第1部 プロセッサ会社からの脱皮を図る「Intel」

第1回 Intelがサーバ環境を変えていく


デジタルアドバンテージ
2001/05/15

 これまでIntelは、主にクライアントPCのプロセッサを中心に事業を展開してきた。すでに、クライアントPC市場では80%のマーケット・シェアを誇っている。また、ワークステーションやサーバ市場においても、順調にシェアを伸ばしてきている。すでにワークステーション市場においては、60%以上がIntel製プロセッサを搭載している。サーバ分野でも、台数ベースでは80%近いシェアを確保している(「IT Market Trend:第4回 世界のサーバ市場の動向」参照)。

 この数値を見れば、確かにIntelはコンピュータ分野全般で無敵に思える。しかし、一方でサーバ分野の出荷金額では、RISCサーバがIA(Intel Architecture:インテル・アーキテクチャ)サーバを引き離しており、成長率でも若干ながらRISCサーバの方が高いのだ。つまり、これは台数が売れるエントリ・サーバ市場やフロントエンド・サーバ市場でIAサーバは強いが、エンタープライズ・サーバやバックエンド・サーバといったハイエンド・サーバ市場では弱いことを意味する。それゆえ、Intelはエンタープライズ・サーバ向けのプロセッサ「Itanium」を開発し、サーバ分野への積極的な投資を展開しているのだ。インターネットの普及が、こうしたハイエンド・サーバ市場の拡大を促進しており、この市場の確保はここ数年のIntelの課題でもある。Intelは、クライアントPCで成功した水平分業型のビジネス・モデルを、ワークステーションとエントリ・サーバに適用し、市場とシェアを拡大してきている。さらに、ハイエンド・サーバ市場でも、この水平分業型のビジネス・モデルが通用するのかが試されているともいえる。

 連載第1回目として、今後のインテルのビジネスの中でも、重要な位置を占める「サーバ・プラットフォーム」の責任者であるeマーケティング本部 本部長 佐藤宣行 氏に、どのような戦略でハイエンド・サーバ市場を切り崩していくのか、またなぜIntelがハイエンド・サーバ市場に参入しなければならないのかを中心にインテルのサーバ戦略をうかがった。(本文中敬称略)

サーバ向けプロセッサのロードマップ

−−IDF Japanなどで、開発コード名「Foster(フォスター)」で呼ばれているIntel Xeonが第2四半期中に発表されることを明らかにしています。Intel Xeonの登場によって、サーバのプロセッサ・ラインはどのように変わってくるのでしょうか?

佐藤:未発表の製品ですので、詳しく述べることはできませんが、1つ言えるのはPentiumがPentium IIの登場で置き換わっていったように、Pentium III XeonもIntel Xeonに置き換わっていくということです。しばらくは移行期間ということで、Pentium III XeonとIntel Xeonが並存されることになると思いますが、将来的にはハイエンド・サーバがItaniumプロセッサとIntel Xeon、ミドルレンジからエントリがIntel Xeonという切り分けになってきます。

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サーバ向けプロセッサのロードマップ(大きな図:57Kbytes
図を見ても分かるように、Pentium III Xeonは、Intel Xeonに移行することになる。将来的には、64bitのItaniumプロセッサと32bitのIntel Xeonの2系列を用途などで使い分けることになる。

−−Itaniumシステムの正式出荷がなかなか始まりません。このまま64bit環境のテスト・システムで終わってしまうということなのでしょうか?

佐藤:そのようなことはありません。Itaniumシステムの正式出荷を「プラットフォーム・リリース」と呼んでいますが、近々、多くのサーバ・ベンダから発表があると期待しています。すでに、アプリケーションなどのテストもほぼ完了し、多くのソリューションが提供可能となっています。Itaniumシステムは、浮動小数点演算性能が非常に高いので、当初は科学技術計算分野などで多くの引き合いがあるでしょう。

−−ただ、すでに次期64bitプロセッサであるMcKinley(開発コード名:マッキンリー)がIDFなどでデモされています。となると、現行のItaniumプロセッサの寿命は非常に短いことになりませんか?

