第1部 プロセッサ会社からの脱皮を図る「Intel」 第2回 インテルのソリューション・サービスは顧客志向でデジタルアドバンテージ |
Intelは、昨年まで「インターネット・ビルディング・ブロック・カンパニー」として、サービスを含めたフルラインアップのインターネット事業を構築することを目指していた。それが米国の景気後退により、企業戦略の変更を余儀なくされている。その戦略変更のキーワードは、「コア・コンピタンス(Core Competencies)への集中」だ。「コア・コンピタンス」、つまりは最も競争力がある分野へ集中することだ。Intelの場合には半導体とコンピュータ、ならびにコミュニケーション分野に投資を集中し、さらに競争力を向上させることを意味する。
そこで気になるのは、コア・コンピタンス以外の事業、具体的には、1999年ごろから次々と始めたサービス事業の今後の展開である。今回は、そのサービス事業の1つとして「インテル・ソリューション・サービス」を提供しているインテル・ソリューション・センタの責任者である小鷲英一(こわし えいいち) 氏にお話をうかがった。なお小鷲氏は、ストリーミングSIMD拡張命令の元となったマルチメディア拡張命令(MMX)の開発者の1人でもある。
ソリューション・サービスとは何か |
――インテル・ソリューション・サービスとは、どういったサービスを提供するものなのでしょうか?
インテル・ソリューション・サービスの内容 |
インテル・ソリューション・サービスでは、コンサルティング、サイジング、スケーリング、最適化の各サービスを提供している。 |
小鷲:インテル・ソリューション・サービスは、ソリューション・プロバイダやシステム・インテグレータが、それぞれの顧客に対して最適なe-ビジネス・ソリューションを迅速に、しかも低コスト、低リスクで構築することを支援するものです。具体的には、開発者向けの教育や、システムの検証などを主に提供しています。開発者向けの教育としては、アプリケーションをItaniumプロセッサに最適化するための手法に関するセミナーなどがあります。これには、多くのプログラマの方に参加していただいています。システムの検証というのは、カブドットコム証券の事例を見ていただくのが分かりやすいと思いますが、OSやアプリケーションの移行に関するテストや、スケーラビリティに対する検証などを行っています(コラム「インテル・ソリューション・サービスで合併を乗り切ったカブドットコム証券」)。カブドットコム証券の場合は、インテル社内にある「インテル・ソリューション・センタ」を使って行いましたが、ユーザー先に出向いて検証作業などを行うこともあります。基本的にこれらはすべて有償のサービスになります。
――システム・ベンダが提供しているソリューション・サービスとの違いはどこにあるのでしょうか?
小鷲:まず基本的にインテル・ソリューション・サービスは、直接ユーザーに対するサービスというよりも、ソリューション・プロバイダやシステム・インテグレータ(SI)のソリューション提供を支援するものだということです。この点が、システム・ベンダが提供しているソリューション・サービスとの大きな違いになります。
また、すでに導入するシステムが決まっているような場合は、システム・ベンダのソリューション・サービスを使えばよいわけです。しかし、導入するシステム・ベンダを最初に決めるような場合は、、最初から特定のベンダのサービスは受けにくいということがあると思います。そういう面から、インテルがサービスを提供しているわけです。カブドットコム証券の場合も、まさにこのようなケースになります。複数台のサーバを使って稼働中のシステムに影響を与えることなく次世代のシステムを検証できたという点でも、インテル・ソリューション・サービスを評価していただいています。
――直接ユーザーにではなく、ソリューション・プロバイダやSIに向けてインテル・ソリューション・サービスを提供しているのはなぜでしょうか?
SIに向けたサービスの展開 |
インテル・ソリューション・サービスは、主にSIにサービスを提供するものだ。SIがノウハウを蓄積することで、多くのエンド・ユーザーに最適なソリューション提供が可能になるように考えている。 |
小鷲:まず、業界を大きく動かすためには、100の成功案件が必要だと考えています。しかし、インテルが直接ユーザーにサービスできる案件は限られています。このため、インテルの持っているノウハウを広く知っていただける仕組みが必要です。例えば、特徴的な10案件をインテルとSIが共同で解決することで、ノウハウを蓄積したSIがほかの90案件を解決できるようにするわけです。そうすることで、結果的に多くのソリューションが最終的なユーザーに提供できることになります。これをバリュー、あるいはメリットという観点から考えてみると、このようにインテルがSIを支援することが、ユーザーとSIの両方にとっての利益になるわけです。利益があれば、それがポジティブなサイクルを形成し、インテルが直接サービスできる何倍もの大きな流れにすることが可能だと考えています。
他社のソリューション・サービスとの違い |
――富士通はインテルと協力して「富士通IAソリューションセンター」を開設していますが、こうしたハードウェア・ベンダのサービスとインテル・ソリューション・サービスとの違いはどこにあるのでしょうか?
