ニュース解説
エンタープライズ重視のIntelを示したIDF Spring 2002 元麻布春男 |
2002年2月25日から28日の4日間、2002年春のIntelの開発者向けカンファレンス「Intel Developer Forum(IDF)」が、米国サンフランシスコのモスコーン・コンベンション・センター(Moscone Convention Center)で開催された。今回で11回目を迎えるIDFだが、サンフランシスコ市内で開催されるのは今回が初めてのことだ。
IDF Spring 2002の会場となったモスコーン・コンベンション・センター |
(Intelの広報用資料より) |
キーノート・スピーチから感じるエンタープライズ重視
今回のIDFの特徴をひと言で表せば、エンタープライズ・コンピューティングのためのIDF、ということになるだろう。逆にいえば、IntelといえばどうしてもPC、それもクライアント向けPCのプロセッサ・ベンダという印象を薄めたい、という意図があったように思う。これを次の2つの点から筆者は感じた。
オープニングのキーノート・スピーチを務めたCEOのクレイグ・バレット氏 |
(Intelの広報用資料より) |
まず最初は、キーノート・スピーチの順番だ。まずCEO(最高経営責任者)のクレイグ・バレット(Craig Barrett)氏がオープニングを務めるのは当然としても、それに続いたのは、上席副社長 兼 エンタープライズ・プラットフォーム事業本部長のマイク・フィスター(Michael J. Fister)氏であった。この後、初日はインテル フェロー 兼 ソフトウェア&ソリューション事業本部長のリチャード・ワート(Richard Wirt)氏が締めくくった。ワート氏のメイン・テーマの1つは、この日発表されたサーバ用プロセッサ「Intel Xeon」に実装されているHyper-Threadingテクノロジであり、同テクノロジがクライアントPC向けプロセッサに採用されるのがしばらく先であることを考えれば、事実上エンタープライズ関連のキーノートとも考えられる。
コミュニケーション・デイと名付けられた2日目のキーノートは、インテル・コミュニケーションズ事業本部長のショーン・マローニ(Sean Maloney)主席副社長と、アクセス&スイッチング事業部長のトム・フランツ(Thomas Franz)副社長の2人。Intelという名前を聞いてだれもが連想するデスクトップPCやモバイルPC向けのプロセッサに関するキーノート(インテル・アーキテクチャ・グループのキーノート)は、クライアント・デイと題された3日目を待たねばならなかった。過去のIDFにおいて、必ずインテル・アーキテクチャ・グループのキーノートがトップ・エグゼクティブの次に行われていたわけではないが、3日目まで延ばされたこともないハズだ。この点で、今回のIDFがこれまでと違った印象を与えたことは間違いない。
もう1つ、今回のIDFがエンタープライズ・コンピューティングを指向していたと考える根拠は、IDFに合わせた製品の発表である。IDFの初日である25日(日本時間26日)にIntelが発表した製品は、サーバ用プロセッサ「Intel Xeon(デュアルプロセッサ対応)」と対応チップセットである「Intel E7500」、さらにはギガビット・イーサネット対応としては世界初のシングル・チップコントローラ「82540EM(デスクトップPC向け)」「82546EB(サーバ向けデュアルポート)」「82545EM(サーバ向けシングルポート)」のみ。そして2日目の26日にXScaleベースのネットワーク・プロセッサを発表したが、IDF期間中の製品発表はこれだけにとどまった。通例であれば、クライアント向けの何かしらの製品が発表されるところだが、今回は主にサーバ向けが中心であったわけだ。
しかし、翌週の3月4日(日本時間3月5日)、Intelは「モバイルPentium 4-M」の発表を行っている。世界中からプレスが集まる(つまりは発表効果の高い)IDFで発表せず、わざわざ1週間発表を遅らせるというのは、どうにも理解しにくい。3日目のキーノート・スピーチも務めたモバイル・プラットフォーム事業本部長のアナンド・チャンドラシーカ(Anand Chandrasekher)副社長によると、モバイルPentium 4-MをIDFで発表しなかったのは、「OEMパートナーの準備体制を万全にするため」ということだったが、果たして1週間でどれだけ変わるのか疑問に思う。一般的に注目度の高いモバイルPentium 4-Mに話題が集中しないよう、あえてIDFでの発表を見送った、というのは筆者のうがった見方だろうか。
