技術解説

PCの内部はすべて「シリアル」でつながる
―次世代I/O規格「3GIO」の目指すところ―
 
2.3GIOの用途

元麻布春男
2001/10/24

 3GIOのPCへの実装については、現在、2種類のアイデアが検討されている。図4は、1〜2レーン程度を前提に、既存のPCIスロットの手前に3GIO対応のコネクタを設けるもの。マザーボード面積を拡大することなく、しかも拡張性を損なわないというアイデアだ。一方、図5は4〜8レーンの帯域を前提にPCIスロットとは別に、ただしブラケット固定部は共有する形で3GIOのスロットを設けるアイデアである。PCIからAGPが派生したように、すでに3GIOからAGPの後継インターフェイス(Serial AGP)を作り出すことが検討されており、その場合はこのようなスロットになるのではないかと考えられる。このほかにも、ドッキング・ステーション用のインターフェイス、あるいはノートPCに使われているMiniPCI(PCIをベースにした小型拡張カードの規格)の後継にも3GIOは用いられる予定だ。図6は、3GIOを採用したクライアントPCの構成としてIntelが発表している図だが、PCの主要インターフェイスが3GIOで置き換えられている様子が分かる。

図4 低バンド幅対応のスロット案
既存のPCIスロットの手前に1〜2レーンの3GIOスロットを設けることで、拡張性を犠牲にすることなく、3GIO対応を行おうというアイデア。ただし、2レーン程度になるため、性能を求めるような用途には向かない。
 
図5 高バンド幅対応のスロット案
PCIスロットとは別に3GIO専用スロットを設けるアイデア。PCIの登場時によくあったPCI/ISA共有スロットのような構成。3GIO専用のスロットとなるため、4〜8レーンの高性能な用途にも対応できる。
 
図6 3GIOを採用したクライアントPCのブロック図
グラフィックスやノースブリッジ−サウスブリッジ間接続、ローカルI/Oなどが3GIOで接続されることになる。ハードディスクは、シリアルATAで接続される。シリアルATAコントローラは、現在のIDEコントローラと同様、サウスブリッジに内蔵されるため、3GIOは採用されない。

2004年には3GIO対応製品が登場予定

 現在3GIOは、2002年を目標に標準化作業が進行しているPCI 3.0にPCI-Xなどとともに盛り込まれることになっている。3GIOというのは、ISA、PCIに次ぐ3世代目のI/O(Third Generation I/O)ということからきた現時点での仮称であり、正式規格の名称がどうなるかは、現在のところ分からない。製品の登場時期の推定は、資料によって2003年後半〜2004年前半とバラつきがあるが、2004年と考えた方がよいと思われる。

 筆者が3GIOの実用化時期、特にPC分野に対する実用化時期を遅めに見積もるのは、こうした新しい技術の導入がおおむね遅れる傾向にある、という過去の実績に加え、3GIOの実用化を急がねばならない決定的な理由(3GIOのキラー・アプリケーション)がクライアントPCに見当たらないからだ。

 図6で3GIOが使われているもののうち、グラフィックスについては、まだ現行のAGP 4xの後継であるAGP 8xモードが実装されずに残っており、それほど逼迫した状況ではない(そもそも、AGPを使うアプリケーションがどれだけあるのか、という問題もあるわけだが)。MCH(メモリ・コントローラ・ハブ:ノースブリッジ)とICH(I/Oコントローラ・ハブ:サウスブリッジ)間の接続についても、現行のHubLinkの2倍のデータ転送レートを持つHubLink2が、Intelの資料に散見されるにもかかわらず、実製品としては登場していない。

 そもそもノースブリッジ−サウスブリッジ間接続については、IntelがHubLink、VIA TechnologiesがV-Link、SiSがMuTIOLと、各社が独自の狭バス幅インターフェイスを実装していることからも明らかなように、必ずしもオープンな規格に準拠する必要性はない。自社でサウスブリッジを作らない/作れないチップセット・ベンダには、オープンな規格が必要になるだろうが、もはやそういったベンダはほとんどない(TransmetaのCrusoeプロセッサでは他社のサウスブリッジを採用していたが、新型のCrusoe TM6000ではサウスブリッジまでも統合しており、将来的には他社製のサウスブリッジの必要性はなくなる)。

 というより、ノースブリッジ−サウスブリッジ間接続は、プロセッサやノースブリッジの仕様により、微妙に変更せざるを得ない性質のものだ。図6のようにノースブリッジ−サウスブリッジ間接続に3GIOを使う世代になっても、実際の接続には、ほかの信号線の結線(サイド・バンド)が必要になるのではないかと思う(ただし、3GIOそのものにはサイド・バンドは存在しない。ノースブリッジ−サウスブリッジ間接続に、3GIOの規格外でサイド・バンドを用いるのではないか、というのが筆者の推定である)。

3GIOに必要性はあるのか?

