実験
PCの起動を高速化する「Intelアプリケーション・アクセラレータ」の実体
1.IAAとIDEドライバの関係
澤谷琢磨
2001/10/20
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毎日、Windowsの起動にイライラしている人も多いはず。特に、デバイス・ドライバのインストール時に何度となく繰り返される再起動ほどイラつくものはない。そんなWindowsの起動時間が少しでも短くなるとしたら、どうだろうか。それも無償でだ。そんなうまい話が実はある。Intelが2001年9月にリリースした、自社の800系チップセット(型番が800番台のチップセット)専用ソフトウェア「Intelアプリケーション・アクセラレータ(IAA)」である。IAAをインストールすると、Windowsの起動が短くなるという。今回は、このIAAによって本当にWindowsの起動時間が短くなるのか検証してみることにした。
IAAの正体
「Intelアプリケーション・アクセラレータ」とは、何とも実体の分かりにくい名前だが、IAAはWindows標準のIDEドライバを置き換えるデバイス・ドライバや、IDEインターフェイス/デバイスのステータスを表示するユーティリティなどで構成されたツールである。これまでIntelは「Ultra ATAストレージ・ドライバ」という名称で、Windows向けの独自IDEドライバを提供してきたが、IAAはこれの改良版である。
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診断ツール「Intel Application Accelerator」 |
Ultra ATA ストレージ・ドライバには「Companion」という診断ツールが付属していたが、IAAでは「Intel Application Accelerator」という名前に変更された。中身はこれまでと同様にIDEデバイスのツリー形式の一覧表示と、デバイスやインターフェイスの詳細をまとめたレポート画面から構成される。
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Intel Application Acceleratorの[レポート]タブ画面 |
[レポート]画面には、Ultra ATA Storage DriverとVersion 7.00.2025というバージョン番号が表示()される。このソフトウェアの前身がUltra ATAストレージ・ドライバであることが分かる。なおこのレポートでは、コントローラがサポートするUltra DMAのモードを調べられる。 |
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[レポート]タブの[デバイス情報] |
[レポート]画面のIDEハードディスクの情報には、従来のアドレッシング方式である28bit LBAに加えて、137Gbytesを超えるハードディスク向けの方式である48bit LBAの項目が新設された()。IAAがBig Driveに対応していることを示している(Big Driveや48bit LBAについては、「動向解説:IDEディスクの壁を打ち破る最新ディスク・インターフェイス」を参照)。
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名称のほかには、Ultra ATAストレージ・ドライバとIAAに外見上の違いは見当たらないが、機能と性能は大きく異なるようだ。IAAのドキュメントによれば、以下に示す項目でPCの機能/性能が向上するという。
性能向上項目 |
内容 |
OS起動の高速化 |
OSのロードタイムを短縮し、起動を高速化 |
ディスクI/Oの高速化 |
ゲーム、グラフィックス・アプリケーション、ディスク・ユーティリティおよびマルチメディア関連アプリケーションのディスクI/O処理を高速化 |
Pentium 4対応 |
Pentium 4搭載システムでのデータ・プリフェッチ処理のパフォーマンスを向上 |
Big Drive対応 |
137Gbytes以上のIDEハードディスクをサポートするBig Drive(48bit LBA)機能をサポート |
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IAAの効能 |
このように仕様を見るかぎり、IAAは大変魅力的なソフトウェアに見えるが、実際にはどの程度の性能向上が得られるのだろうか。本稿では複数のベンチマーク・テストを実行し、IAAの性能を探ってみた。テストに用いたのは、2001年9月10日にリリースされた「Intelアプリケーション・アクセラレータ バージョン1.1」である。これはインテルのIAAサポート・ページからダウンロードできる。
IAAはノートPCでは使えない!
