元麻布春男の視点
RADEON 8500はグラフィックス市場に新風を巻き起こすか?(1)


元麻布春男
2001/11/17

 初代GeForce 256と、それによるハードウェアT&L時代の到来以降、ハイエンド向けグラフィックス・チップの市場は、ほぼNVIDIAの独り勝ちの様相を呈してきた。この間、S3や3Dfx Interactiveなどのライバルが脱落していく中で、何とか踏ん張ってきたのがノートPC向けのグラフィックス・チップで大きなシェアを持っているATI Technologiesだ。前作のRADEON(現製品名RADEON 7200)は、NVIDIAを脅かすまでには至らなかったものの、同社がNVIDIAに対して競争力を持ちうる可能性を示したものだった。

 そのATI Technologiesが、このクリスマス商戦向けにグラフィックス・チップのラインナップを一新、シリーズ名をRADEON XXXX(XXXXは数字)に統一した。この新しいRADEONシリーズとNVIDIA製グラフィックス・チップとの競争関係を示したのが下の表だ。上位2製品は、いずれのベンダもDirectX 8.xのプログラマブル・シェーダ(後述)に対応した製品を揃えているが、これに該当する製品をリリースできているのは現時点で、この両社だけである。最も下位(表のミドルレンジ)では、GeForce2 MX200がハードウェアT&Lを備えているのに対し、RADEON 7000はハードウェアT&Lをサポートしていない。一方で、デュアル・ディスプレイのサポートはRADEON 7000の方が優れていると思われるので、全体的にはかなり拮抗した、いいライバル関係だと思われる。

ATI Technologies NVIDIA
ハイエンド RADEON 8500 GeForce3 Ti 500
RADEON 8500 LE GeForce3 Ti 200
RADEON 7500 GeForce2 Ti
RADEON 7200 GeForce2 MX400
ミドルレンジ RADEON 7000 GeForce2 MX200
表1 ATI TechnologiesとNVIDIAの競争関係

戦略を転換してグラフィックス・チップの外販を始めたATI

 もう1つ両社のライバル関係を変えたのは、2001年になってATI Technologiesが行った販売戦略の変更だ。これまで、ATI TechnologiesはASUSTeKやCompaqなどの一部ベンダを除いてグラフィックス・チップの提供を、他社に対して行っていなかった。基本的にATI Technologiesは自社でチップとカードの両方を手がけるベンダであったわけだ。それが2001年6月になり、グラフィックス・カード・ベンダに対して、積極的にグラフィックス・チップの外販を開始すると発表した(ATI Technologiesの「グラフィックス・チップ外販に関するニュースリリース」)。実際、表のグラフィックス・チップのうち、RADEON 8500 LEは、ATI Technologies純正のグラフィックス・カードが存在しない、いわば外販専用のグラフィックス・チップとなっている。

RADEON 8500のパッケージ
RADEON 8500は現在のところATI Technologies製のカードしか販売されていない。似たパッケージでRADEON 8500 LEを採用したサードパーティ製のグラフィックス・パッケージが販売されているので、購入時には十分に気をつけたい。

 一方のNVIDIAは、従来からサードパーティに対してグラフィックス・チップの供給を行うだけで、ワークステーション向けの一部を除いて自社でグラフィックス・カードの提供を行っていない。つまり、ATI Technologiesがサードパーティに対してグラフィックス・チップの供給を開始したことで、両者はより対等な競争が可能になったことになる。複数のチップ・ベンダが競争する状況は、グラフィックス・カード・ベンダにとっても好ましいものだろう。これは最終的に、ユーザーの利益にもつながるハズだ。

 もちろん、現時点では、必ずしもすべてがバラ色というわけではない。例えば現在市場では、RADEON 8500 LEを搭載したサードパーティ製のグラフィックス・カードが多数流通しているが、パッケージをちょっと見ただけでは、ATI Technologies製の製品なのかサードパーティ製なのか、RADEON 8500なのかRADEON 8500 LEなのか、判別がつきにくい製品が少なくないからだ。こうした混乱は、ATI Technologiesのブランド・イメージを損ねると思うが、まだグラフィックス・チップの外販に不慣れなことに起因しているのだろう。RADEON 8500を購入する際には、こうした紛らわしい製品があることに十分注意する必要がある。

