【トレンド解説】IPv6一般利用への大きな一歩
JPドメインのDNSサーバがIPv6で参照可能に
鈴木淳也(Junya Suzuki)
2004/8/11
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■JP DNSのIPv6対応への道
数年前に国家政策として祭り上げられ華々しくスタートしたものの、その後は亀の歩みのようにひっそりと、だが着実にゴールへと歩を進めていたIPv6に、いよいよ転機がやって来たようだ。先日、日本レジストリサービス(JPRS)やICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)などから発表された情報によれば、DNS(Domain Name System)のルート・サーバのIPv6対応が完了し、IPv6によるインターネット上での名前解決が可能になったという。これにより、インターネット全体のIPv6対応への道が大きく開けたといえるだろう。
この話を聞いて、「えっ? まだIPv6で名前解決ができなかったの?」と驚かれる方も多いだろう。実際、私を含む周りのメディア関係者の多くもそう思っていたくらいだ。JPRSのプレスリリース(「JPドメイン名がTLDとして世界で初めてIPv6に完全対応」)によれば、JPドメインでは2000年3月よりすでにIPv6のアドレス登録を受け付けており、2001年8月にはDNSサーバ自身へのIPv6アドレス割り当てを行っていたという。2002年8月に、IPv6を使ってJPドメインのDNSサーバへアクセスできるようにIANA(Internet Assigned Number Authority:ICANNの前身となる組織)にルート・サーバへのIPv6アドレス登録申請を行っていたものの、技術検証の必要性から登録に手間取り、先日2004年7月20日(米国西海岸時間)になってようやく登録作業が完了し、IPv6による名前解決が可能になったという。
なぜ検証にここまで時間がかかったのだろうか。1つには、DNSというサービスの重要性が挙げられる。インターネットに接続されたほぼすべてのノードは、DNSを頼りに目的のノードを探し出し、データのやりとりを開始する。もし住所録ともいうべき存在のDNSがなければ、ノードは永遠に通信相手を探し出すことはできないだろう。ICANNらインターネットの根幹を管理する組織では、慎重に慎重を重ねて検証を行い、ようやくこのタイミングで実装を完了したというわけだ。
今回、IPv6に対応したTLD(Top Level Domain)は、「.jp」(日本)と「.kr」(韓国)の2つである。またそれに続く形で、「.fr」(フランス)もIPv6への対応も完了した。順次TLDが対応を完了させることで、IPv6で名前解決可能なDNS名(すなわちドメイン名)が増えていく形だ。
IPv6対応には、何段階かのステップが必要になる。今回の発表でのゴールまでの達成度は、70〜80%くらいだといっていいだろう。
(1) ルータなどの機器のIPv6対応(含むクライアントのIPv6対応)
(2) IPアドレスの割り当てと、ccTLD内でのIPv6対応(ルータへの実装など)
(3) ccTLD内のDNS(ルート)サーバへのIPv6割り当て
(4) ルートのIPv6対応、ルートへの(3)のアドレスの登録
(5) ルート・サーバ(root-servers.net)のIPv6登録
図1 DNSサービスのIPv6対応のステップ |
現在までのところ、この(4)までの対応が完了した形だ。(1)〜(2)の対応は2000年ごろにはすでに完了していたものの、(3)から(4)への流れでややつまずいたといえる。だが、今回の発表ですでにTLDごとのIPv6対応という関門をくぐっており、今後新たなTLDが登場したとしても、その追加作業は比較的容易になったといえるだろう。順次TLDの対応が進むことで、(5)への移行もそう遠い話ではないといえるかもしれない。
■IPv6対応をめぐる周辺の動き
今回、いち早くJPドメインがIPv6に対応し、米国などに対してこの分野でリードを広げた形になるが、IPv6対応を国策としていた日本にとっては面目躍如というところだろうか。「携帯電話から家電機器まで、すべての端末にIPアドレスを割り振る」を念頭に、情報家電へのコミットのほか、ルータなどの各種機器の開発でリードを保ってきた日本メーカーだったが、思うように普及が進まず、海外メーカーの追いつきが目立ちつつあった。
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表1 IPv6対応の米国系ネットワーク企業各社の動き |
米国では当初、IPv6導入にあまり積極的な姿勢をみせておらず、ここで日本が総力を出せば、現状でインターネット技術の根幹の多くを米国に握られている状況を打破できる可能性があった。だがここに来て、米国政府とネットワーク企業がIPv6対応に関して本腰を入れつつあり、一部分野を除いて大きく盛り返しつつあるようだ。特に、世界ルータ市場のシェアの多くを独占する米Cisco Systemsと米Juniper Networksが自身のルータ製品のIPv6完全対応を済ませたことで、初期にあった技術的優位性を保つことは難しくなったような気がする。米国防総省でも、2008年までに関連施設のIPv6対応を済ませることを目標としており、ISPやネットワーク機器メーカーに対してテスト環境を提供するなど、官民が共同となって盛り上げる体制を築きつつある。
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表2 最近の海外での主要IPv6関連トピック |
本気を出した米国ほど恐ろしいものはない。国内需要が中心の日本に比べ、世界市場を相手にする米国のネットワーク機器メーカーの方が、潤沢な開発資金を持ち、製品販売における世界での競争力もある。その中で先日発表された、日立製作所とNECの合弁によるネットワーク機器のジョイントベンチャー設立は、そうした状況への日本メーカーの危機感の表れだといえるかもしれない。両社では「当面は国内需要を中心」とコメントしており、高騰する開発費や海外メーカーとの価格競合に備えた体制を作るのが会社設立の狙いだとみられる。そのほか「サポート面でさらにきめ細かなものを提供できる」と、海外メーカーらと比べた際の合弁会社の優位性を挙げているが、機能面や性能面での優位性を触れなかったところからみて、その辺りで海外メーカーとの大きな差がなくなりつつあることがうかがえる。
しかし、ここまではある程度予想できたことだ。ルータなどの機器やソフトウェアの多くは米国製、PCやワークグループ向けのスイッチ製品などは中国/台湾製などと、多くのものを海外に握られている日本だが、現状で大きくリードしているものがある。それが情報家電や携帯の分野だ。先日2004年度の開催中止が発表されたComdexとは対照的に盛り上がりつつある、コンシューマ機器総合展示会のInternational CESでは、年々日本メーカーの参加社数と展示ブースのスペースが大きくなりつつある。米MicrosoftのBill Gatesと並び、基調講演で弁を述べるのも恒例になってきた。特許面なども含め、技術の根幹を握っているのも日本メーカーの強みだ。国内需要中心という理由もあり、携帯電話の端末出荷台数では海外メーカーに負けているものの、機能やサービス面ではトップを走っている。3Gサービスが本格運用されたのも、日本が最初である。
状況が進展すればするほど、その差が小さくなってくるのが技術開発の世界だ。後ろから巨人に追いつかれようとしている日本では、その得意技を駆使してその体力的なハンデを乗り越えていかなければならない。今回の発表を契機に、多くのサービスがIPv6へと対応し、IPv6ならではのコンテンツやサービス開発にまい進していくことこそが、この競争で日本を優位に立たせることにつながるだろう。
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