元麻布春男の視点
USBがIEEE 1394を駆逐する!?


元麻布春男
2001/03/23

 かつて、USBIEEE 1394には、さまざまな違いがあった。データ転送速度、ピア・ツー・ピア(Peer To Peer:各ノードが対等な関係を持ち、間に特別なサーバなどを介することなくデータをやり取りする機能)のデータ交換能力の有無、実装にかかる価格、そして何より利用に際してPCというホストが不可欠かどうか、ということが大きな相違点となってきた。機能的、性能的に両者が異なることで、棲み分けが図られると考えられてきたのである。

 しかし、こうした構図は徐々に崩れつつある。高速化に関する議論がなかなかまとまらないIEEE 1394(P1394b)に対し、USBはIEEE 1394aを上回る480Mbits/sのデータ転送速度をサポートしたUSB 2.0の規格化が完了している(「PCの理想と現実:第5回 USBの建前と本音、IEEE 1394の理想と現実?--2. IEEE 1394の理想と現実」参照) 。いまやUSB 2.0は、OSのサポート待ちという状態になりつつある(どうやら、Windows XPも最初のリリースはUSB 2.0のサポートがないようだ)。

 ピア・ツー・ピアのデータ交換ができないUSBと、可能なIEEE 1394という基本的な図式は、こと規格を前提にする限り、今も何ら変らない。だが現在、広く普及している4ピン・コネクタのIEEE 1394(i.LINK)は、IEEE 1394のサブセットであり、基本的にポイント・ツー・ポイントの接続しかサポートしていない。つまり、ことi.LINKに関する限り、このメリットを生かしているとは言い難いのだ。結局、現実の実装面では、PCがなければデータ交換が始まらないUSBと、PCがなくてもデータ交換が可能なIEEE 1394、というのが最大の違いになっている。

USB On The GoがPC抜きのUSB接続を可能にする

 この垣根を崩そうとするものが現れた。それが「USB On The Go」だ。上述の通りUSBは、ホストであるPCに、スレーブ・デバイスを接続する、という形態をとっていた。例えば、デジタル・カメラの画像をプリンタに出力する場合、カメラとプリンタの両方がUSBに対応していても、PCがなければカメラの画像をプリント・アウトすることができない。ケーブルも、直接カメラとプリンタの接続ができないよう、ホスト側のコネクタ(Aコネクタ)とスレーブ側のコネクタ(Bコネクタ)が、それぞれ定められていた。上の例で言えば、カメラからのケーブルも、プリンタからのケーブルも先端にはAコネクタがついており、PC(あるいはUSBハブ)に接続しなければならないようになっている。

USBのホスト側コネクタ(左)とスレーブ側コネクタ(右)
このようにUSBでは、ホスト側とスレーブ側でコネクタ形状が異なる。これはホスト同士あるいはスレーブ・デバイス同士を間違って接続してしまうのを防ぐためだ。

 USB On The Goは、デジタル・カメラなど、通常(PCと接続される場合)はスレーブとして機能するデバイスに、ホスト・モードを加えることで、PCを介さないUSBデバイス同士の直接接続を可能にしようというものだ。つまり、「デジタル・カメラに直接プリンタを接続し、そのままプリント・アウトできるようにしよう」ということである。こうした直接接続が可能になることで、例えば、

  • デジタル・カメラの画像を直接携帯電話に転送して待ち受け画面に設定する
  • MP3プレーヤと(MP3再生能力を持つ)PDA間で直接MP3ファイルをやり取りする
  • PDAでのデータ入力に汎用のUSBキーボードを使えるようにする

など、さまざまな使い道が開かれると考えられる。もちろん、こうしたUSBデバイスのホスト・モードは、これまでのスレーブ・モードに追加される形をとるため、今までどおりスレーブ・デバイスとしてPCに接続することも可能だ。また、ホストにもスレーブにもなるデバイスに対応するため、新しい小型のコネクタも現在開発中である。

USB On The Goの登場でIEEE 1394はニッチ市場へ

 このUSB On The Goは、USB 2.0を補完する規格として、現在標準化作業が進行中だ。2001年夏頃にも草案がまとまる予定であるという。その主要なメンバーは、TransDimension、Ericsson、Qualcomm、Nokia、Hewlett-Packard、Kodak、Imation、Palm Computing、日本電気、Intel、Microsoftといったところである。携帯電話機、PDA、デジタル・カメラといった製品を持つ会社が名前を連ねているのに対し、IEEE 1394の支持母体と考えられる、いわゆる家電メーカーの名前が見当たらないのは当然のところか。

USBインターフェイスを搭載したポータブルMDプレーヤ
シャープのポータブルMDプレーヤ「MD-MT77」はUSBインターフェイスを搭載する。オプションの「USB接続パソコンリンク」を利用することで、USB経由によるWAVやMP3などの音楽ファイルのデジタル録音が可能だ。

 たとえUSB On The Goが登場しても、フルスペックのIEEE 1394と比べれば、その機能ははるかに限定されたものに過ぎない。だが、現実にはフルスペックのIEEE 1394がほとんど普及しておらず、ポイント・ツー・ポイントのIEEE 1394(i.LINK)でさえ、広範な普及には至っていないのが現状だ。というより、広く普及しているアプリケーションはDVカメラのみ、といってもよい状況にある。デジタル・カメラやMP3プレーヤは、家電なのかPC周辺機器なのか、今のところハッキリしないグレー・ゾーンにある製品だが、こうした製品のほとんどはUSB対応だ。家電でも、USBに対応したMDプレーヤが増えていることなどを考えると、PCのインターフェイスであるUSBが、徐々にほかの市場を侵食しつつあるようにみえる。これは、USBが標準として、互換性や接続性の点で、市場からの一定の評価を獲得したからにほかならない。高速なUSB 2.0、そしてUSB On The Goの登場で、この傾向は一層強まるものと考えられる。規格としては優位性を持つハズのIEEE 1394だが、このままでは一般にはビデオ・キャプチャのインターフェイスとしてしか認識されなくなってしまう可能性さえでてきた。記事の終わり

  関連記事
第5回 USBの建前と本音、IEEE 1394の理想と現実?--2. IEEE 1394の理想と現実

  関連リンク
USB On The Goの機能紹介ページ
ポータブルMDプレーヤ「MD-MT77」に関するニュースリリース
 
「元麻布春男の視点」

 



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