省の登記システムや東京証券取引所などでもLinux採用の動きがある。

 しかし、まだ絶対数としては少ない。その理由を田代氏は次のように述べた。「やはり人材の不足がある。またそれと関連して、サポートへの不安や相互運用性といった課題がある。そして、『ただなのに本当に信頼できるのか?』といった信頼性への懸念がある。これはロジカルな決断と言うよりも、先入観的なところがあるかもしれない」

 これに対しIPAでは、「正しい公正な情報を提供することで、不安の解消を図っていきたい」と述べた。また、オープンな標準を推進し、公正な競争環境を確保する取り組みも進めていくという。具体的には、3月に公開された「情報システムに係る政府調達の基本指針」(政府調達ガイドライン)を踏まえ、オープンスタンダードに基づく公平な調達を支援する「情報システムに係る相互運用性フレームワーク」などを通じて、相互運用性の確保を支援するほか、技術参照モデルフレームワーク(TRM:Technical Reference Model)を通じて、ユーザー自身がきちんと仕様書/調達書をまとめられるよう支援したいという。


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日米大手銀行がLinuxを採用したそれぞれのワケ
 〜 IPAフォーラムに見るオープンソース導入事例 〜
  Page 1
オープンソースはイノベーションを生む
コスト削減と管理効率向上――バンク・オブ・アメリカの場合
 コントロール可能な「標準イメージ」
 オープンソースでできること、できないことの見極めを
  Page 2
管理コストの削減――三菱東京UFJ銀行の場合
 拡張保守契約で信頼を確保
コラム 「本当に信頼できるの?」という先入観

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