元麻布春男の視点
攻撃的なIntelのサーバ向けプロセッサ・ロードマップ

元麻布春男
2002/03/15

 「ニュース解説:エンタープライズ重視のIntelを示したIDF Spring 2002」で2月末に開催されたIDF Spring 2002の模様についてレポートした。だが、当該の記事はIDFというイベントを中心に話を進めたため、Intelのエンタープライズ向けプロセッサのロードマップについては、若干分かりにくい部分があったかもしれない。それを補うため、ここではエンタープライズ向けプロセッサのロードマップに絞って整理しておこう。サーバの導入タイミングや機種選定において、プロセッサのロードマップを理解しておくことは重要なポイントとなる。サーバを導入したとたん、コストパフォーマンスの高い新しいプロセッサが出荷された、ということがないように常にロードマップをチェックしておきたいところだ。

Intel Xeon MPの登場で活気付くミドルレンジ・サーバ

 下図が、現時点で明らかになっているIntelのエンタープライズ向けプロセッサのロードマップだ。現在は2002年の第1四半期(Q1'02)だが、図にあるプロセッサで、IDF Spring 2002の開催時点で未発表のものは、「Foster MP(フォスター・エムピー)」の開発コード名で知られる「Intel Xeon MP」だけ。ただしこのプロセッサは、3月12日(日本時間3月13日)に発表されている(インテルの「Intel Xeon MPに関するニュースリリース」)。この図を見ても分かるように、半年ごとに新しいプロセッサが投入される。これには単なる動作クロックの向上は含まれていないので、実際にはもっと頻繁に製品投入が行われることになるだろう。長期的な案件が多く、保守的といわれるサーバ分野でこれだけの製品が投入されるのはかつてなかったことかもしれない。それだけ、この市場に対するIntelの意気込みを感じる。

Intelのエンタープライズ向けプロセッサのロードマップ(拡大:40Kbytes
図には記述がないが、IntelはIntel Xeon MPの4wayに対応したチップセットや、エントリ・サーバ向けのチップセットも予定している。2002年中にIntel E7500を含む6つのサーバ/ワークステーション向けチップセットを投入する計画だ。

 「Prestonia(プレストニア)」の開発コード名で知られるデュアルプロセッサ向けのIntel Xeonや、クライアントPC向けのPentium 4(Northwood:ノースウッド)と異なり、Intel Xeon MPは、0.18μmプロセスで製造されるため、最高動作周波数は1.60GHzとやや低めだ。ただし、1Mbytesもしくは512Kbytesの3次キャッシュをオンダイで内蔵するため、性能的には同じ動作クロックのIntel XeonやPentium 4よりも高い。ただ、3次キャッシュの内蔵により、トランジスタ数は1億800万を数えるという(1Mbytesの3次キャッシュ版)。そのほかの特徴であるNetBurstマイクロアーキテクチャ、SSE2命令の実装、400MHzのプロセッサ・バス(FSB)、Hyper-Threadingテクノロジの搭載といった点はIntel Xeon(Prestonia)と同じだ。現時点ではIntel純正チップセットが提供されておらず、ServerWorks製(Grand Champion HE:GC-HE)チップセットでの立ち上げとなる(メモリはDDR-200)。このIntel Xeon MPのリリースをもって、2002年前半までに登場するエンタープライズ(企業コンピューティング)向けプロセッサは出そろったわけだが、上の図で「Ultra Dense(高密度サーバ)」のPentium III(Tualatin:テュアラティン)の項にある440GXチップセットは、サーバ向けチップセットとしてメインストリームとはいい難い状況かもしれない。エントリ・サーバでは、440GXではなくECCのサポートはないもののIntel 815(本来はデスクトップPC向けのチップセット)を採用する例の方が多いようだ。

