第1部 プロセッサ会社からの脱皮を図る「Intel」 第3回 戦略を大きく転換したアプライアンス・サーバ事業デジタルアドバンテージ |
WebサーバやSSLアクセラレータといったアプライアンス・サーバ機器は、インターネットの普及に伴い、2年ほど前から急速に伸びてきた市場だ。こうしたWebサーバやSSLアクセラレータというと、サーバ・ベンダやアプライアンス機器専門ベンダが開発、販売しているものという印象が強い。しかしインテルもまた、日本電気や日本HP、日立製作所、富士通などのシステム・ベンダや、マクニカといったシステム・インテグレータ(SI)に、これらの機器をOEM供給している。これまでインテルは、アプライアンス・サーバを自社ブランド「NetStructure」で販売してきたが、2000年末よりOEM供給へ戦略転換した。なぜ、今後も伸びると予想される市場で、自社ブランドをやめ、OEM供給へと戦略を転換したのか。また、今後のアプライアンス・サーバの方向性などについて、インテルのコマース・アプライアンス・サーバ担当プロダクト・ライン・マネージャであるリチャード・リントン(Richard Linton)氏に話を伺った(本文中敬称略)。
−−「NetStructure」ブランドで販売してきたアプライアンス・サーバを、昨年ごろからOEM供給中心へと戦略転換した理由をお教えください。
リントン:現在、インテルのアプライアンス・サーバの多くは、大手システム・ベンダへのOEM供給という形で販売しております。これは、これまでの販売戦略を見直した結果です。インテルの流通ルートを使って販売していたときは、時間などのリソースの多くをセールス・チャネルとの連携や教育などに割く必要がありました。これをシステム・ベンダとのビジネスに変更することで、インテルの既存のリソースを使いながら、システム・ベンダの営業リソースとともに全世界の顧客に対してアプローチすることが可能になると判断したためです。アプライアンス・サーバは、製品の性格上、大規模なサーバ・システムの一部として販売されることが多く、インテルが単体で売るよりも、システム・ベンダがソリューションの一部として販売した方が効率的であるという理由もあります。
−−デメリットとして、顧客からの声が届きにくくなるという面もあると思いますが、どういった方策によってカバーしようとお考えですか?
リントン:確かにOEM供給によるビジネスに変更したことで、若干、顧客からの距離が離れてしまった面があるかもしれません。しかし、インテルにはいくつものユーザー・グループがあり、ここからの意見を積極的に聞いています。また、e-Business Development Manager(EBDM)という新しい技術などを大手企業顧客に紹介する担当者も、顧客と直接コミュニケーションを取っています。こういったいろいろなチャネルを使うことで、システム・ベンダ経由の販売となっても、顧客の意見を製品に反映できると思っておりますし、実際、これまで以上にいろいろな意見を聞いて製品に生かしてきています。
−−OEM供給になり、インテルのブランドは前面に露出しなくなってしまいました。そのため、「ネットワーク製品=インテル」というブランド戦略に支障をきたすような気がします。アプライアンス・サーバに「Intel Inside」のようなロゴを貼ることは考えていないのでしょうか?
リントン:実は以前、「Intel Inside」ロゴを貼ろうとを試みたことがあります。しかし、「Intel Inside」ロゴを貼ってしまうと、IAサーバと間違われるといったことがあったため、製品の性格からもやめることにしました。また、システム・ベンダからも「Intel Inside」や「Pentium」といったロゴ・シールはやめてほしいという要望もあったため、現在はロゴ・シールを貼っていません。確かに一部の顧客には、インテルのアプライアンス製品を使っているという認識がないかもしれませんが、インテルの優れた技術力を生かし、優れた製品を作ることで、ユーザーが満足し、ビジネスが拡大するのであればいいと思っています。特に、「インテル=ネットワーク製品」だとアピールすることは必ずしも重要だと考えていません。
−−システム・ベンダのチャネルを使った場合、同じ製品でありながら、A社とB社で異なる製品イメージが作られてしまうことで、顧客が混乱するなどのマイナスになることもあると思いますが、その点は何か方策をお考えですか?
