ニュース解説
―IDF Fall 2001レポート― 元麻布春男 |
Hyper-ThreadingとBanias以外にも、今回のIDFでは、Intelの研究・開発について紹介する基調講演、あるいはプレス向けのブリーフィングなどが設けられ、将来に向けてIntelが準備を怠っていないことを印象付けた。その反面、年末商戦にどんな製品が投入されるのか、といった近々のことに関しては、きわめて情報が少なかった。
例えば、2001年末には0.13μmプロセス製造による開発コード名「Northwood(ノースウッド)」で呼ばれるPentium 4がリリースされることは、以前から明らかになっている。しかし、その直近のIDFである今回も、Northwoodの動作電圧や2次キャッシュ容量、提供されるクロック周波数、といった情報は公開されなかったのである。2002年前半に投入されるモバイルPC向けのPentium 4も同様で、今回初めて動作しているサンプルが公開されたものの、用いられているメモリ・モジュールが(ノートPC向けの)SO-DIMMでなければ、それと気付かないくらいのものであった。デスクトップPC向けPentium 4を3.5GHzで、またモバイルPentium 4を2GHzで、それぞれ動作させる、といったショー的な演出はあったものの、情報という点では必ずしも十分ではなかったように思う。
モバイルPentium 4の参考展示 |
初めて公開されたモバイルPentium 4。メモリ・モジュールがSO-DIMMでなければ、通常のデスクトップPC用と間違いそうだ。 |
同じようなことは、プロセッサ以外の技術にも該当する。今回、2日目の基調講演に立った、Desktop Platformsグループのジェネラル・マネージャーであるルイス・J・バーンズ(Louis J. Burns)副社長の基調講演では、Intelプラットフォームを支える重要なI/O技術として、Third Generation I/O(3GIO)、USB 2.0、Serial ATAの3つのシリアルI/O技術を挙げた。
見えてこないIntelのUSB 2.0へのロードマップ
このうちUSB 2.0については、すでに規格化が完了しており、Microsoftのドライバ・サポート計画もほぼ明らか(Windows XPのリリースには含まれないが、リリースとほぼ同時にデバイス・ドライバが提供される)になっており、後は実装を待つばかりの状態となっている。しかし、これだけ実用化が迫った技術であるにもかかわらず、Intelがいつ、どのような形で製品を発表するのか、USBホスト・コントローラをチップセットに統合するのか、という情報は明らかにされなかった。
明らかなのは、現在Intelが出荷中、あるいは発表済みのPentium 4対応マザーボードのすべてに日本電気製USB 2.0ホスト・コントローラ用の空きパターンが用意されていることだ。ソフトウェア環境が整い次第、オプションとしてUSB 2.0ホスト・コントローラを別チップとして実装したマザーボードが提供されるものと思われる。
USB 2.0ホスト・コントローラを実装することの意味は、USB 2.0対応の周辺機器が利用可能になるというだけではない。これに合わせて、CNR(Communication and Networking Riser:モデムやネットワーク用の専用スロット規格)でもUSB 2.0の帯域が利用可能になる、ということでもある。会場には、現行のUSB 1.1に対応したCNR用の無線LAN(IEEE 802.11b)カードが展示されていたが、USB 2.0なら最大50Mbits/sの無線LANであるIEEE 802.11aに対応することも可能になるだろう。しかし、USB 2.0がICH(I/O Controller Hub:チップセットのうち、各種I/Oデバイスを集積しているチップ)に統合されなければ、こうしたアドオン製品の展開が難しいのも事実。Intel製チップセットによる標準サポートが待たれるところだ。
CNR用無線LANカード | |||
会場に展示されていたCNRのIEEE 802.11b対応無線LANカード。CNRに設けられているUSBインターフェイスに接続する形でIEEE 802.11bが実装されている。 | |||
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実用化に近付きつつあるSerial ATA
次に実用化の時期が近いのはSerial ATAだが、こちらについてもIntelの製品化計画はハッキリしない。併催の展示会場では、Intelのブースに製品レベルのSerial ATA対応コネクタが展示されていたし、ケーブルもこれまでの平たいものから、断面が真円に近いもの(折り曲げ方向の自由度が高い)が登場しており、着実に実用化に向かっていることが分かる。実際、こうしたコネクタやケーブル、あるいはSerial ATAに対応したホスト・コントローラ・チップの出荷は、2001年内にも始まるとのことであった(これらを用いたSerial ATA対応の最終製品の出荷は2002年になる模様)。ホットプラグ機能を除けば、Serial ATAのサポートに新たなドライバ・サポートは不要なハズであり、ソフトウェア環境が整うのを待つ必要はない。
Serial ATA対応コネクタ | ||||||
これまでは試作品ばかりで、製品レベルのSerial ATA対応コネクタは展示されたことがなかった。今回のIDFで初めて製品に近いものが展示された。こうしたことからもSerial ATAの製品化が近いことがうかがえる。一番右が電源コネクタで、中央が信号用コネクタだ。いずれもホットプラグを意識して、グラウンド(0V)端子の接点が長くなっている。その左に見えるのはテスト用の端子で、ジャンパ・スイッチではない(Serial ATAはポイント・ツー・ポイント接続であるため、マスタ/スレーブの設定は存在しない)。会場には、既存の電源コネクタをSerial ATAの電源コネクタに変換するケーブルも展示されていた。 | ||||||