Itaniumファミリの動向

 2002年後半、おそらく第3四半期にいよいよ第2世代のItaniumファミリであるMcKinley(開発コード名:マッキンリー)が登場する。同クロックのItanium(Merced:マーセド)に比べ1.5〜2倍の性能を発揮するといわれるMcKinleyで、IntelとしてはItaniumファミリの普及に弾みをつけたいところだ。McKinleyはハイエンド向けで3Mbytesの3次キャッシュをオンダイで内蔵するが(Mercedは4Mbytesの3次キャッシュを搭載するが、コアとは別チップで外付けのため低速)、ミドルレンジのサーバやワークステーション向けに3次キャッシュが1.5Mbytesのタイプも提供されることになっている。また、2002年後半にはIntel Xeon MP(Foster MP)の後継として、0.13μmプロセスに移行した開発コード名「Gallatin(ギャラティン)」で呼ばれるプロセッサも登場する予定だ。

開発コード名 読み プロセッサ名 マイクロアーキテクチャ 製造プロセス 特徴
クライアントPC向け
Tualatin テュアラティン Pentium III P6 0.13μm 256Kbytesの2次キャッシュ内蔵
Willamette ウィラメット Pentium 4 NetBurst 0.18μm 初代Pentium 4、423 Pin Socket版と478 Pin Socket版の2種類あり
Northwood ノースウッド Pentium 4 NetBurst 0.13μm Willametteの製造プロセスを0.13μmに縮小
Prescott プレスコット Pentium 4(?) NetBurst 0.09μm(?) Hyper-Threadingテクノロジの有効化と機能拡張
ノートPC/高密度サーバ向け
Tualatin テュアラティン モバイルPentium III-M P6 0.13μm 512Kbytesの2次キャッシュ内蔵
Banias バニアス 0.13μm(?) 低消費電力を重視した新しいマイクロアーキテクチャの採用
サーバ/ワークステーション向け
Tualatin テュアラティン Pentium III-S P6 0.13μm 512Kbytesの2次キャッシュ内蔵
Foster フォスター Intel Xeon NetBurst 0.18μm Willametteのデュアルプロセッサ版
Foster MP フォスター・エムピー Intel Xeon MP NetBurst 0.18μm 512K/1Mbytesの3次キャッシュを内蔵するマルチプロセッサ版
Prestonia プレストニア Intel Xeon NetBurst 0.13μm Fosterの製造プロセスを0.13μmに縮小
Gallatin ギャラティン Intel Xeon MP(?) NetBurst 0.13μm Foster MPの製造プロセスを0.13μmに縮小
Nocona ノコナ NetBurst 0.09μm(?) 詳細不明
Itaniumファミリ
Merced マーセド Itanium Itanium 0.18μm 初代Itaniumプロセッサ
McKinley マッキンリー Itanium(?) Itanium 0.18μm 最大3Mbytesの3次キャッシュ内蔵と機能拡張
Madison マディソン Itanium 0.13μm 最大6Mbytesの3次キャッシュ内蔵
Deerfield ディアフィールド Itanium 0.13μm 最大3Mbytesの3次キャッシュ内蔵
Montecito モンテシト Itanium 0.09μm(?) 詳細不明
Intelの主なプロセッサの開発コード名

 2003年になると、Gallatinを除くほぼすべてのセグメントで、プロセッサのフルモデルチェンジが行われる。まずハイエンドのItaniumファミリは、0.13μmプロセスへの移行すると同時に、Madison(開発コード名:マディソン)とDeerfield(開発コード名:ディアフィールド)の2つに分かれる。Madisonは、McKinleyの直系として4プロセッサ以上のマルチプロセッサ構成をサポートし、最大6Mbytesの3次キャッシュをオンダイに内蔵する(McKinleyに1.5Mbytes 3次キャッシュ版があるように、Madisonにも3Mbytes 3次キャッシュ版が提供される予定)。一方のDeerfieldは、デュアルプロセッサ構成にフォーカスしたItaniumファミリとなる。Madisonの廉価版的な位置付けで、3次キャッシュも最大で3Mbytesと少なくなる。これにより、現在のItaniumがターゲットとしているレンジよりも低い、ミドルレンジ・サーバ市場へもItaniumファミリの採用が始まることになるだろう。

