ニュース解説

―IDF Fall 2001レポート―
Hyper-Threading、3GIO、Serial ATA―2003年のPCが見えたIDF
 
1.新しいプロセッサ技術の潮流

元麻布春男
2001/09/11

 毎年2回、春と秋に開かれるIntelの開発者向けカンファレンス「Intel Developer Forum(IDF)」。それぞれ、まず米国で開かれ、アジア各地を巡業する、というパターンとなっている。先日、8月27日から30日までの4日間、秋のIDFの口火を切って、米国のカリフォルニア州サンノゼ(San Jose)でIDF Fall 2001が開催された。

 今回に限らず、ここ数回のIDFに共通するのは、「近い将来については寡黙、遠い将来については饒舌」という傾向だ。たとえば今回、将来のIA-32プロセッサが採用する技術として「Hyper-Threading(ハイパースレッディング)」、将来のモバイルPC向けIA-32プロセッサのアーキテクチャとして「Banias(バニアス)」がそれぞれ紹介された。

新しいプロセッサ技術−Hyper-Threadingとは

 Hyper-Threadingテクノロジは、1つのCPUを仮想的に2つのCPUに見せかけることにより、スレッド・レベルでの並列実行度を向上させようという技術だ。これにより、現在利用率が35%程度といわれるNetBurstアーキテクチャ・プロセッサ(Pentium 4)の実行ユニットの利用効率を向上させよう、というものだ。Intelによれば、Hyper-Threadingにより、性能が最大30%程度向上するという。

Hyper-Threadingの概念
見かけ上、2つのプロセッサに見せることで、実行ユニットの使用効率を高め、性能を向上させようという技術。いくつかのレジスタなど、少ないリソースの追加で、最大30%の性能向上が図れることから、Intel Xeon MPから順次デスクトップPC用プロセッサにも展開される予定である。

 しかし、最初にHyper-Threadingが有効化されたプロセッサが登場するのは、2002年にリリースされるIntel Xeon MPからとなる。Intel Xeon MPは、4プロセッサ構成以上をサポートし、オンダイで3次キャッシュを実装した、サーバ/ワークステーション向けのプロセッサだ。デスクトップPC向けやモバイルPC向けのプロセッサにHyper-Threadingが実装されるのは、もう少し先の話となる。ただし将来、Hyper-ThreadingテクノロジがすべてのNetBurstアーキテクチャに実装されることをIntelは明らかにしている。

Intel Xeon MP
2002年初頭に発表予定のサーバ/ワークステーション向けプロセッサ。Pentium 4と同じNetBurstアーキテクチャを採用し、4プロセッサまでのマルチプロセッサ構成が可能となる。

Baniasは性能よりも消費電力を優先する

 一方のBaniasは、「性能向上よりも消費電力の削減に力点を置いた、新しいモバイルPC向けのプロセッサ・アーキテクチャ」だ。一言で表せばこういうことだが、実はこれは画期的な出来事である。下のスライドは、ポール・オッテリーニ(Paul Otellini)上級副社長の基調講演に使われたものだが、これにBaniasの特質が象徴されている。これまでのプロセッサは、「極力消費電力を抑えながら、性能を向上させる(Increasing Performance While Constraining Power)」ということが基本方針だった。したがって、プロセスの微細化などにより消費電力を減らす余力が生まれた場合も、消費電力を減らす代わりに、その余力をプロセッサの動作クロックの引き上げに使ってきた。そのため、真の意味で消費電力が低くなることはなかった(消費電力を示すグラフの緑線は上昇を続けている)。

プロセッサの性能と消費電力の関係(拡大画像:38Kbytes
ポール・オッテリーニ上級副社長がプレゼンテーションで示した性能と消費電力の関係。「Increasing Performance While Constraining Power」の部分(スライドの青色の部分)では、プロセスの微細化などで消費電力を減らす余力が生まれても、2次キャッシュの増量や動作クロックの向上などにより、実際にはあまり消費電力は低減されていない。 一方、Baniasでは「Reducing Power While Maintaining High Performance」 の方針(スライドの緑色の部分)により、性能は横ばいでも、消費電力を削減する方向に移る。

 しかしBaniasでは、高性能を維持しながら消費電力を減らす方針が明らかにされた(Reducing Power While Maintaining High Performance)。性能を示す赤線は横ばいのままで、緑線が下降している。もはやBaniasでは、必ずしも性能が向上するとは限らないのである。これは一大方針転換といってよい。もちろん、このポール・オッテリーニ上級副社長の基調講演の冒頭では、下のスライドが提示されている。すなわち、Baniasのようなテクノロジを採用するベースにも、必ず絶え間ないプロセッサの動作周波数の向上があるわけで、Baniasになったから性能向上が止まる、というわけではないと思う。しかし、「性能を抑えてでも消費電力を下げる」というのは、これまでになかったベクトルに違いない。

今後の登場する技術(拡大画像:30Kbytes
新たな技術によって、性能向上は続く。消費電力を優先するBaniasでも、この点は変わらないはずだ。
 
Banias
イスラエル開発センターのモーリィ・エデン(Mooly Eden)氏がビデオでBaniasの特徴について説明した。

 そのBaniasだが、中核となる技術は、

  • Aggressive Clock Gating
  • Special Sizing Techniques
  • Micro Ops Fusion

の3つ。Aggressive Clock Gatingとは、プロセッサ・コアの中で、使われていない部分へのクロック供給を断つことで、低消費電力を実現しようというもの。Special Sizing Techniquesというのは、プロセッサを構成する回路を、必要ギリギリな大きさや性能にすることで、余分な電力を消費しないようにしようというものである。

 残るMicro Ops Fusionは、複数のMicro Ops(マイクロ命令)を1つに融合させることで、1サイクルあたりのマイクロ命令処理数を増やし、性能を向上させる技術だ。といっても、どうしてそれが可能なのか、といった詳細は今回明らかにされなかった。Baniasが登場する2003年までには、細かな情報が公開されるものと思うが、開発がイスラエル開発センタ(Israel Development Center)で進められていることと合わせ、どうもミステリアスな雰囲気が漂っている(Baniasはイスラエルの川の名前)。

 

 INDEX
  [ニュース解説]2003年のPCが見えたIDF
  1.新しいプロセッサ技術の潮流
    2.2001年末の製品が見えてこないIDF
 
「PC Insiderのニュース解説」


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