ニュース解説
Pentium III-1.13GHz登場の背景 小林章彦 |
2000年7月31日、Intelが1.13GHz版Pentium IIIの「限定出荷」を開始した(IntelのPentium III-1.13GHzの限定出荷に関するニュース・リリース)。同日、デルコンピュータは、同プロセッサを搭載した「Dimension XPS B1130r」の出荷を始めた(デルコンピュータの「Dimension XPS B1130r」に関するニュース・リリース)。なお、日本では時差の関係で、インテルよりもデルコンピュータの発表のほうが1日早かった。
Pentium IIIとAthlonの性能競争の結果は? |
IntelがPentium IIIを特定の顧客(PCベンダ)に限定して出荷するのは、1GHz版(2000年3月9日発表)に続いて2度目のことになる(IntelのPentium III-1GHzの限定出荷に関するニュース・リリース)。「限定出荷」とは、すべてのPCベンダの需要を満たすだけの生産が行えない(つまり歩留まりが悪い)ため、特定の顧客にのみ出荷を行うということである。これまでIntelは、ほとんどのPCベンダの需要を満たせる見通しが立ってから製品の発表、出荷を行っていた。「限定出荷」の導入は、方針を転換したことも意味する。
Pentium III-1GHzを限定出荷という形で発表したのは、3月7日にAMDが1GHz版のAthlonを発表(日本AMDのニュース・リリース)したためだ。このとき、Pentium IIIはすでに2次キャッシュをプロセッサ・ダイに同梱した、いわゆる「Coppermineコア」を採用していた。それに対しその時点では、Athlonは2次キャッシュを同梱していなかったため、同じ動作クロックの場合、Pentium IIIのほうが20%程度高速であった。つまり性能に関しては、Pentium III-1GHzのすぐ後(3月21日)に発表したPentium III-866MHz版でも、十分にAthlonに対抗できたはずなのだ(Pentium III-866MHz発表のニュース・リリース)。これまでのIntelならば、Pentium III-866MHzを前倒しで発表し、クロックではない実性能を強調することで対抗していたはずである。にもかかわらず、1GHz版のPentium IIIを限定出荷という中途半端な形で発表したのは、1GHzプロセッサの「称号」をAthlonに長期間に渡って保持されることをIntelが嫌ったためだ。
IntelがPentium III-1.13GHzを限定出荷した理由
では、なぜ今回Pentium III-1.13GHzを限定出荷したのだろうか。このカギは、AMDが7月28日に発表した「2000年下半期の業績見通し」のニュース・リリースにカギがある。このリリースの中でAMDは、
「1.1GHz(ギガヘルツ)動作のAMD Athlonプロッセッサの量産出荷を第3四半期に開始する予定ですが、さらに高速なバージョンも第4四半期に投入する計画です 」 |
と述べており、近々1.1GHz版のAthlonを出荷することを明らかにしている。その後、日本AMDは「8月28日(米国時間)より量産出荷を開始する計画である」とプレス向けにコメントを出している。当然のことながら、Athlon-1.1GHzは2次キャッシュをプロセッサ・ダイに同梱したThunderbirdコアになる。CoppermineコアのPentium IIIとThunderbirdコアのAthlonの場合、同じ動作クロックではAthlonのほうが若干高速であるというベンチマーク・テストの結果が得られていることから、このままの状態ではAthlonに性能面で大幅に遅れをとってしまい、イメージ・ダウンが避けられない。そこで、Intelは事前にAthlonをけん制する意味を込めて、1.13GHz版を投入したものと思われる。
また、1GHz版が中位のPCベンダにまで供給され始めていることから、高クロック版のPentium IIIの歩留まりが順調に向上していることが伺える。今回の1.13GHz版を現時点で発表できたのも、こうした背景があるためと思われる。
Intelは、すでにPentium 4の発表を準備する段階に入っているが、このようにAthlonに対してはPentium IIIで対抗していく姿勢がみえる。もちろん、AMDはAthlonの2次キャッシュを増した開発コード名「Mustang」でPentium 4に対抗していくはずだ。IntelとAMDの性能競争は、まだまだ続くことになる。
「PC Insiderのニュース解説」 |
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