ニュース解説
新しい製造技術の導入でIntelに挑むAMD デジタルアドバンテージ |
米国時間2001年4月27日、AMD(Advanced Micro Devices)が株主総会(Annual Meeting of Shareholders)を開催、2000年度の決算発表とともに、2001年から2002年にかけてのプロセッサのロードマップなどを更新した。なお、2000年11月に公開されたロードマップについては、「ロードマップ:AMDのプロセッサ ロードマップ(2000年11月版)」を参照していただきたい。
AMDのプロセッサ・ロードマップ(2001年4月時点) |
株主総会で公開されたAMDのプロセッサ・ロードマップ。2000年11月に公開されたものから若干変更が加えられている。 |
省電力対応の新モバイルAthlonが5月中に発表
AMDは、開発コード名「Palomino(パロミノ)」で呼ばれる新しいAthlonを、5月中に発表することを明らかにした。ただし、デスクトップPC向けは若干遅れ、ノートPC向けが先行して発表される。Palominoでは、ノートPC向けとデスクトップPC向けの両方で省電力機能の「PowerNow!テクノロジー」が採用され、低消費電力が実現する。これにより、薄型ケースのデスクトップPCにもAthlonが搭載可能になる(すでに日本電気のVALUESTAR Lなどの一部のデスクトップPCでは、薄型ケースにAthlonを搭載しているが、これらは低消費電力に対応できる製品を特別に選んでいる)。動作クロックは、第2四半期中に1.4GHz、第3四半期には1.5GHz、2001年末までにはさらに高速なものを投入する予定だ(公式発表ではないが、関係者の間では1.7GHz以上が投入されると言われている)。
また、デュアル・プロセッサ対応のサーバ/ワークステーション向けチップセット「AMD-760MP」は、「夏前」に出荷が開始されることも明らかにした。AMD-760MPは、すでにいろいろな展示会などでデモが行われており、発表が待たれている製品だ。当初は、2001年3月にも出荷が行されると言われていただけに、「やっと登場するのか」といった感じだ。以前、AMDは既存のAthlonでもAMD-760MPでデュアル・プロセッサが可能であると述べていたが、ロードマップを見ると、どうもPalominoから正式にデュアル・プロセッサ対応とすることに方針を変更したようだ(技術的問題というよりも、マーケティング的な判断と思われる)。
第3四半期には、PalominoのDuron版ともいえる、開発コード名「Morgan(モーガン)」が出荷される。Morganも当初はノートPC向けが優先され、その後にデスクトップPC向けがリリースされる。これにより、PCベンダは、ようやくDuronとAthlonを採用したノートPCや薄型ケースのデスクトップPCでラインアップが作れることになる。株主総会では、どの程度の動作クロックになるかは明らかにしていないが、すでに現行のデスクトップPC向けDuronが900MHzを達成していることから、Morganでは1GHz以上がターゲットになると予想される。
AMDも0.13μmプロセスを2001年末に投入
Intelは、5月末にも製造プロセスに0.13μmプロセスを採用した開発コード名「Tualatin(テュアラティン)」で呼ばれるモバイルPentium IIIを出荷するとうわさされているが、それに遅れること半年、AMDも製造プロセスを0.13μmプロセスに移行させる。0.13μmプロセスを採用したAthlonとDuronは、開発コード名でそれぞれ「Thoroughbred(サラブレッド)」と「Appaloosa(アパルーサ)」と呼ばれており、2001年末から2002年前半にかけて出荷を開始する。ThoroughbredとAppaloosaでは、パイプラインにも若干の設計変更が加えられ、より高いクロック周波数に対応するとも言われている。ThoroughbredとAppaloosaを投入後も、しばらくはPalominoとMorganを並売するようで、AMDでは0.13μmプロセスへの完全な移行は2002年末になると述べている。すでに、ドレスデンの工場では、0.13μmプロセスでSRAMをテスト製造することに成功しており、製造工程の開発は着々と進んでいるようだ。
64bitプロセッサ「Hammerファミリ」ではSOI技術を採用
2002年後半には、0.13μmプロセスとIBMのSOI技術を採用した64bitプロセッサ「Hammerファミリ」が出荷される予定だ。当初は、2001年後半にも発表される予定であったことから、1年ほど先延ばしされたことになる。原因については明らかにされていないが、既存のAthlonが好調なため急いでHammerファミリへ移行する必要がないこと、64bit版Windowsの対応が遅れていることなどが考えられる。また、景気が後退していることから、大規模な投資が必要なHammerファミリを、急いでまで投入しにくいという理由があるのかもしれない。特にHammerファミリは、AMDとしてSOI技術を採用する初めての製品だ。SOI技術は、「頭脳放談:第10回 SOIは夢のテクノロジーか?」でも述べているように、高い動作クロックや低消費電力が実現可能だが、SOIに対応した設計や製造技術が要求される。また、いまのところSOI対応のシリコン・ウエハの価格は高く、生産量も限られている(この点は、年々改善されているが、既存のシリコン・ウエハよりも高価な点は変わらないだろう)。AMDは、2001年末に0.13μmプロセスとSOI技術を採用した最初のサンプルを製造する計画のようだが、こうした新しい技術を使って、かつ、まったく新しいマイクロアーキテクチャを採用した製品を作ることを考えると、やはり2002年後半がギリギリといったところなのだろう。