小鷲:インテルは、ハードウェア・ベンダのように大規模なシステムを2年間かけて構築するといったことはできません。人や場所が限られているからです。一方で、システム性能にかかわる負荷テストや最適化技術、米国発のテクノロジについては自信があります。同じサービスでハードウェア・ベンダと競合するつもりはありません。お客様が、ハードウェア・ベンダと協調して問題に対する最適な解答を見つけ出すことができるのならば、わざわざインテルが出ていく必要はありません。ハードウェア・ベンダとは今後も協調して作業を進めていきます。例えば、ハードウェア・ベンダの大規模案件の中で、性能解析に関わる部分だけをインテルが担当するという事例も実際にいくつかあります。これは案件の数を優先したいハードウェア・ベンダと、最適な解を求めるユーザー双方にメリットがあります。今後、そのような案件の数は増えていくと思います。
――ソリューション・サービス・センタのブースは、現在2つと聞いていますが、今後増やす計画はあるのでしょうか。2つのブースでは、案件数が限られてしまうと思いますが。 小鷲:今後1年ぐらいの間にできれば4つに増やしたいと思っています。ただ、ソリューション・センタ内で行うサービスよりも、ユーザー先に出向いての作業を行うことが増えてきています。ユーザー先に出向く場合、「Solution in a box」と呼んでいる小さいラックに2000〜3000ユーザー分の負荷をかけられる機材を入れたものを持っていき、作業を行っています。現在のところ、サービス・センタとユーザー先でのサービスは、半々といったところです。ただ、やみくもに案件数を増やせばいいという考えは持っていません。特徴的で、ほかの企業でも参考になるような事例をなるべく増やしたいと思っています。
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――依頼はどのような案件が多いのでしょうか?
サイジング・サービスの例 |
図のような構成でWebサーバやデータベース・サーバに対し、負荷テスト・ツールで負荷をかけ、サーバの応答時間などを計測する。 |
小鷲:現在のところスケーリング・サービスと呼んでいる負荷テストを使った性能評価に関する案件が最も多くなっています。性能評価に関しては、サイジング・サービス、スケーリング・サービス、最適化サービスの3段階でサービスを提供しています。サイジング・サービスでは、負荷テスト・ツールを使って、特定のシステム構成に対して負荷をかけ、システム性能のボトルネックやエラーの発生と処理についての検証を行います。スケーリング・サービスでは、スケールアウト(サーバの台数を増やしてシステム性能を向上する)とスケールアップ(サーバ単体の性能を上げてシステム性能を向上する)を中心にして、多くの角度からシステム性能の向上を図ります。ネットワーク・ロードバランサやSSLアクセラレータ、XMLアクセラレータなどネットワーク機器の最適配置も検証します。サーバだけに限らず、ネットワークを含む負荷テストのノウハウを持っているのがインテルの強みでもあります。最適化サービスでは、さらにアプリケーションの中身にまで踏み込んで性能向上を図ることもあります。プロセッサの数が増えたり、高速なプロセッサに変わったりすることによって、ユーザーがメリットを実感できるようにすることが目的です。これは当たり前のことのように聞こえるかも知れませんが、サーバの数を増やしたり、プロセッサの数を増やしたりするだけではアプリケーションのボトルネックを解決できないことがよくあるのです。
――アプリケーションのチューニングは、負荷テストの結果として行っているのでしょうか?
小鷲:アプリケーションのチューニングまで必要になるのは、10案件のうち1つあるかないかです。アプリケーションのチューニングを行いたいという会社は、SIより、ソフトウェア・ベンダやハードウェア・ベンダのなかでもミドルウェアを作っているところが多いです。これらの方々は、ソフトウェアの性能がすぐに、ソフトウェアやハードウェアの売り上げに直結することを認識しています。たとえば、1ウェイ・プロセッサでも2ウェイ・プロセッサでも性能が変わらなかったアプリケーションが、8ウェイ・プロセッサまで直線的に性能が上がるようになれば、性能を一気に8倍まで高めることができるので、市場で大きなアドバンテージになります。
――Itaniumプロセッサ搭載システムが正式出荷となりましたが、Itaniumプロセッサ対応のアプリケーションのチューニング案件というのは、これから始まるのでしょうか?