期待のRADEON 8500の機能と特徴

 さて、表1に示したグラフィックス・チップのうち、何といっても注目されるのはハイエンドのRADEON 8500だ。NVIDIAが発表した新製品のGeForce3 Ti 500が、実質的には既存のGeForce3の動作クロックを引き上げた製品であり、アーキテクチャの改良を行わない事実上の「一回休み」である。ATI Technologiesには絶好の追いつくチャンスが訪れたわけだ。

 RADEON 8500の最大の特徴を一言で表せば、「DirectX 8.1対応」ということになる。DirectX 8.1は、基本的にはDirectX 8.0のマイナーチェンジ版であり、DirectX 8.0で導入されたプログラマブル・シェーダを拡張したものだ。DirectX 7.x以前は、アクセラレートされる3Dグラフィックス処理機能は、あらかじめハードウェアに実装されており、プログラマはそれを呼び出して使う、ということしかできなかった。プログラマブル・シェーダでは、プログラマに3Dグラフィックス処理を記述するための言語インターフェイスを提供することで、プログラマ自身のアルゴリズムをハードウェアでアクセラレートすることが可能となる。DirectX 8.1では、プログラマブル・シェーダのうち、レンダリング処理を行うピクセル・シェーダが拡張されており、それをサポートしたハードウェアが、現時点でRADEON 8500シリーズだけ、ということになる。

 ほかにもRADEON 8500には、高性能なフルシーン・アンチエイリアス(FSAA)を提供する「SMOOTHVISION(スムースビジョン)」、頂点間を補間することで滑らかに表示する独自の3D技術である「TRUFORM(トゥルーフォーム)」、解像度1600×1200ドットの液晶ディスプレイに表示可能なTMDSトランスミッタ(映像信号をデジタルで伝送するための送信デバイス)、動画再生品質を高める「VIDEO IMMERSION II」など、多彩な機能を内蔵している。TRUFORMは、独自の3D技術であるため、個別の対応を必要とするが、アクション・ゲームの「Serious Sam(シリアス・サム)で知られるCroteamがサポートを表明しており、ある程度広まる可能性がある(Serious Samの日本国内での販売はP&Aが行っている)。

 このRADEON 8500シリーズには、グラフィックス・コア、メモリ・バスともに275MHzで駆動されるRADEON 8500と、250MHzで駆動されるRADEON 8500 LEの2機種がラインナップされる。後者がサードパーティにのみ供給されるのは、すでに述べたとおり。RADEON 8500を搭載したATI Technologies純正のグラフィックス・カードが「RADEON 8500」ということになる(グラフィックス・チップとカードの名称が同じなので紛らわしいが)。

 グラフィックス・カードとしてのRADEON 8500のレイアウトは、下の写真のとおり。アナログRGB出力に加えて、ビデオ出力(S端子)、DVI-I出力の合計3つを備える点だ。これまでのRADEONと異なり、いまのところビデオ入力機能を備えたモデルは用意されていない(別にテレビ・チューナー・モジュールを搭載した「All-In-Wonder」は提供される予定)。また、下位のRADEON 7500がビデオ出力機能を内蔵しているのに対し、RADEON 8500はこの機能を内蔵しないため、カードにはビデオ出力機能を受け持つRage Theaterチップが実装されている。用いられているメモリは最大同期周波数275MHzに対応した64Mbit DDR SDRAM(データレート550MHz相当)である。メモリには、特にヒートシンクなどは取り付けられていない(GeForce3を用いたカードでは、メモリにヒートシンクを取り付けるのが一般的だ)。

RADEON 8500のカード・レイアウト
見て分かるように、アナログRGB出力に加えて、S端子、DVI-I出力を備えている。グラフィックス・チップのRADEON 8500には冷却ファンが搭載されているが、グラフィックス・メモリには特にヒートシンクなどは取り付けられていない。
  DVI-I出力端子
  アナログRGB出力端子
  ビデオ出力(S端子)
  RADEON 8500グラフィックス・チップ
  ビデオ出力用Rage Theaterチップ
 
  関連リンク
グラフィックス・チップ外販に関するニュースリリースENGLISH
Serious Samの紹介ページENGLISH
Serious Samの紹介ページ
 
 

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    RADEON 8500はグラフィックス市場に新風を巻き起こすか?(2)
 
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