連載:IEEE無線規格を整理する(4)
〜ワイヤレスネットワークの最新技術と将来展望〜

高速化とメッシュ化へ進展する無線LAN


千葉大学大学院  阪田史郎
2005/11/15


 4. 超高速無線LAN

 2002年5月にHT-SG (High Throughput - Study Group) が発足し、2003年9月にIEEE 802.11nが設置されている。要求条件としては、

  • PHY、MACの仕様検討により、MAC-SAP(Service Access Point: アプリケーションレベルでの実行伝送) でのデータ速度が100Mbps以上
     (物理レイヤの変調方式による高速化は限界とされ、MACレイヤの変更が必須と考えられている)
  • IEEE 802.11b、gなどに対する下位互換性(バックワードコンパチビリティ、OFDMベース)を持つ
  • 高周波数利用効率(1Hz当たり3ビット以上)
  • 5GHz帯の利用が有力

が挙げられている。これらの要求条件を満たすための高速化に向けた変復調技術については、

  • 複数バンド技術: 2つ以上のバンドを束ねて使用することで高速化(IEEE 802.11a、 802.11bでは20MHz帯域が基本バンド)
  • 空間多重技術: MIMO(Multi Input Multi Output)すなわち、複数のアンテナを用いて複数のデータを同時に送受信し、信号処理によってデータを復調
  • 新誤り訂正技術: 現在(IEEE 802.11a、 802.11gでは拘束長7の畳み込み符号)よりも訂正能力の高い誤り訂正符号。第3世代携帯電話網で用いられているターボ符号やLDPC(Low Density Parity Check code、低密度パリティ検査符号)が候補

の各技術の適用が検討されている。これらの技術のほとんどが、第4世代携帯電話網(4G)と共通するものである。

 なお、IEEE 802.11n準拠の超高速無線LANに関し、2003年から2004年にかけて米国のベンダを中心に、WWiSE(World Wide Spectrum Efficiency)、TGn Syncの2つの業界団体が相次いで設立された。これらの業界団体が提案する2つの方式に加え、MITMOTと呼ぶ方式が標準案として検討されている。これらの3方式はいずれもMIMOをベースとしている。2006年中の仕様の統一を目指し、調整が進められている。

 5. メッシュネットワーク

 32個以下を想定したアクセスポイントをメッシュ状に接続しマルチホップで通信する方式を検討するためのIEEE 802.11sが2004年5月に発足した。メッシュネットワークは、アドホックネットワークとほぼ同義で用いられる。メッシュネットワークの利点として、

  • 通信距離を短くすることにより通信による電力消費を削減(消費電力は通信距離の2〜4乗に比例)
  • 通信頻度低減による省電力化
  • 迂回経路による信頼性向上
  • アクセスポイントやサーバノードへの処理集中を防ぐことによる信頼性向上、負荷分散による性能向上
  • 電波出力を上げることなく通信範囲の拡大が可能

が挙げられる。現在、ホーム、オフィス、キャンパス/コミュニティ/公衆アクセス、災害現場、軍事利用を対象に、主に以下のMAC層の拡張項目について議論が進められている。図6にIEEE 802.11無線LANメッシュネットワークの構成、図7に無線LANメッシュネットワークのアーキテクチャを示す。
図6 IEEE 802.11無線LANメッシュネットワークの構成

図7 IEEE 802.11sアーキテクチャ

  • MACの基本拡張 --- ビーコン(自端末の存在や状態をほかの端末に知らせるためのフレーム)の衝突制御、隠れ端末/さらされ端末問題など
  • ルーティング/フォワーディング ---現在は、IETFのMANET(Mobile Ad hoc NETwork)WGで標準化されたプロトコルの1つであるAODV(Ad hoc On-demand Distance Vector protocol)をベースに、無線LAN特有のメトリックを導入したルーティングプロトコルを採用する方向
  • QoS制御 --- シングルホップ、すなわち1つのLANの中で標準化されたIEEE 802.11eの分散制御型のEDCAをベースにマルチホップ化にした環境でQoSを制御
  • セキュリティ --- IEEE 802.11i、IEEE 802.1xはともにシングルホップにおけるセキュリティ機能に閉じており、マルチホップ特有の問題を扱う
  • ネットワークの状態監視 --- 周囲の状況を確認しながら、電波の強さやチャネルなどを調整
 6. ITS応用

  2004年5月に発足したIEEE 802.11pによって検討が進められている。DSRC(Designated Short Range Communications、日本では5.8GHz帯を利用し、現在有料道路における自動料金徴収のETCなどに用いられている)技術をベースに、車間、路車間通信による移動制御を行う。具体的な進展はこれからであるが、今後同じ目的で無線MANに移動制御に関する標準化を目指しているIEEE 802.16eとの整合が必要となる。

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次回もお楽しみに

目次:IEEEを整理する(4)
  無線LAN標準化の変遷とIEEE 802.11の今後の動向
  1. QoS制御/2 ローミング/3 セキュリティ/(1) 暗号化/(2)認証/
4.超高速無線LAN/5. メッシュネットワーク/6. ITS応用



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