SOHOでもできる環境構築とスムーズなデータ移行
小規模事業者のオフィス避難大作戦(後編)
夏川和一
2011/5/10
オンラインサービスやSaaSの活用
一部のソフトウェアに限られますが、SaaS(Software as a Service)形態でオンライン提供されるアプリを、必要な期間だけ料金を払って、あるいは無料で使用する方法もあります。
Office Web Appsはその代表例の1つです。無料のWindows Liveアカウントを作成し、同アプリのサイトにアクセスすると、Webブラウザ上で、Word、Excel、PowerPoint、OneNoteを利用できます。作成したファイルはSkyDriveと呼ばれるオンラインストレージに保存されます。
ただし、Webアプリケーション版でパッケージ版の全機能が提供されるわけではないため、自分が必要とする機能が含まれているかどうかあらかじめ確認する必要があります。
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図16 Word Web Appの動作画面 |
関連リンク: | |
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Office Web アプリケーション http://office.microsoft.com/ja-jp/web-apps/ |
この他にも、Google Docsをはじめとする各種の文書作成アプリ、Photoshop Expressのような写真レタッチアプリ、変わったところではWebサービスを安全に使用するためのアンチウイルスやWAF(Web Application Firewall)などにも、SaaS形態で提供されているものがあります。
また、これは次項とも関連しますが、オンラインストレージサービスやクラウドホスティングサービスも、上手に利用すれば拠点間の情報共有に役立ちます。ベース拠点とサテライト拠点で単純なデータ共有が必要な場合は、オンラインストレージサービスを利用すれば簡単で安上がりです。
またストレージサービスに高い柔軟性が必要な場合や、単なるストレージでは事足りず、より複雑な処理を両拠点から行いたい場合は、Amazon Web Servicesなどの手軽に使えるクラウドサービスを利用する方法もあります。これらクラウドサービスは、Linuxなど、ユーザーが選択したOSを搭載した仮想サーバがそのままの形で提供されるのが一般的です。そのため、ユーザー自身でそのサーバを設定するスキルが必要です。
関連リンク: | |
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Amazon Web Services http://aws.amazon.com/jp/ |
オンラインサービス利用時には、いくつか注意すべき点があります。
まず、拠点のネットワークが故障した場合や、サービス自体がダウンした時は、当然、関連する作業ができなくなってしまいますが、それでも業務に支障がないかを検討します。またオンラインサービス利用時は、処理対象のデータを第三者に渡すことになりますので、機密性の観点から問題がないかどうかについても熟慮が必要です。
さらに、海外で提供されるサービスについては、万一の際に日本の法律が適用されないことから、日本での常識が通用しない可能性も高いと考えられます。これらの点を総合的に評価して、オンラインサービスを使っても大丈夫かどうかを判断します。
作業ファイルの持ち出し
作業に必要なファイルをどう持ち出すかは重要な検討事項です。サテライト拠点で行う作業の内容によって持ち出す規模が異なることから、いくつかのパターンに分けて考えるとよいと思われます。
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図17 作業ファイルの持ち出しパターン |
■@必要なフォルダがはっきりしている場合
必要なフォルダがはっきりしている場合は話が簡単で、そのフォルダをフラッシュメモリや外付けハードディスクにコピーすれば済みます。念のため、Windowsが備えている検索機能を使用して、作成日時がここ数カ月〜数年程度のファイルを探し出し、コピーしたフォルダ以外に入っているもので見落としがないか確認するとよいでしょう。
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図18 マイドキュメントから1月以降のテキストを検索した例 |
■Aデータはマイドキュメントかデスクトップにある場合
自分で作ったすべてのデータが、マイドキュメントかデスクトップのどちらかに入っている場合も、作業ファイルの持ち出しは難しくありません。マイドキュメントとデスクトップの内容を、丸ごとフラッシュメモリや外付けハードディスクにコピーすればOKです。デスクトップのファイルをコピーする際は、マイドキュメントを開いて1階層上に移ってデスクトップの一覧を表示すると、作業が楽にできます。@と同様に検索機能を使って、見落としがないか確認すると安心です。
■Bバックアップテープやバックアップディスクがある場合
日常的にPCのバックアップを作成している場合は、そのテープやディスクを持ち出す方法もあります。一般にバックアップには必要なデータがすべて含まれるため、見落としが発生しないという長所があります。一方で、すべてのデータを持ち出すことになるため、テープやディスクに機密性の高いデータが含まれる場合は、その取り扱いに十分注意しなければなりません。
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図19 バックアップメディアの取り扱いには格段の注意を |
また特にテープの場合は、サテライト拠点でテープドライブを準備できるかどうかについて検討が必要です。また、インクリメンタルバックアップ(差分バックアップ)をしている場合は、関連するすべてのバックアップを持ち出さないとリストアできない点にも注意します。
■Cとにかく全部持ち出したい場合
バックアップはないが、とにかく全部のデータを持ち出したいならば、ディスクのクローンを作って持ち出す、あるいは対象PCのディスクを取り外してケースに入れて持ち出す方法があります。
前者はクローン作成時に間違って元ディスクに書き込むリスク、また後者は持ち出したディスクに問題が発生すると原本が損なわれるリスクがあります。これらのリスクを取っても全て持ち出す必要があるかは検討が必要です。
作業ファイルの書き戻し
サテライト拠点をたたんだ後、元のディスクへデータを書き戻すことも、あらかじめ考慮しておくとよいでしょう。
前項の@、Aについては、多くの場合、当該フォルダを丸ごと書き戻すという方法を取ることができます。ただし、データ持ち出し後にベース拠点のデータも書き換えた場合、その他のケースでは、単純な書き戻しでは済まないこともあり得ます。書き戻すだけでよいか、他の方法を取る必要があるかは、利用状況を振り返って戦略を考えなければなりません。
持ち出しの方法を問わず有効と考えられるのは同期ソフトの利用です。同期ソフトは、元フォルダ(X)と修正を含むフォルダ(Y)を比較し、同じ名前でYの方が新しいもの、XになくYにあるものを、それぞれXにコピーする機能を持っています。また、XにありYにないものをXから消すか放置するかは、選択可能となっているのが一般的です。
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図20 同期ソフトの動作イメージ |
同期ソフトは便利ですが、フォルダ指定を間違えたり、XにありYにないものを消すか放置するかの設定を間違えた場合、意図せず必要なデータが消えてしまうリスクもあります。また、データの持ち出し後、サテライト拠点と元拠点の両方でデータを更新した場合、正常に同期できないことが一般的です。使用の際にはこれらの点に注意しなければなりません。
関連リンク: | |
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CopyTo Synchronizer http://www.kish-d.com/index-j.html |
2回に渡って、サテライト拠点構築の際に自分自身が頭を悩ませたことを、簡単に書かせていただきました。実際の拠点構築では、ここに書いた共通的な事項のほかに、業務形態や利用環境に応じた独自の検討や作業が必要かと思います。やるべきことが多い中、前者を簡単に済ませ、後者にエネルギーを注ぐためにも、この記事がお役に立てれば幸いです。
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小規模事業者のオフィス避難大作戦(後編) | |
ソフトウェアやデータを整える | |
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オンラインサービスやSaaSの活用 作業ファイルの持ち出し 作業ファイルの書き戻し |
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