公開されたサーバ向けの新マザーボード
それはともかく、今回重点が置かれたエンタープライズ・コンピューティング分野で、目玉となったのは2つ。1つは、IDFの初日に正式発表されたサーバ用Intel Xeonと対応チップセットのIntel E7500、そしてもう1つがItaniumファミリ(64bitプロセッサ)に関するアップデートだ。サーバ用にもIntel Xeonが出荷されることで、Intelのプロセッサは、エントリ向けPCやノートPCなどの一部を除き、すべてがNetBurstアーキテクチャ(Pentium 4が採用しているアーキテクチャ)へと移行することになる。
図1 Intel Xeonのロードマップ |
フィスター副社長のキーノート・スピーチで示されたIntel Xeonのロードマップ。ハイエンドとミッドレンジの両方にIntelから新たにチップセットが投入されることが分かる。 |
今回発表されたサーバ用Intel Xeonは、すでに供給されている開発コード名「Prestonia(プレストニア)」で呼ばれていたワークステーション用Intel Xeonと基本的には同じで、サーバ環境向けにバリデーション(検証・保証)されていることだけが異なる。Hyper-Threadingテクノロジがサポートされていること、デュアルプロセッサ構成がサポートされていることの2点を除けば、開発コード名「Northwood(ノースウッド)」コアによるPentium 4とほぼ同等でもある。すなわち、NetBurstマイクロアーキテクチャ、512Kbytesの2次キャッシュ、400MHzの転送レートを持つシステム・バス(FSB)、SSE2のサポートといった部分は共通だ。
にもかかわらず今回、改めてサーバ用として発表になった大きな理由としては、Intel Xeonをサーバに用いるためのチップセットであるIntel E7500の準備が整ったことが挙げられる。逆にいえば、これまでIntel Xeon用に提供されていたチップセット「Intel 860」は、ワークステーション用の色彩が強く、サーバ用には必ずしも最適とはいえないものだったからだ(表1)。本来のスケジュールならば、ワークステーション用Intel Xeonとサーバ用Intel Xeonは同時期に発表されるはずであった。しかし、Intelが期待していたServerWorks製のサーバ向けチップセット(後述)の開発が遅れ、結局、Intel E7500の準備が整ったこの時期までバリデーションできなかったということのようだ。
Intel 860 | Intel E7500 | |
最大搭載プロセッサ数 | 2個 | 2個 |
メモリ・タイプ | PC800 Direct RDRAM | PC1600 DDR SDRAM |
最大メモリ容量 | 2Gbytes *1 | 16Gbytes |
AGPサポート | AGP 4x (AGP Pro、1.5V専用) | なし (必要があればPCIバス接続) |
PCIサポート | P64H (64bit/66MHz PCI) | P64H2 (64bit/133MHz PCI-X) |
HubLink(P64H/P64H2) | 16bitハブ・インターフェイス 1.5 (533Mbytes/s) | 16bitハブ・インターフェイス 2.0 (1066Mbytes/s) |
サウスブリッジ | ICH2 (8bitハブ・インターフェイス 1.5、266Mbytes/s) | ICH3-S (8bitハブ・インターフェイス 1.5、266Mbytes/s) |
USBサポート | USB 1.1(2コントローラ、4ポート) | USB 1.1(3コントローラ、6ポート) |
表1 Intel E7500とIntel 860の機能比較 | ||
*1 Memory Repeater Hubを併用することで4GBをサポート可 |
Intel E7500は、Intel Xeonのデュアルプロセッサ構成に最適化されたチップセットである。デュアルチャンネルのDDRメモリ・バスをサポートし、PC1600 DIMM(DDR-200メモリ)を最大16Gbytes実装できる。64bitのPCI/PCI-Xコントローラ・ハブとして「P64H2」をサポートするなど、I/O機能も強化されている。なお、Intel E7500のサウスブリッジ・チップは「ICH3-S」だが、モバイルPC用に提供されている「ICH3-M」と同様、USB 2.0のホスト・コントローラ機能はサポートしていない(USB 1.1対応、3コントローラ6ポート)。
