IT Market Trend

第9回 HPとCompaq合併の背景とサーバ市場へのインパクト

ガートナー・ジャパン株式会社
データクエスト アナリスト部門サーバシステム担当シニアアナリスト

亦賀忠明
2001/09/18


2001年9月4日、Hewlett-Packard(以下、HP)がCompaq Computer(以下、Compaq)を買収するというニュースが世界中を駆け巡った(日本HPの「HPとCompaqの合併に関するニュースリリース」)。IT業界に携わる者は、両社の社員も含め、このニュースに驚きを隠せなかったことだろう。この合併でサーバ市場はどのように影響を受けるのだろうか。ここでは、この合併の背景と課題、およびサーバ市場へもたらすインパクトを考察する。

合併の真意は何か

 今回の合併の背景には複数の要素が絡まっており、現在各所でさまざまな視点からの分析がなされている段階であるが、筆者は、今回の合併について、両社のサーバ戦略上、以下のような背景があると考えている。

  • 両社ともハードウェア中心のビジネスから、ソフトウェアとサービスをも提供できるIBMのような総合ITプロバイダを目指していたが、それぞれ単独では将来的な展望が開けそうもない。
  • CompaqはPCサーバでDell Computerの激しい追撃を受け、コスト競争で収益が苦しくなっている。Alphaサーバも市場シェアの低迷が続いている。
  • 一方、HPはここ数年UNIXサーバでSun Microsystems、IBMと激しいシェア争いを展開しているが、なかなか一歩リードとまで至らない状況が続いている。

 つまり、HP、Compaqともそれぞれ単独では果たせなかった「サーバ市場における揺るぎない地位の獲得」という共通の思惑が、この合併の背景の1つにあるのではないだろうか。さらに視野を広げて考えた場合、IT業界を取り巻く以下の図のような要因が、今回の合併の背景にあるといえるだろう。

IT業界を取り巻く要因
出典:ガートナー データクエスト(2001年9月)

サーバ戦略上の課題

 今回の合併におけるサーバ戦略上の主な課題を整理しよう。

  1. 今回の合併で、それぞれの製品、ブランド、組織が今後どう統合されるかが課題である。もともとHPは、PCサーバ「netserver」とUNIXサーバ「HP9000」を3年〜4年以内に新ブランド「HP Server」に統合する計画であった。Compaqも同様にAlphaプロセッサの開発を2005年に中止し、無停止型サーバ「Himalaya」、UNIXサーバ「AlphaServer」、PCサーバ「ProLiant」を1つのサーバ製品・ブランドに統合することを発表している(コンパックの「各サーバ製品のItaniumへの統合について」)。ここで、今後RISCプロセッサの開発を止め、IA-32やIPF(Itanium Processor Family)をコアに、サーバを統一するという点においては両社の戦略は基本的に同じである。つまり、製品・ブランドの移行という観点では、両社とも合併いかんによらず、このような課題や問題は少なからず発生する可能性があったわけで、逆に今回の合併によりこれらの製品移行コストが削減できる可能性については期待効果として考えられる。しかし、合併していなくても難しいこのような製品移行が、合併も加わることでより混乱するという恐れもあり、このあたりは早期に強いリーダシップによる統制が求められるだろう。
  2. 水平展開としてのPCサーバ、垂直展開としてのUNIXを中心とするハイエンド・サーバ、それぞれをどう扱うか。会社規模が大きいほどこの課題はクローズ・アップされる。すなわち、大型ソリューション・カンパニーを志向すればするほど、これまでのチャネル(VARやSIなど)にとってHPとCompaqの両社は敵となる可能性がある。

サーバ市場へのインパクト

 今回の合併によるポジションの変化について、2000年の世界と国内のサーバ市場データから考察しよう。

 2000年、世界市場における出荷台数ベースではHPが4位(10.2%)、Compaqが1位(24.7%)であるが、Compaqの首位の座はこのところのDellの猛攻を受け危うくなりつつある。これらのシェアを単純に足すと、合併によってシェアは34.9%となり、2位のIBM(15.2%)との格差は2倍以上に拡大する。同じく出荷金額ベースでは、HPが4位(12.9%)、Compaqが3位(14.8%)であるが、これらを合計するとトップのIBM(24.8%)を金額面でも上回る。

2000年世界サーバ・ベンダ金額シェア
出典:ガートナー データクエスト(2001年9月)

 また、日本市場でも、サーバ市場の総台数ベースで4位と5位のポジションから、日本電気、日本IBM、富士通などの強豪を抜いて一気にトップに踊り出る。金額でも日本電気を抜き、さらに日本HPのライバルであるサン・マイクロシステムズを大きく引き離し、富士通、IBMに続くサーバ・ベンダとなる。

2000年国内サーバ・ベンダ金額シェア
出典:ガートナー データクエスト(2001年9月)

 以上は、あくまでも単純な足し算の話である。しかし、今回の合併により、これまでの業界地図が大きく塗り替えられる可能性があるということは確かだ。今後、HP/Compaqがトップ・ベンダとしての存在感を増すことができたなら、業界をより強くリードできるというチャンスも生まれ、ほかのベンダがその戦略に追随する、という構図も可能性としてはあり得る。

 また、これとは別の否定的な見方もある。これまでのIT業界における大型合併のケースを見る限り、それが成功しシェアの拡大につながったという例はない。Compaq自体、過去にTandem、DECを吸収してきたが、製品、ブランド、組織すべての面でシナジー効果が得られたとは考えにくく、今回のHPとCompaqの合併においても、同様な状況となる可能性は否定できない。今後、仮に合併が完了したとしても、数年間はいろいろな部分で混乱が生じる可能性が高く、一時的にシェアが足し算され1位となっても、それが継続的に続くという保証はない。また、シナジー効果についても、同様にすぐに発揮されるということは考えにくい。

 さらに、合併完了までに株主総会、SEC(米国証券取引委員会)での妥当性検証などが行われる予定であるが、最悪の場合、合併が白紙となる可能性もある。このことを含め、両社には、今後さまざまな困難が待ち受けていることは確実であろう。今回の合併宣言が吉とでるか凶とでるかどうか、今後の両社の取り組みを注視したい。記事の終わり

  関連記事 
HPとCompaqの決断に明日はあるのか?
CompaqはなぜIntelと次世代エンタープライズ・サーバ開発で合意したのか?

  関連リンク 
HPとCompaqの合併に関するニュースリリース
各サーバ製品のItaniumへの統合について
 
 
     
「連載:IT Market Trend」


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