小鷲:今までも行っていましたが、引き続き増やしていきたいと思っています。
ソリューション・サービスの今後 |
――コア・コンピタンスへの集中という動きの中で、インテル・ソリューション・サービスはどのように展開されるのでしょうか?
小鷲:インテル・ソリューション・サービスは、「ユーザーにベストなソリューションを提供したい」という発想を出発点にしています。インテルのサーバの良さを、ユーザーに理解してもらいたいという面もあります。SIがソリューションのプランニングを行うときに、インテルが手伝うことにより、システム構築がスムーズにいくようにしたいと考えています。多くのSIは案件をたくさん抱えていて、ユーザーにとって最適なソリューションを提供することと、適正な利益を上げることのバランスを取るのが難しくなってきています。そこにインテルが加わることで、SIがユーザーにベストなソリューションを迅速に提供できるような仕組みを作りたいと考えています。
――インテル・ソリューション・サービスの目的は、インテル・アーキテクチャを採用したサーバの拡販ではないということですか?
小鷲:もちろんインテル・ソリューション・サービスは、インテルが提供しているので、インテル・アーキテクチャのサーバが対象となるサービスです。結果的には、インテル・サーバの拡販という要素もありますが、その前にユーザーにとって何が必要とされているかをつかむことが重要と考えています。例えば、インターネット通販サイトでユーザーが増えてページが表示されるまでに時間がかかるようになったとします。その場合、これまでは単純にネットワークを強化したり、サーバを増強したりしていました。でも実際は、サーバのアプリケーションをチューニングすることで解決できたかもしれません。ユーザーが費用対効果の高いビジネスを展開することが可能になるようにこれからも支援していきたいと思っています。インテル・ソリューション・サービスは、SIやユーザーが困っていることを解消するという視点から始めています。その基本姿勢はあくまでもユーザー志向なのです。
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サーバ分野におけるItaniumを含むインテル・アーキテクチャ(IA)は徐々にではあるが、浸透しつつある。これは、景気後退の中、コストパフォーマンスに優れたシステムを選択する企業が増えているからだろう。しかし、一方でハイエンド・サーバ分野では相変わらずSun Microsystemsが好調であり、この市場にインテル・アーキテクチャはなかなか入り込めないでいる。クライアントPC、ワークステーション、エントリからアプリケーション・サーバの市場をほぼ手中に収めたIntelにとって、携帯機器とハイエンド・サーバが残された数少ない分野である。逆にいえば、Intelがこれまで以上に成長し続けるには、この残された分野を手に入れなければならない。
ハイエンド・サーバ分野でIAサーバの導入が進まない理由として、よく「実績」が挙げられる。実はインテル・ソリューション・サービスこそ、「実績」を作るための戦略的なサービスなのだ。ソリューション・サービスによって、効率の高いシステム構築をユーザーが行うことで、「実績」を示すことが可能だからだ。インタビューでも、「業界を大きく動かすためには100の成功案件が必要」と小鷲氏が述べているように、IAサーバによる「成功案件」、つまり「実績」を重ねることこそが、インテル・ソリューション・サービスの使命なのである。
今回のカブドットコム証券の実績によって、証券分野における事例が1つできた。これで多くの証券会社が、IAサーバとほかのシステムとの比較が行える素地ができたことになる。地道にこうした事例を各業種別に積み重ねることにより、着々とIAサーバの浸透が進むに違いない。こうした「売れる仕組み」を作り続けることが、Intelの強さの秘密なのかもしれない。
関連リンク | |
インテル・ソリューション・センターのホームページ | |
富士通IAソリューションセンターに関するニュースリリース |
INDEX | ||
[連載特集]第1部 プロセッサ会社からの脱皮を図る「Intel」 | ||
第1回 Intelがサーバ環境を変えていく | ||
第2回 インテルのソリューション・サービスは顧客志向で | ||
コラム:インテル・ソリューション・サービスで合併を乗り切ったカブドットコム証券 | ||
第3回 戦略を大きく転換したアプライアンス・サーバ事業 | ||
「PC Insiderのインタビュー」 |
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