図2 Intel E7500チップセットの構成 |
3チャンネルのHubLink 2.0インターフェイス(1066Mbytes/s)により、3つのP64H2がサポートできる。 |
このIntel E7500については、正式に製品発表されたこともあって、併設の展示会でも、サードパーティを含め、Intel E7500を搭載したサーバ用マザーボードが数多く出展されていた。Intelブースに展示されていたSE7500WV2は、1Uあるいは2Uサイズのラックマウント・シャシーに対応したIntel純正のサーバ向けマザーボードである(写真1)。DIMMソケットが6本のため、最大メモリ搭載量は12Gbytesとなる(16Gbytesまで搭載するためには、DIMMソケットが8本必要)。
写真1 Intel純正サーバ向けマザーボード「SE7500WV2」 |
チップセットにIntel E7500を採用し、合計12Gbytesのメモリが搭載可能。グラフィックス・チップはATI Technologies製Rage XLを搭載している。 |
興味深かった(?)のは、同じブースにServerWorks製チップセット「Grand Champion LE(GC-LE)」を採用した、Intel Xeonのデュアルプロセッサ対応のIntel純正サーバ向けマザーボード「SHG2」も展示されていたことだ(ServerWorksの「Grand Chanpion LEに関するニュースリリース」)。対応するシャシーが異なるものの、両者のスペックは極めて近い。ちなみに、ブースの担当者にどちらが性能がいいのか尋ねてみたのだが、はぐらかされてしまった。
写真2 ServerWorks製チップセット採用のマザーボード「SHG2」 |
Intel純正サーバ向けマザーボードでありながら、ServerWorks製チップセット「Grand Champion LE」を採用した「SHG2」。SE7500WV2と構成が似ているが、SHG2は2Uサイズ以上のケースに対応する。 |
関連記事 | |
Hyper-Threading、3GIO、Serial ATA―2003年のPCが見えたIDF | |
Intel勝利の方程式を語る | |
IDFで明らかになったインテルのプロセッサ・ロードマップ(2001年春編) | |
IDF JapanでPentium 4搭載のコンセプトPCを公開 | |
64bitプロセッサで別々の道を歩き始めたIntelとAMD |
関連リンク | |
IDFに関する情報ページ | |
Grand Chanpion LEに関するニュースリリース |
INDEX | ||
[ ニュース解説 ]エンタープライズ重視のIntelを示したIDF Spring 2002 | ||
1.キーノート・スピーチで感じるIntelのエンタープライズ指向 | ||
2.サーバ向けプロセッサの動向 | ||
3.ナゾのまま終ったクライアントPC向けプロセッサ | ||
4.ギガビット・イーサネットとシリアルATAの動向 | ||
「PC Insiderのニュース解説」 |
- Intelと互換プロセッサとの戦いの歴史を振り返る (2017/6/28)
Intelのx86が誕生して約40年たつという。x86プロセッサは、互換プロセッサとの戦いでもあった。その歴史を簡単に振り返ってみよう - 第204回 人工知能がFPGAに恋する理由 (2017/5/25)
最近、人工知能(AI)のアクセラレータとしてFPGAを活用する動きがある。なぜCPUやGPUに加えて、FPGAが人工知能に活用されるのだろうか。その理由は? - IoT実用化への号砲は鳴った (2017/4/27)
スタートの号砲が鳴ったようだ。多くのベンダーからIoTを使った実証実験の発表が相次いでいる。あと半年もすれば、実用化へのゴールも見えてくるのだろうか? - スパコンの新しい潮流は人工知能にあり? (2017/3/29)
スパコン関連の発表が続いている。多くが「人工知能」をターゲットにしているようだ。人工知能向けのスパコンとはどのようなものなのか、最近の発表から見ていこう
|
|