リントン:確かに同じ製品でも、システム・ベンダによっては、自社の強い市場にアレンジして、異なる製品イメージを伝えてしまうことがあるかもしれません。しかし、インテルとしては製品の投入時などにシステム・ベンダ向けの製品説明会や技術セミナーなどを行い、製品の特徴や技術的な側面についてシステム・ベンダにきちんと説明するようにしているので、顧客が混乱するといった問題は起きないと考えています。また、システム・ベンダ各社が開催する顧客向けのセミナーなどでインテルが講師を派遣して製品の特徴を説明したり、展示会で製品の技術デモを行ったりすることでも、製品の特徴を正しく伝える努力をしています。
シリーズ | 機能 | 製品名 | 特徴 |
NetStructure e-Commerce Accelerators | SSL アクセラレータ | NetStructure 7110 e-Commerce Accelerator | 1秒あたり最大200SSL接続 |
NetStructure 7115 e-Commerce Accelerator | 1秒あたり最大600SSL接続 | ||
SSL アクセラレータ&レイヤ7トラフィック管理装置 | NetStructure 7180 e-Commerce Director | 1秒あたり最大600SSL接続 | |
NetStructure 7185 e-Commerce Director | 1秒あたり最大1200SSL接続 | ||
NetStructure Traffic Management equipment | トラフィック管理装置 | NetStructure 7145 Traffic Director | レイヤ4トラフィック制御 |
NetStructure 7175 Traffic Director | レイヤ4〜7トラフィック制御 | ||
NetStructure Hosting Appliances | ホスティング・サーバ | NetStructure Hosting Appliances | Apache、Sendmail機能搭載 |
NetStructure Gigabit Switches | ギガビット・スイッチ | NetStructure 470T/470F スイッチ | レイヤ2スイッチ |
NetStructure 480T ルーティング・スイッチ | レイヤ2/3/4スイッチ | ||
NetStructure VPN Gateway Family | VPNゲートウェイ | NetStructure 3110 VPN Gateway | 暗号化通信時のスループット:2Mbits/s |
NetStructure 3120 VPN Gateway | 暗号化通信時のスループット:20Mbits/s | ||
主なインテル製アプライアンス・サーバ製品 |
アプライアンス・サーバのメリット |
−−アプライアンスというと、最近ではハードウェアというより、むしろソフトウェアに重きがある製品になっていると思いますが、その中でプロセッサ・ベンダのインテルの強みというのはどこで発揮できるのでしょうか?
リントン:インテルは、プロセッサだけでなく、マザーボードやネットワーク製品の開発、製造も行っています。そして価格だけでなく、技術の面でも競争力を保てるよう、SSLのアクセラレーション技術を持つ会社を買収するなど、ソフトウェア面も強化しています。インテルは他社よりも高性能・高機能な製品を開発する自信がありますし、これまでも実績を残してこれたと思います。
−−Itaniumプロセッサ搭載サーバは、SSLなどの処理能力も向上していると聞きました。このように高性能なサーバが登場してくると、今後はアプライアンスを使うよりも、ソフトウェアによってフロントエンド・サーバ本体で処理を行う方向に進んでいくのではないでしょうか?
リントン:確かにItaniumプロセッサでは、SSLなどの処理能力が向上しています。こうした高い性能を持つサーバですべての処理を行うというのも1つの方法ですが、私たちが提供しているようなアプライアンス・サーバも残ると考えています。どちらを選択するかは、ユーザーの使い方によっても異なってくるでしょう。例えばデータセンターなどでは、アプライアンス・サーバをネットワークの入口(インターネットに面した部分)に導入することで、SSLの処理などを一元管理できるようになります。
−−多様なインターネット・サービスの登場によって、アプライアンス・サーバでは対応できなくなるということはないのでしょうか? より汎用性の高いサーバで処理を行った方が拡張性や管理などの面で優れているように感じますが。
リントン:いろいろなインターネット・サービスの登場によって、アプライアンス・サーバの機能を拡張してほしい、あるいは汎用サーバの方が拡張性が高くて望ましいといった顧客の意見も確かにあります。しかし一方で、セキュリティ・ホールへの対応やソフトウェアのアップデートなどをすべてのサーバに対して行わなければならないので、なるべく管理する部分が少ない方がいいという声もあるのです。アプライアンス・サーバにSSLの処理などを一元集中することで、機能のアップデートや管理などが容易になるという面もあります。どちらがいいのかは、ユーザー次第ということになるのではないでしょうか。
製品の方向性について |
−−アプライアンス・サーバをいくつも接続する場合、サーバ間のインターフェイスがボトルネックになってくるのではないかと思います。現在は、100BASE-TXが採用されていますが、ギガビット・イーサネットなどのより高速なインターフェイスを採用する計画はお持ちですか?
リントン:将来的には、ギガビット・イーサネットをサポートしていく予定です。一方で、次期ソフトウェアでは、現在のインライン(複数のアプライアンス・サーバを直列につなげた)の構成から、スイッチング・ハブを使った分散型に変更することで、SSLアクセラレータなどのアプライアンス・サーバがボトルネックにならないような仕組みを導入します。さらに、ネットワーク・プロセッサの高速化などによってもパフォーマンスが向上し、より大規模なシステムにおいても利用できるようになると考えています。
−−InfiniBandアーキテクチャなど、より高速なインターフェイスの採用はあり得るのでしょうか?