佐藤:McKinleyについては、2002年前半に出荷することをロードマップで発表しています。IDFでデモを行ったのは、順調に開発が行われていることを示すためです。ハイエンド・サーバは、導入までの開発期間が非常に長くなります。そのため、ある程度先のロードマップまで示さなければ、導入を行ってもらえません。現行のItaniumシステムで開発が止まってしまうようなことがあったとしたら、多くの企業は導入をためらうでしょう。そうした懸念を払拭するためにも、次のプロセッサの開発も順調であることを示す必要もあるわけです。

 また、Itaniumプロセッサの出荷を開始してから、システムが正式出荷になるまで半年程度かかっていることを考えると、McKinleyを出荷しても、システムの検証が完了するには、やはりある程度の時間が必要になると思われます。ハイエンド・サーバでは、これまでのクライアントPCなどと異なり、Intelからプロセッサが出荷されても、同時にシステムの出荷ができるわけではないということです。つまり、McKinleyが出荷されても、現行のItaniumシステムがすぐにMcKinleyシステムに置き換わるわけではないのです。しばらくは、現行のItaniumシステムが使われることになるはずです。

まずは新プロジェクトからIAサーバの導入を促進

−−企業がIAサーバの採用を検討する場合でも、従来システムからの移行コストは大きな障害になっているのではないかと思います。こうした面での対策は何か考えていらっしゃいますか?

佐藤:確かにすべてのシステムをIAサーバに移行するとなると、そのための費用と作業が必要になってくると思います。しかし大企業を見た場合、サプライ・チェーン・マネージメントやセールス・フォースなどたくさんのプロジェクトがあります。その中でデータ・ベースのデータ交換はそのまま維持したいが、ミッドティア(サーバの3階層モデルの中間。アプリケーション・サーバなど)などは新しいシステムでも問題ないというプロジェクトもたくさんあります。まず、こうした新しいプロジェクトでIAサーバを導入していただくように働きかけています。つまり、まずは新規のプロジェクトからIAサーバを導入していただくということです。

 また、既存のUNIX系システムの場合、Linuxを採用することで、UNIXからの移行を比較的容易にするという方法もあると思います。実際、予算が削られて現状のUNIXシステムの維持が難しくなった企業が、Linuxへ移行したという例もあります。ただ、現状のLinuxは、ビジネス・アプリケーションにおいて、マルチプロセッサでの実績があまりありません。例えば、8プロセッサ以上のシステムでは検証が十分ではなく、スケーラビリティに疑問を持っている人もいます。この点を、Open Source Development Lab(OSDL)で検証し、Linuxのカーネルをしっかりと作り込めれば、2002年の状況は変わってくるのではないかと期待しています(OSDLのホームページ)。

 Linuxには、UNIX系システムのトータル・コストを下げたいという企業が期待を寄せている部分もあります。現在のデータベースが、Linuxの組み合わせで動作して移行できるのならば、アーキテクチャを替えて経費の削減を行いたいというところも出てきています。データ・ベースは、やはり顧客情報など重要なものが多く、アウトソースできない大事な部分でもありますから。そのためデータ・ベースを動かしているサーバのアーキテクチャを変更するのは、ある意味冒険になるわけですが、コストという点では魅力的なところもあります。この移行作業の検証にインテル・ソリューション・センターを使っていただき、経費削減を実現していただきたいと思っています(インテル・ソリューション・センターのホームページ)。

−−Linuxのディストリビュータが失速ぎみですが、Itanium対応Linuxへの影響はないのでしょうか?

佐藤:影響はないと思っています。IBMがLinuxに対してコミットしていますし、OSDLでLinuxをエンタープライズ用に展開していくことは固まっているので心配していません。UNIX系アプリケーションをLinuxで走らせたいという期待は高いので、製品としての完成度が向上すれば問題ないと思います。特にスケーラビリティと可用性に対する検証です。ただ、この点もハードウェア・ベンダを含め、優秀な人たちがOSDLで作業を行っているので問題ないと思います。

SIベンダの教育が重要

−−残念ながら、日本の多くの企業は、サーバ・アーキテクチャの変更という冒険をしてまで経費を削減しようという意識がないように感じます。この点、インテルとして移行を促進させるような仕掛けを考えているのでしょうか?

