元麻布春男の視点RADEON 8500はグラフィックス市場に新風を巻き起こすか?(1) |
初代GeForce 256と、それによるハードウェアT&L時代の到来以降、ハイエンド向けグラフィックス・チップの市場は、ほぼNVIDIAの独り勝ちの様相を呈してきた。この間、S3や3Dfx Interactiveなどのライバルが脱落していく中で、何とか踏ん張ってきたのがノートPC向けのグラフィックス・チップで大きなシェアを持っているATI Technologiesだ。前作のRADEON(現製品名RADEON 7200)は、NVIDIAを脅かすまでには至らなかったものの、同社がNVIDIAに対して競争力を持ちうる可能性を示したものだった。
そのATI Technologiesが、このクリスマス商戦向けにグラフィックス・チップのラインナップを一新、シリーズ名をRADEON XXXX(XXXXは数字)に統一した。この新しいRADEONシリーズとNVIDIA製グラフィックス・チップとの競争関係を示したのが下の表だ。上位2製品は、いずれのベンダもDirectX 8.xのプログラマブル・シェーダ(後述)に対応した製品を揃えているが、これに該当する製品をリリースできているのは現時点で、この両社だけである。最も下位(表のミドルレンジ)では、GeForce2 MX200がハードウェアT&Lを備えているのに対し、RADEON 7000はハードウェアT&Lをサポートしていない。一方で、デュアル・ディスプレイのサポートはRADEON 7000の方が優れていると思われるので、全体的にはかなり拮抗した、いいライバル関係だと思われる。
ATI Technologies | NVIDIA | |
ハイエンド | RADEON 8500 | GeForce3 Ti 500 |
RADEON 8500 LE | GeForce3 Ti 200 | |
RADEON 7500 | GeForce2 Ti | |
RADEON 7200 | GeForce2 MX400 | |
ミドルレンジ | RADEON 7000 | GeForce2 MX200 |
表1 ATI TechnologiesとNVIDIAの競争関係 |
戦略を転換してグラフィックス・チップの外販を始めたATI
もう1つ両社のライバル関係を変えたのは、2001年になってATI Technologiesが行った販売戦略の変更だ。これまで、ATI TechnologiesはASUSTeKやCompaqなどの一部ベンダを除いてグラフィックス・チップの提供を、他社に対して行っていなかった。基本的にATI Technologiesは自社でチップとカードの両方を手がけるベンダであったわけだ。それが2001年6月になり、グラフィックス・カード・ベンダに対して、積極的にグラフィックス・チップの外販を開始すると発表した(ATI Technologiesの「グラフィックス・チップ外販に関するニュースリリース」)。実際、表のグラフィックス・チップのうち、RADEON 8500 LEは、ATI Technologies純正のグラフィックス・カードが存在しない、いわば外販専用のグラフィックス・チップとなっている。
RADEON 8500のパッケージ |
RADEON 8500は現在のところATI Technologies製のカードしか販売されていない。似たパッケージでRADEON 8500 LEを採用したサードパーティ製のグラフィックス・パッケージが販売されているので、購入時には十分に気をつけたい。 |
一方のNVIDIAは、従来からサードパーティに対してグラフィックス・チップの供給を行うだけで、ワークステーション向けの一部を除いて自社でグラフィックス・カードの提供を行っていない。つまり、ATI Technologiesがサードパーティに対してグラフィックス・チップの供給を開始したことで、両者はより対等な競争が可能になったことになる。複数のチップ・ベンダが競争する状況は、グラフィックス・カード・ベンダにとっても好ましいものだろう。これは最終的に、ユーザーの利益にもつながるハズだ。
もちろん、現時点では、必ずしもすべてがバラ色というわけではない。例えば現在市場では、RADEON 8500 LEを搭載したサードパーティ製のグラフィックス・カードが多数流通しているが、パッケージをちょっと見ただけでは、ATI Technologies製の製品なのかサードパーティ製なのか、RADEON 8500なのかRADEON 8500 LEなのか、判別がつきにくい製品が少なくないからだ。こうした混乱は、ATI Technologiesのブランド・イメージを損ねると思うが、まだグラフィックス・チップの外販に不慣れなことに起因しているのだろう。RADEON 8500を購入する際には、こうした紛らわしい製品があることに十分注意する必要がある。
