ニュース解説
AMDが2次キャッシュをプロセッサ・ダイに同梱したAthlonとエントリPC向けDuronを発表 小林章彦 |
新しいAMD Athlonプロセッサ |
プロッサ・ダイに2次キャッシュを同梱したことにより、1チップ化が行われた。これにより、PGAパッケージによる供給も可能になった。 |
2000年6月5日、米Advanced Micro Devices(AMD)社は、台湾の台北市で開催されたCOMPUTEX TAIPEI 2000で、2次キャッシュをプロセッサ・ダイに同梱した新しい「AMD Athlon」とエントリPC向けの「AMD Duron」の2種類のプロセッサを発表した(AMD社のニュース・リリース)。今回の発表は、2000年春に公開されたAMDのロードマップのとおりであり、順調に製品開発が進んでいたことを示すものだ。
今回発表されたAthlonは、開発コード名で「Thunderbird(サンダーバード)」と呼ばれていたもの。また、Duronは同様に「Spitfire(スピットファイア)」と呼ばれていたものだ。新しいAthlonは256Kbytesの2次キャッシュを、Duronは64kbytes(2000年6月5日時点では未発表、推測値)の2次キャッシュを、それぞれプロセッサ・ダイに同梱し、プロセッサと同じクロック周波数でアクセス可能となっている。これまでのAthlonは、512Kbytesの2次キャッシュをCPUカートリッジに内蔵していたものの、チップとしては別々であった。このような外付けタイプの2次キャッシュ・メモリの最大クロック周波数は、最近のx86プロセッサの動作クロックに対して、まったく追いつかないのが現状だ。そのため、動作クロックが700MHz以下のAthlonでプロセッサの1/2、750MHzから850MHzで2/5、900MHzから1GHzで1/3と、プロセッサのコア部分の動作クロックが高くなるほど、2次キャッシュのアクセス速度は遅くなっていた。今回、2次キャッシュをプロセッサ・ダイに同梱したことにより、2次キャッシュのアクセス速度が向上し、特に1GHzといった高い動作クロックの製品ほど、より性能が向上すると予想される。
AMDが同社のホームページ上で公開したベンチマーク・テストの結果によると、BAPCoのSYSmark2000(Windows 98)というベンチマーク・テストでは、Athlon-1GHzの194.5に対し、Pentium III-1000EB MHz(Intel 820システム採用)では194、Athlon-800MHzの170.5に対し、Pentium III-800EB MHz(同)は170となっており、若干ながらAthlonが上回っている。これまでのAthlonは、2次キャッシュをプロセッサ・ダイに同梱したPentium III(開発コード名、Coppermine)に対し、同じ1GHz版で20%ほどの性能が低かったことを考えると、2次キャッシュをプロセッサ・ダイに同梱した効果が実証されたということだろう。
新しいAthlonは、これまでのAthlonと同じSlot A対応のカートリッジに加え、新たに462ピンのZIFソケットのSocket Aに対応したPGAパッケージによる提供が行われる。一方、DuronはSocket A対応のPGAパッケージのみとなっている。これまでのAthlonからの主な変更点は以上で、そのほか128Kbytesの1次キャッシュ、200MHzのシステム・バス、エンハンスト3DNow!テクノロジの採用、0.18μmの製造プロセスの採用など、仕様の変更はない(ただしAthlonには、後述のように一部に銅配線を採用したバージョンがある)。このように今回発表されたAhtlonは、単に2次キャッシュをプロセッサ・ダイに同梱し、Socket Aのパッケージが選択できるようになったものだと思えばよい。今回、発表されたプロセッサの動作クロックと価格は以下のとおり。
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AthlonとDuron、Pentium III/Celeronの1000個ロット時の単価 |
なお、同日に公開となったデータ・シートには、Athlonの650MHzと700MHzについてもオーダー・パーツ・ナンバー(OPN:注文番号)が記載されており、OEMからの要求によっては提供の可能性があることを示唆している。また、PGA版のデータ・シートにあるOPNの見方のページには、「Size of L2 Cache: 2=128Kbytes, 3=256Kbytes」といった記述があり、2次キャッシュを128Kbytesとした廉価版(もしくはノートPC版)を出荷する可能性を感じさせる。
AMDは、今回のAthlonとDuronの発表に合わせ、ドイツのドレスデンにあるFab 30という半導体工場から新しいAthlonの出荷を開始したことも発表している(AMDのFab 30に関するニュース・リリース)。Fab 30は、米Motorola社との提携により、銅配線技術向けに建設された工場である。なお、銅配線技術は、従来のアルミ配線に比べ、より高速に半導体回路を駆動できると期待されているものだ。今回のAthlonは、従来からの0.18μmの製造プロセスを持つFab 25に加え、新しくFab 30からも出荷される。つまり、新しいAthlonには、アルミ配線のものと、銅配線のものの2種類が存在することになるわけだ。配線技術が異なる以上、動作電圧や発熱量などの仕様が異なる可能性が高いが、どのような形(動作クロックやパッケージ)で両者を分けるのかは、2000年6月5日時点では不明だ(データ・シートには両者の違いに関する記述はない)。
AthlonおよびDuron搭載PCの予定
今回発表されたAthlonおよびDuronを搭載したシステムは、Compaq、Fujitsu-Siemens、Gateway、Hewlett-Packard、IBM、日本ゲートウェイ、ソーテック、エプソンダイレクト、ソフマップ、九十九電機、CSK・エレクトロニクス(T-ZONE)、フェイスといった各PCベンダが出荷を予定しているという。ただし、6月5日時点で各PCベンダから具体的な製品発表は行われていない。
プロセッサの価格を見ても分かるように、AthlonとDuronは、それぞれPentium IIIとCeleronと同価格か若干安価な値付けが行われている。2次キャッシュをプロセッサ・ダイに同梱したことにより、性能面でもほぼ互角になったことから、今後Intelがどのように対抗してくるのかが楽しみだ。Athlonが登場し、Pentium IIIとの激しい性能競争の末、ハイエンドPC向けプロセッサの性能が著しく向上したように、DuronとCeleronとの性能・価格競争により、エントリPCの性能向上と低価格化が加速されることに期待したい。
関連リンク | |
新型Athlonの発表とDuronの出荷開始に関するニュース・リリース | |
BAPCoのWebページ | |
ドイツのドレスデンにある半導体工場Fab30から新型Athlonの出荷を開始したことに関するニュース・リリース |
「PC Insiderのニュース解説」 |
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