佐藤:コストから認識していただくということが重要だと思っています。そのために、エンド・ユーザーとの会合なども積極的に開いて、IAサーバによるコスト削減の提案を行っています。ただ、ここで事例がないと話が先に進まないことが多いのも事実です。そのため、インテルでは産業分野に分けて、事例を紹介できるようにしようとしています。例えば、まだ具体的な事例はないのですが、航空分野では99.999%(ファイブ・ナイン)どころか、セブン・ナインの可用性が欲しいといっています。こうした分野でもIAサーバによるフォールト・トレラントという事例が見せられれば、状況は大きく変わってくるでしょう。

−−しかし、日本ではSIベンダとハードウェア・ベンダが密接すぎて、必要に応じて柔軟に他社製品を組み合わせて使うということが困難なようです。この点が、IAサーバへの移行の壁になっている部分もあると思うのですが。

佐藤:確かに大手のSIベンダが、特定のハードウェア・ソリューションを決めてしまって、エンド・ユーザーが身動きできないという面もあります。しかし、これはインテルの責任でもあると思っています。こうしたSIベンダに対して、最新のIAサーバをプロモーションできていないということでもあるわけですから。

 SIベンダが特定のソフトウェアとハードウェアの組合せしか選択しないというのは、実績のあるものを使用した方が案件の処理が早く、また問題が起きにくいという理由から来ていると思います。しかし最近では、景気の後退からエンド・ユーザーがコストにシビアになってきているので、SIベンダとしても差別化されたコスト・パフォーマンスの高いシステムを提案できないと受注できなくなってきています。よって、IAサーバの実績を多く作ることで、SIベンダに対して問題が起きにくいシステムであることをプロモーションしていかなければならないと思っています。

−−Intelは、水平分業型のビジネス・モデルを推進すると常々述べています。しかし、日本のサーバ市場においては、ハードウェア・ベンダがミドルウェアやアプリケーションを抱えているうえ、SI分野もカバーしています。こうなると、あるSIベンダを選択すると、アプリケーションからハードウェアまですべて選択の余地なく決まってしまいます。IAサーバの水平分業型のメリットが生かせないわけです。この状況は変えられないのでしょうか?

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Itaniumプロセッサの分業体制(大きな図:79Kbytes
図のように複数のベンダによって、Itaniumシステムを利用したソリューションが構築されることになる。クライアントPCやエントリ・サーバでは、これによってシステム価格が大幅に低下し、出荷台数を増やすことに成功した。同様のことがハイエンド・サーバにも適用できるかどうかは、これからのIntelの手腕にかかっているといえるだろう。

佐藤:エンド・ユーザー次第という面もあると思います。まだ少ない例ですが、先進的な企業では、(自社にとって)一番いいと彼らが判断したものを自社で選択して導入しています。これは、エンド・ユーザーを啓蒙することで彼らの選択を変えられるという例です。SIがいろいろなソリューションを選択できるようにしなければならないと考えています。そのためにインテルでは、50数社のSI/eBSP(e-Business Solution Provider)を集めて、ソリューション・センターが作ったシステム構築のためのテキストを使ってトレーニングなども行っています。こうしたSI/eBSP向けのプログラムを活用して、いろいろな新しいソリューションを紹介することでIAサーバの良さが浸透しつつあると思います。

サービスの提供は新しいビジネスのためなのか?

−−2000年のIntelは、サービスやソリューションの強化を前面に推し進めてきました。もし、このままIntelがサービス・プロバイダ、ソリューション・ベンダになってしまうのならば、インテル・アーキテクチャを推進する理由はなくなるのではないでしょうか。すでに大手ハードウェア・ベンダの中には、「ソリューションのためならば、自社製品のコンピュータ以外でも販売する」といったところも出てきています。インテルがサービスを提供するというのは、インテル・アーキテクチャを普及させるためなのか、それとも新しいビジネスとしてサービスを位置付けているのか、どちらなのでしょうか?