Hammerファミリは、ファミリと呼ばれるだけあり、いくつかの製品がラインアップされる予定である。現在明らかになっているのは、4〜8プロセッサ対応の開発コード名「SledgeHammer(スレッジハマー)」と、デュアルプロセッサ対応の開発コード名「ClawHammer(クローハマー)」の2種類だ。SledgeHammerは主にハイエンド・サーバ向け、ClawHammerはハイエンド・クライアントPC、ワークステーション、エントリ・サーバ向けとなる*1。またClawHammerは、64bitプロセッサをメイン・ストリームにまで引き下げる役割も担う。今回の株主総会では、ClawHammerのダイ・サイズが、0.13μmプロセス製造で105平方mm程度に収まることを明らかにした。この値は、0.18μmプロセスのPentium IIIとほぼ同じで、Athlonの120平方mmよりも小さい。参考までに、0.18μmプロセスで製造したPentium 4は217平方mmである。このダイ・サイズから、十分にバリューPCクラスでも採用できる価格が実現可能だと予測する。
*1 余談だが、SledgeHammerのもとの意味は「両手で使うほどの大きなハンマー」で、ClawHammer(Claw Hammer)は「(片手で扱える)釘抜きハンマー」だ。Hammerファミリにおける両者の位置付けは、開発コード名のもとの意味からもうかがえる。 |
プロセッサの性能予想 |
株主総会の講演中に示されたAMDのプロセッサ(AthlonとHammerファミリ)の性能予測。このグラフを見ると、Athlonが2001年末に現行の1GHz版の2倍の性能を達成する。また、Hammerファミリは、現行のAthlon-1GHzの3倍以上の性能で登場することになる。 |
なお、Hammer対応チップセットは、当初はAMDが開発、販売を行う。SledgeHammer対応チップセットは、AMDが開発したHyperTransportが初めて採用されると言われている。HyperTransportは、ボード上に実装されるチップ間のインターフェイス技術である(「元麻布春男の視点:AMDがHyperTransportを公開した理由」参照)。Athlon向けチップセットと同様、サードパーティに対して関連技術のライセンスを提供し、やがてはサードパーティ製が主に使われることになるようだ。このあたりのAMDの姿勢は、従来から変更がない。
Hammerファミリは、IntelのItaniumと異なり、AMD独自のx86-64アーキテクチャと呼ぶ64bit命令セットを採用する。そのため、64bit環境におけるOSサポートが気になるところ。すでにLinuxに対しては、開発に向けて動き始めている(x86-64アーキテクチャの開発者向けホームページ)。しかし、64bit版Windowsに関しては、これまでMicrosoftからのアナウンスはなく、対応が疑問視されてきていた。ところが、AMDのW.J.Sanders III会長は4月の株主総会で、「MicrosoftがHammerに対応した64bit Windowsを提供すると発表している」と述べ、Hammer対応の64bit版Windowsの提供が行われることを明らかにした。
SOI技術を用いた32bitプロセッサ「Barton」の存在が明らかに
Athlonについては、0.13μmプロセス版(開発コード名「Thoroughbred」)まではロードマップで明らかにされてきたが、それ以降の予定は示されていなかった。そのため、AthlonはThoroughbredが最後で、それ以降はHammerファミリへ移行することになるとも言われてきた。しかし、新しく示されたロードマップでは、2002年後半に開発コード名「Barton(バートン)」で呼ばれるAthlon系列の32bitプロセッサを用意していることを明らかにした。Bartonでは、Hammerファミリで採用するSOI技術を用いることで、Thoroughbredよりも高い動作クロックを実現するようだ。
このようにAMDは、2002年後半まで半年ごとにAthlon/Duronに新しい製造技術を投入し、動作クロックの向上と消費電力の低減を実現していく。2002年後半に第1世代のHammerファミリが出荷されるが、本格的に立ち上がりを見せるのは2003年に入ってからになるだろう。今後、1年半はAthlon対Pentium 4の性能競争ということになる。
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ロードマップ
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AMDのプロセッサ ロードマップ(2000年11月版) |
頭脳放談:第10回 SOIは夢のテクノロジーか? | |
AMDがHyperTransportを公開した理由 |
関連リンク | |
株主総会の講演記録 | |
株主総会のプレゼンテーション | |
x86-64アーキテクチャの開発者向けホームページ |
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