リントン:長期的にはあり得ると思いますが、(InfiniBandは)まずデータベース・サーバの領域で使われるようになると思います。アプライアンス・サーバの領域は、どちらかというとフロントエンドに近い部分になるので、InfiniBandアーキテクチャが採用されるには時間がかかるでしょう。インテルとしては、InfiniBandアーキテクチャを推進していますので、将来はアプライアンス・サーバにInfiniBandアーキテクチャを採用することもあり得ると思いますが、現在は調査研究を行っている最中です。
−−ということは、ギガビット・イーサネットの後は、InfiniBandアーキテクチャということになるのでしょうか。10ギガビット・イーサネットといったインターフェイスについてはどのようにお考えですか?
リントン:10ギガビット・イーサネットとInfiniBandアーキテクチャは両方とも検討しています。どちらについても、インテルは取り組んでいますので、バックエンド・サーバの動向や、市場全体の動向を見ながら決めていくことになると思います。
−−フロントエンド・サーバの高密度化が進んでいますが、アプライアンス・サーバにおける高密度化についてお考えをお聞かせください。
リントン:アプライアンス・サーバでも1Uや2Uといった製品を提供しています。フロントエンド・サーバでは、さらに高密度なブレード・タイプといった製品が発表されていますが、アプライアンス・サーバについてはいまのところそういった要求はありません。ただ、将来的には検討する必要があるかもしれません。
−−現在、インテルのアプライアンス・サーバには、Pentiumアーキテクチャのプロセッサが採用されていますが、高密度化や低消費電力化を考えると、StrongARMプロセッサやXScaleマイクロアーキテクチャといった組み込み向けプロセッサを利用した方が望ましいと思います。将来的にこれらのプロセッサに移行する計画はごありませんか?
リントン:Pentiumアーキテクチャのプロセッサにも低消費電力版がありますので、高密度化や低消費電力化も問題になりません。Pentiumアーキテクチャのプロセッサには、これまで蓄積したソフトウェアや開発環境、ノウハウがありますので、いまのところはStrongARMプロセッサなどに移行する予定はありません。
−−今後どのようなアプライアンス・サーバを計画されていますか?
リントン:将来の製品についてはお話することができませんが、顧客が要望している製品を提供し続けるという姿勢は変わりません。今後の製品にご期待ください。
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実はインタビュー中、インテルが自社ブランド「NetStructure」での製品提供をやめ、OEM供給による販売に切り替えるという戦略は、あまり得策ではないのではないかと思っていた。しかし、この原稿をまとめている最中に、実は最も賢明な判断なのではないかと考えるようになった。
すでに、フロントエンド・サーバの7〜8割、アプリケーション・サーバの4〜5割をインテル・アーキテクチャ(IA-32/64)が支配している。こうした状況下では、多くのユーザーが1社の製品に偏ることに不安を感じるものだ。米国と日本の大手サーバ・ベンダの多くが、インテルからアプライアンス・サーバのOEM供給を受け、提供を行っているが、ブランドが異なるため、インテル製品のシェアは統計に表れない。たぶん、IBM(含む日本IBM)とSun Microsystems以外の大手サーバ・ベンダが、インテルからアプライアンス・サーバの供給(全製品ではないが)を受けていることを考えると、市場占有率はかなり高いことが予想される。となると、ユーザーは好むと好まざるとにかかわらず、知ろうと知るまいと、インテルのアプライアンス・サーバのユーザーになるわけだ。フロントエンド・サーバ、アプリケーション・サーバに続いて、アプライアンス・サーバまでもがインテル製品だと気付いたら、ユーザーはどのような反応を示すだろうか。
こうしたことから、実はインテル製品であることを前面に出すよりも、販売面ではプラスに働く可能性があるのではないか、と感じた。つまり、インテルが自社ブランドで販売するよりも、OEM供給で販売した方が波風を立てずに、実質的には高い市場占有率を確保できる上手な方法なのかもしれない。今回の方針転換が、強いブランド力の正負両面を見極めた結果であるとしたら、さすがインテルのブランド戦略は筋金入りだと感じる。アプライアンス・サーバ分野についても、やはりインテルは手ごわい存在となるだろう。
INDEX | ||
[連載特集]第1部 プロセッサ会社からの脱皮を図る「Intel」 | ||
第1回 Intelがサーバ環境を変えていく | ||
第2回 インテルのソリューション・サービスは顧客志向で | ||
コラム:インテル・ソリューション・サービスで合併を乗り切ったカブドットコム証券 | ||
第3回 戦略を大きく転換したアプライアンス・サーバ事業 | ||
「PC Insiderのインタビュー」 |
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