佐藤:確かにインテル・オンライン・サービスでは、インテル・アーキテクチャ以外のサーバでもサービスを提供しています。データセンター・ビジネスは競合がたくさんいるので、IAサーバ以外ではサービスしないというのでは、ビジネスにならないからです。ビジネスにおいては、顧客のニーズが優先しますので仕方のない面もあります。ただ、インテル・オンライン・サービスでも、ItaniumサーバやXeonサーバの検証を進めて、率先して使ってもらえるように啓蒙活動を行って、IAサーバの採用面で成功を収めています。

 インテル・ソリューション・サービスでは、あくまでIAサーバ上でのソリューションの検証が目的です。ソリューション・サービスでは、最新の機材を数日から数週間利用可能なプログラムを用意して、スケーラビリティや互換性などのテストが行えるようになっています。これを自社でそろえて行うとなると、莫大な資金が必要になります。ソリューション・サービスならば、比較的、安価に機材が利用できるばかりでなく、ノウハウの共有ということもできます。ユーザーには、これらの利用の対価をお支払いいただいているわけです。インテルとしては、ここで行った検証作業などの積み重ねが、IAサーバを普及させるための有効なツールとなりますので、ソリューション・サービスはあくまでインテル・アーキテクチャにこだわっていきます。

−−ということは、Intelが行っているソリューションへのサポートやサービスの提供というのも、最終的にはインテル・アーキテクチャの普及にあるということですか?

佐藤:そのとおりです。最終的にはインテル・アーキテクチャを普及させることにあります。クライアントPCでもソフトウェアが重要な財産でそれを守る必要があったわけですが、それ以上にエンタープライズ分野ではソフトウェアが重要な意味を持ちます。というのも、エンタープライズ分野では、いろいろなアプリケーションがいろいろなプラットフォーム上で動作するため、バージョンが少し違っただけでも動作しないといったことも起きます。また、動作しないことによる損害額もケタ違いに大きくなってきます。そのため、プラットフォームの維持に対して非常に気を使っていますし、アーキテクチャにもこだわる必要があるでしょう。インテル・アーキテクチャを普及させるのはもちろんのこと、インテル・アーキテクチャを採用していただいた顧客の資産を守っていくことも重要であると考えています。

 Intelは水平分業型のビジネス・モデルを推奨しており、エンド・ユーザーがハードウェア、OS、ミドルウェア、アプリケーションなどを自由に選択し、組み合わせられることがメリットであると、セミナーなどを通して主張している。確かに、これまでクライアントPCやPCワークステーション、エントリ・サーバなど、水平分業型のビジネス・モデルによって多くのソリューションの提供と低価格化を実現できた。それが、インテル・アーキテクチャの市場シェアの拡大につながっているのも確かだ。

 いまハイエンド・サーバにおいて、このビジネス・モデルがそのまま通用するのか試されている。ハイエンド・サーバの分野は、メインフレームで培われた垂直統合型のビジネス・モデルが主流であり、クライアントPCなどと異なり、コストよりも可用性が重視される分野でもある。つまり、Intelの強みであった「コストの安さ」を後ろ盾としたシェアの拡大が、通用しにくい分野でもあるわけだ。この分野では、1社がハードウェアとともにソリューションの提供を行う垂直統合型の方が責任の所在が明らかなため、可用性の向上は実現しやすい。ただ、こういった可用性を改善するのは、水平分業型のビジネス・モデルを推進する以上、Intel1社だけでは難しい。佐藤氏が述べているように、SIベンダとの協力や、複数の企業による事例と実績によって徐々に切り崩していくしかないのかもしれない。記事の終わり

  関連記事(PC Insider内) 
Intel勝利の方程式を語る
第4回 世界のサーバ市場の動向

  関連リンク 
OSDL
Open Source Development Lab(OSDL)
インテル・ソリューション・センターのホームページ
 

 INDEX
  [連載特集]第1部 プロセッサ会社からの脱皮を図る「Intel」
  第1回 Intelがサーバ環境を変えていく
    第2回 インテルのソリューション・サービスは顧客志向で
     コラム:インテル・ソリューション・サービスで合併を乗り切ったカブドットコム証券
    第3回 戦略を大きく転換したアプライアンス・サーバ事業

「PC Insiderのインタビュー」


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