 グラフィックスと、ノースブリッジ−サウスブリッジ間接続を除くと、現在のPCIバスを超える帯域が必要な周辺機器というのは非常に限られたものに過ぎない。筆者に思いつくのはギガビット・イーサネットくらいなのだが、現在のギガビット・イーサネット対応アダプタ(拡張カード)やハブの価格を考えると、2003年後半〜2004年の段階で、3GIOを介した拡張カードという形式が果たして有効なのかという疑問が生まれる。2002年なら、ギガビット・イーサネットの拡張カードがほしいと思うものの、2003年〜2004年の段階となるとサウスブリッジ・チップにギガビット・イーサネット・コントローラを統合する方向ではないか、と筆者は思うのである。これは、現在のICH2(Intel製サウスブリッジ)に10/100Base-TX対応のコントローラが内蔵されていることを考えると、まったく不自然ではない。USBやイーサネットなどのPCの標準機能となるデバイスは、PCの低価格化などにともない、ノースブリッジやサウスブリッジに統合される傾向にある。チップ内に統合することで、チップ間接続に用いられていたPCIバスなどの帯域幅の制限から開放されるというメリットもある。この傾向は、ギガビット・イーサネットも例外ではないと考える。

 以上の3つを除いて、クライアントPCに3GIOを必要とする理由があるか、というと現時点で筆者には思いつかない。もちろん、「高速なI/O」というシーズ(種)が提供されることで、思いもよらない、新しい技術が逆に登場するかもしれないし、ぜひそうなってほしいものではあるのだが、スケジュールを遵守する理由にはなりそうもない。

 あえてクライアントPCで3GIOが必要になる別の理由を探せば、動作電圧の問題が挙げられる。IntelがPentium 4対応のチップセット(Intel 850およびIntel 845)から、AGPを1.5V専用にしたことでも明らかなように、今後も進むであろうプロセスの微細化を考えると、I/O技術には広帯域化だけでなく、低電圧化も求められる(一般的に半導体の製造プロセスが微細化するほど、耐えられる電圧の上限は低くなる傾向がある)。PCIバスは5Vと3.3Vに対応しているが、たとえ帯域的に不足がなかったとしても、そう遠くない将来、動作電圧を引き下げることが必要になるだろう。ただ、この「帯域より動作電圧の方がカギになる」という考え方にしても、図6でPCIバスが併設されることを考えると、2004年前後ではこれも時期尚早だと思われる(慎重なIntelのことだから、十分な時間的マージンをもって準備しておきたい、ということはあるかもしれないが)。

PCI-XとHyperTransportの対案としての3GIO

 というわけで、どうしてこのタイミングで3GIOが必要になるのか、ということについて必要性の点からの明確な答えは見つからない。そこで、異なる観点からの答えを探せば、ほかの技術との兼ね合い、ということが考えられる。ここでいうほかの技術とは、PCI-XとHyperTransportだ。現在は、3GIOを次のバス規格として標準化作業を進めるPCI SIGだが、少なくとも2000年のある時点まで、デスクトップPCに対してもPCI-Xの採用の可能性や、パラレル・インターフェイスを維持したままでのPCIのさらなる高速化を探っていた。

 しかしIntelは、こうしたPCIの高速化には一貫して否定的だった。信号線の数が多いパラレル・インターフェイスの高速化は、数多くの信号線の伝送速度を一律に揃えつつ高める必要があり、直ちに設計・製造コストに跳ね返るからだ。PCI-Xの全面的な(クライアントPCも含めた)採用を拒否するためにも、Intelは代案を提示する必要があった。3GIOがPCI SIGに提供されたことで、PCIの後継問題はとりあえず解消した。おそらくPCI-Xは、ISAに対するEISAのように、標準バスに対する高速だが高価なオプションとして、サーバやワークステーション分野では使われることになるだろうが、PCIの次世代にはなり得ないだろう。

 もう1つ考えられるHyperTransportは、AMDが開発したチップ間接続のためのインターフェイスだ。AMDにはHyperTransportをPCIの実質的な後継にする野望があったのではないか、ともいわれるが、AMD自身もメンバーであるPCI SIGが3GIOを次世代の標準とすることで、一件落着した格好になっている。ただ、3GIOがそうであるように、HyperTransportもクライアントPCに絶対に必要かというと、それは必ずしも定かではない。

3GIOの用途はネットワーク機器にある?

 ただ、スイッチを始めとするネットワーク機器には、PCIバスに代わる高速なインターフェイスが求められている。HyperTransportの推進団体であるHyperTransportコンソーシアムのメンバーにPCシステム・ベンダが含まれていないのに対し、Cisco Systemsを始めとするネットワーク機器ベンダが参加しているのも、ネットワーク機器分野において高速なインターフェイスが求められている証だろう。もしIntelが代案を提示しなければ、HyperTransportがネットワーク機器内の標準インターフェイスになってもおかしくない。ネットワーク機器ベンダとしても大手に数えられるIntelにとって、これは望ましいシナリオではなかったハズだ。

 3GIOが登場したからといって、3GIOがネットワーク・チップの標準インターフェイスになると決まったわけではない(PCでは標準インターフェイスになることがほぼ決まりだが)。それでも、ネットワーク・チップがすべてHyperTransportになることは阻止できるだろう。PCI-XやHyperTransportといった、Intelが好ましく思わないインターフェイスが業界標準になることを防止するために、3GIOはこのタイミングで登場する必要があったのではないかと筆者は感じ始めている。記事の終わり

  関連リンク 
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 INDEX
  [技術解説]PCの内部はすべて「シリアル」でつながる
     1. 3GIOの概要
   2. 3GIOの用途
 
「PC Insiderの技術解説」


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