IAAは、残念ながらすべてのPC互換機に対応したソフトウェアではない。下表に示した、比較的新しいIntel製800系チップセットを搭載したPCのみに対応している。正確には、800系チップセットが採用するICH(I/O Controller Hub)のうち82801AA/82801AB/82801BAがサポート対象となる。そのため、これにはノートPC向け800系チップセットであるIntel 815EMおよびIntel 830MPが含まれない。編集部でIntel 815EMを採用したノートPC(デルコンピュータのInspiron 2500)にIAAのインストールを試みたが、診断ツールはインストールされるものの、ドライバ本体はインストールできなかった。IAA バージョン1.1では、ノートPCはサポート外のようだ。
Celeron/Pentium III用チップセット |
Intel 810/810E/810E2 |
Intel 815/815E/815EP/815P/815G/815EG |
Intel 820/820E |
Pentium III Xeonプロセッサ用チップセット |
Intel 840 |
Pentium 4用チップセット |
Intel 845 |
Intel 850 |
Intel Xeon用チップセット |
Intel 860 |
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IAAがサポートするチップセット |
IAAは800系チップセット向けとされているが、正確にはそれに含まれるICH(I/O Controller Hub)のうち82801AA/82801AB/82801BAをサポートするソフトウェアだ。そのため、ICHとして82801BAMを採用する815EMと、82801CAMを採用するIntel 830MPについては、IAAの現バージョン(1.1)ではサポートされていない。 |
Windows XP(ただし正式版リリース後) |
Windows 2000 |
Windows NT 4.0(何らかのService Packの適用を必要とする) |
Windows Me |
Windows 98 SE/Windows 98 |
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IAAが対応するOS |
IAAのインストール時の注意点・問題点
IAAをインストールする際には、いくつか注意すべきことがある。まず、Windows OSにチップセットを正しく認識させることだ。それには、Windows OSやチップセットの種類によっては、「Intelチップセット・ソフトウェア・インストレーション・ユーティリティ(以下、チップセット・ソフトウェア)」を事前にインストールする必要がある。チップセット・ソフトウェアとは、Intel製チップセットをOSに正しく認識させるために必要なINFファイルや、その性能を引き出すために必要なデバイス・ドライバをまとめたものだ(Windows 2000とチップセット・ソフトウェアの関係については、「元麻布春男の視点:失敗しないWindows 2000のインストール手順」参照)。
たいていの場合、チップセット・ソフトウェアをインストールしなくても(つまりOSがチップセットを正しく認識していなくても)、OS自体の動作は問題ない。パワーマネージメントなどの一部の機能が、フルに利用できない程度だ。しかし、IAAをインストールするためには、チップセット・ソフトウェアの適用によって、チップセットを正しく認識された状態にしなければならない。チップセット・ソフトウェアの最新版は本稿執筆時点で「v3.20.1008」である。zip形式で圧縮された形で配布されているが、解凍するとインストーラ・プログラム(setup.exe)が現れるので、これを実行する。インストーラの表示はすべて英語である。
チップセット |
Windows 2000における必要性 |
Intel 810/810E/810E2 |
不要 |
Intel 815/815E/815EP/815P/815G/815EG |
必要 |
Intel 820 |
不要 |
Intel 820E |
必要 |
Intel 840 |
不要 |
Intel 845 |
必要 |
Intel 850 |
必要 |
Intel 860 |
必要 |
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800系チップセットと、チップセット・ソフトウェアの要不要について(Windows 2000の場合) |
Windows 2000以外のWindows OSについては、Intel Application Accelerator User’s Manualの「4.2 Do You Need the Intel Chipset Software Installation Utility?」の章に詳しいので、こちらを参照していただきたい(前述のIAAサポート・ページからダウンロードできる)。なおWindows XPの場合、Intel 845のみチップセット・ソフトウェアをインストールする必要がある。 |
OS側に必要なファイルが収録されている場合、チップセット・ソフトウェアのインストールは不要となる。上の表に、800系チップセットでチップセット・ソフトウェアが必要となるかどうかを、Windows 2000の場合についてまとめた。チップセット・ソフトウェアのインストーラ自体にインストールの要/不要をチェックする機能が組み込まれているため、よくわからない場合は、とりあえずインストール・プログラムを実行してみればよいだろう。不要ならば「INFアップデートは必要ない」というメッセージを表示して終了する。
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チップセット・ソフトウェアを必要としない800系チップセットに対してインストールしようとした場合の表示 |
例えばIntel 810搭載PC上で動作するWindows 2000に対し、チップセット・ソフトウェアをインストールしようとすると、インストーラが「INFアップデートは必要ない」というメッセージを表示して終了する。
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チップセット・ソフトウェアの適用が済んだら、次はIAA自体のインストールを行う。IAAは、英語版(iaa11_enu.exe:サイズ1912Kbytes)と多言語版(iaa11_multi.exe:サイズ5400Kbytes)の2種類が提供されている。多言語版は診断ツールの表示が日本語化されているなど利点が多いので、なるべくこちらを使いたい。どちらのパッケージも、ダウンロードしたファイルを直接実行するとセットアップが始まる。
IAAのセットアップ自体は容易だが、編集部でテストした際に、Windows 2000にインストール後、初回の再起動時にエクスプローラがユーザーの入力を受け付けない状態になることがあった(複数のアプリケーションをインストール済みの環境にインストールした場合に発生した)。このような場合でも、OSを再起動するとその後は正常動作するので、慌てないで対応したい。エクスプローラが入力を受け付けない状態では、Windows 2000では[Ctrl]+[Alt]+[Delete]キーを押して表示されるメニューから、[シャットダウン]−[再起動]を選ぶことでOSの再起動ができる。
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