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しかし、Intel製チップセットへの統合ということになると、具体的なロードマップは示されないままだ。分かっているのは、現時点でIntelにはUltra ATA/133(Maxtorなどが提唱している最大転送レート133Mbytes/sのパラレルIDE仕様)をサポートする計画はなく、現行のUltra ATA/100から直接Serial ATAへ移行する予定であること、最初にSerial ATAを実装するチップセット(ICH)は移行措置として、パラレルのUltra ATA/100とSerial ATAの両方をサポートするものになるであろうこと、といった点だけ。おそらく、最初のIntel製Serial ATA対応製品は、USB 2.0同様、マザーボードにサードパーティ製のSerial ATAホスト・コントローラを実装したものになりそうだが、ハードディスク・ベンダに移行を促すという点で、ICHによる標準サポートが求められるだろう。
PCが変わる、3GIOで変わる
残る3GIO(3rd Generation I/O)は、PCIの後継となる汎用I/Oインターフェイスとして、その存在が2001年春のIDFで明らかにされたものだ。実用化時期は資料により異なるが、2003年後半から2004年ということで、まだ2年以上先の話となる。3GIOはシリアルの単方向のインターフェイスで、入力と出力、それぞれの方向に最低1チャンネルを必要とする(最小構成となる1bit幅のチャネルを3GIOでは「レーン」と呼ぶ)。レーンあたりのデータ転送速度は2.5Gbits/s(約300Mbytes/s)で、実装に際しては必要な帯域に応じて1レーン(1bit幅)から32レーン(32bit幅)までスケーラブルになっている(ただし2.5Gbits/sは最初の実用化時点でのデータ転送速度であり、データ転送速度そのものの引き上げも予定されている)。
3GIOのゴールは、組み込み用途やモバイルから、デスクトップPC、さらにはワークステーション/サーバまで、幅広いセグメントに対し、チップ間の接続、ボードとボードの接続(マザーボードに対する拡張カード用スロットの実装を含む)、そして機器間のドッキング用途を実現する、最もコスト・パフォーマンスの高いソリューションを提供することにある。逆に3GIOは、マルチプロセッサ・バス、メモリ・インターフェイス、クラスタリングといった用途に用いることを想定しないことが明言されている。
下の図は、将来のクライアントPCの構成を示したスライドだが、3GIOがAGP(グラフィックス:3GIOをベースにしてSerial AGPが規格化される模様)、HubLink(ノースブリッジとサウスブリッジの接続)、PCI(拡張スロットおよびオンボードI/O接続)の3つを置き換えようとしていることが分かる。そして、AGPの置き換えには4〜8レーン程度、PCIの拡張スロットの後継には1〜2レーン程度が考えられているようだ。また、2年も先の実用化であるにもかかわらず、こうした場合にコネクタをどう配置するか、といった点まで情報が公開されたのも、遠い将来のことについては饒舌、という印象を強めたように思う。
3GIOの接続例(拡大画像:29Kbytes) |
AGPやHubLink、拡張カード・スロットなどが3GIOで置き換えられることが分かる。3GIOが実用化されると、PC内部のシリアル化が大幅に進むことになる。 |
なお、余談になるがこの3GIOのセッションで、HubLink2(HL2)なるものの存在が明らかにされた。これまでクライアントPC向けの800番台のチップセットには、8bit幅でベースクロック66MHzのHubLink(HL1)が使われてきた(データ転送速度は4倍の266Mbytes/s)。一方、ワークステーション向けのチップセット(Intel 840やIntel 860)には、66MHz/64bitのPCIバスをサポートするために16bit幅のHubLinkが提供されてきたが、そのデータ転送速度はHL1と同じ4倍であった(帯域はバス幅が2倍になったことを受けて533Mbytes/s)。HL2は、バス幅が16bitであるだけでなく、データ転送速度が8倍になっており、帯域が1Gbytes/sに拡大されている。このHL2が、どのようなプラットフォームを想定しているものか(クライアントPCでの利用を想定しているのか)は分からないが、現行のHubLink(HL1)と3GIOの間を埋める橋渡し的な役割を務める可能性はある。
3GIOのプレゼンテーションで明らかになったHL2の存在(拡大画像:33Kbytes) | |||
プレゼンテーションの中にHL2の文字が見える。これを見ると、現在のHubLinkアーキテクチャで採用されているHL1の2倍のデータ転送速度を実現することが分かる。 | |||
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今回は駆け足でIDF Fall 2001の模様をお伝えした。Hyper-Threadingや3GIOについては、今後改めて詳しく解説する予定である。今回のIDFは、いままで以上に将来のPCについて饒舌であった。これは、世界的な景気後退の懸念から、将来のPCの姿を具体的に見せることで、今後もPCが成長し続けることを強調したかったのかもしれない。その一方で、近々の話になると寡黙になってしまうのは、やはり景気後退の懸念から具体的な製品計画が流動的であるからだろう。2002年2月に予定されているIDF Spring 2002では、より近い将来について具体的な話が行えるような環境になっていることを望みたい。
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次世代の標準ディスク・インターフェイス「シリアルATA」のすべて |
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[ニュース解説]2003年のPCが見えたIDF | ||
1.新しいプロセッサ技術の潮流 | ||
2.2001年末の製品が見えてこないIDF | ||
「PC Insiderのニュース解説」 |
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