期待のRADEON 8500の機能と特徴
さて、表1に示したグラフィックス・チップのうち、何といっても注目されるのはハイエンドのRADEON 8500だ。NVIDIAが発表した新製品のGeForce3 Ti 500が、実質的には既存のGeForce3の動作クロックを引き上げた製品であり、アーキテクチャの改良を行わない事実上の「一回休み」である。ATI Technologiesには絶好の追いつくチャンスが訪れたわけだ。
RADEON 8500の最大の特徴を一言で表せば、「DirectX 8.1対応」ということになる。DirectX 8.1は、基本的にはDirectX 8.0のマイナーチェンジ版であり、DirectX 8.0で導入されたプログラマブル・シェーダを拡張したものだ。DirectX 7.x以前は、アクセラレートされる3Dグラフィックス処理機能は、あらかじめハードウェアに実装されており、プログラマはそれを呼び出して使う、ということしかできなかった。プログラマブル・シェーダでは、プログラマに3Dグラフィックス処理を記述するための言語インターフェイスを提供することで、プログラマ自身のアルゴリズムをハードウェアでアクセラレートすることが可能となる。DirectX 8.1では、プログラマブル・シェーダのうち、レンダリング処理を行うピクセル・シェーダが拡張されており、それをサポートしたハードウェアが、現時点でRADEON 8500シリーズだけ、ということになる。
ほかにもRADEON 8500には、高性能なフルシーン・アンチエイリアス(FSAA)を提供する「SMOOTHVISION(スムースビジョン)」、頂点間を補間することで滑らかに表示する独自の3D技術である「TRUFORM(トゥルーフォーム)」、解像度1600×1200ドットの液晶ディスプレイに表示可能なTMDSトランスミッタ(映像信号をデジタルで伝送するための送信デバイス)、動画再生品質を高める「VIDEO IMMERSION II」など、多彩な機能を内蔵している。TRUFORMは、独自の3D技術であるため、個別の対応を必要とするが、アクション・ゲームの「Serious Sam(シリアス・サム)で知られるCroteamがサポートを表明しており、ある程度広まる可能性がある(Serious Samの日本国内での販売はP&Aが行っている)。
このRADEON 8500シリーズには、グラフィックス・コア、メモリ・バスともに275MHzで駆動されるRADEON 8500と、250MHzで駆動されるRADEON 8500 LEの2機種がラインナップされる。後者がサードパーティにのみ供給されるのは、すでに述べたとおり。RADEON 8500を搭載したATI Technologies純正のグラフィックス・カードが「RADEON 8500」ということになる(グラフィックス・チップとカードの名称が同じなので紛らわしいが)。
グラフィックス・カードとしてのRADEON 8500のレイアウトは、下の写真のとおり。アナログRGB出力に加えて、ビデオ出力(S端子)、DVI-I出力の合計3つを備える点だ。これまでのRADEONと異なり、いまのところビデオ入力機能を備えたモデルは用意されていない(別にテレビ・チューナー・モジュールを搭載した「All-In-Wonder」は提供される予定)。また、下位のRADEON 7500がビデオ出力機能を内蔵しているのに対し、RADEON 8500はこの機能を内蔵しないため、カードにはビデオ出力機能を受け持つRage Theaterチップが実装されている。用いられているメモリは最大同期周波数275MHzに対応した64Mbit DDR SDRAM(データレート550MHz相当)である。メモリには、特にヒートシンクなどは取り付けられていない(GeForce3を用いたカードでは、メモリにヒートシンクを取り付けるのが一般的だ)。
RADEON 8500のカード・レイアウト | |||||||||||||||
見て分かるように、アナログRGB出力に加えて、S端子、DVI-I出力を備えている。グラフィックス・チップのRADEON 8500には冷却ファンが搭載されているが、グラフィックス・メモリには特にヒートシンクなどは取り付けられていない。 | |||||||||||||||
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関連リンク | |
グラフィックス・チップ外販に関するニュースリリース | |
Serious Samの紹介ページ | |
Serious Samの紹介ページ |
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