 このDeerfieldとPrestonia(Intel Xeon)の後継の座を争うのが、Nocona(開発コード名:ノコナ)と呼ばれるIA-32プロセッサになる。90nm(0.09μm)プロセスのプロセッサと考えてまず間違いないものの、現時点では詳細については明らかにされていない。ただ、投入時期がクライアントPC向けに提供されるPrescott(開発コード名:プレスコット)とほぼ同じであるため、NoconaとPrescottの関係は、Prestonia(Intel Xeon)とNorthwood(Pentium 4)の関係に準じるものと思われる。要するにPrescottと同じマイクロアーキテクチャによるサーバ版という位置付けだ。

 DeerfieldとNoconaのどちらがPrestoniaの後継として相応しいかだが、それを決定する要因として、マイクロソフトのOS供給戦略が重要な役割を果たすだろう。すなわち、Deerfieldには、Itaniumファミリに対応した64bit版のWindowsが必要になるが、現時点で64bit版Windowsがどのような形態で供給されるのか、必ずしも明らかになっていない。Windows 2000 DataCenter Serverのように、パッケージ販売されず、OEM向けにのみ供給されるということになれば、Deerfieldの販路も自ずと限られてしまうだろう。そういう意味で、ロードマップの図に同じPrestoniaの後継でありながら、メインストリーム・ワークステーションの分野ではNoconaのみが記述され、パフォーマンス/ボリューム・デュアルプロセッサ・サーバの分野でDeerfieldとNoconaが併記されているのは、OSの供給事情を踏まえたものかもしれない。この点、インテルだけで決められるものではないため、インテルとしては歯がゆい思いをしているかもしれない。

高密度サーバはBaniasがカバーする

 デスクトップPCからP6マイクロアーキテクチャが消えつつあるいま、NetBurstマイクロアーキテクチャ(Pentium 4)による置き換えがまだできないでいる分野が、高密度サーバ(Ultra Dense Server)の分野だ。ブレード・サーバなど、極めて実装密度の高いこの分野には、低消費電力/低発熱のプロセッサが求められる。つまり、携帯性が重視されるサブノートPCやミニノートPCと同じような条件が求められるわけで、現在使われているPentium III(Tualatin)をPentium 4系のプロセッサで置き換えるのは難しい。そこで、このセグメントも、サブノートPCやミニノートPCと同じプロセッサ、つまりは2003年前半に登場するBanias(開発コード名:バニアス)により置き換えられることになる。

 Baniasについては、昨年(2001年)夏のIDF Fall 2001で衝撃的なデビューを飾ったものの、今回のIDF Spring 2002では開発中のチップセットのデモでお茶を濁してしまった。採用するμOPs Fusionテクノロジに関するアップデートもなく、新情報に乏しいIDFだった。実際、Baniasの製造プロセスについても、いまのところ発表がない。低消費電力/低発熱を考えれば、90nmプロセスが望ましいが、筆者は意外と0.13μmプロセスではないかと思っている。別に裏付けの情報があるわけではなく、極めて保守的なIntelが、新しいマイクロアーキテクチャのプロセッサを新しい製造プロセスで作るとは信じられないだけのことである。Itaniumファミリが、常にIA-32プロセッサより1世代前の製造ルールを用いるのも、「枯れた」製造プロセスを使いたいからだと思っている。この場合、2003年後半には、90nmプロセスによる2世代目のBaniasが登場することになるかもしれない。

 これで図に示したロードマップについての解説を終えるが、IDF Spring 2002のキーノート・スピーチで2004年に90nmプロセスによるItaniumファミリ「Montecito(開発コード名:モンテシト)」が登場する予定であることが明らかにされている。2年も先のMontecitoの詳細など分かるハズもないのだが、MontecitoはMadisonとDeerfield、両方の後継になると見られており、リリースが近付くと開発コード名が2つ以上に分かれる可能性もある。いずれにしても、ここまで情報を開示するというのは、やはりItaniumファミリの戦略に変わりがなく、引き続き強力に推進していくとの考えをアピールしたいからだろう。記事の終わり

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  関連リンク 
Intel Xeon MPに関するニュースリリース
 
「元麻布春男の視点」


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