連載 PCメンテナンス&リペア・ガイド

第6回 意外に故障の多いパーツ「電源ユニット」の基礎

2. 電源ユニット規格の歴史と種類

林田純将
2002/01/10

 前ページまでで、どんな場合に電源ユニットの故障を疑えばいいのか、理解していただけたと思う。そこで電源ユニットを交換するとして、次の問題はどんな電源ユニットを購入すればいいのか、ということが問題となる。しかし、プロセッサやメモリの規格などについて調べたことのある人でも、電源ユニットの規格を調べたことのある人は、そういないのではないだろうか? PC雑誌などを見ても、「総出力が何ワット(W)でATX 2.01対応だったら大丈夫」程度のことしか書いていないことが多い。しかし、ATXのバージョンを気にするだけでは、安定した電源ユニットを購入する目安にはならないのだ。

 ここでは、そもそも「ATX2.01」などの規格の解説と、安定した環境を手に入れるための、電源ユニットのスペックについて述べてみたい。

■デスクトップPC用電源ユニットの歴史
 デスクトップPC用の電源ユニット規格には、現在の標準であるATX電源、ATXが策定される前に使われていたAT電源、省スペース・デスクトップPC用であるSFX電源の大きく分けて3種類がある(実際の製品では、これらの規格と物理形状などが異なる独自タイプの電源ユニットも存在する)。ATX電源はATXフォームファクタ、SFX電源はmicroATXフォームファクタで規定されている(SFXは、microATXより小型のFlexATXフォームファクタにも用いられる)。ATXやmicroATXといえばPCのマザーボードに関する規格として捉えられることが多いが、同時に電源ユニットについても規定されているのだ。

3種類の電源ユニット
左からAT電源、ATX電源、SFX電源。AT電源とATX電源はほとんど大きさが変わらないように見えるが、AT電源にはもっとサイズが大きいタイプも存在する。省スペースPC向けのSFX電源はATX電源をベースに小型化したもので、4種類の形状・サイズが規定されている。

 AT電源は1980年代前半〜1990年代前半までPCに搭載されてきたもので、厳密には規格化されたものではなく、メーカー間でその形状やサイズ、出力電圧に関する仕様などが微妙に異なるなど問題も多かった。その後1995年に初めてIntelによって策定されたATXでは、こうした曖昧な電源ユニットの仕様を規格化し、出力電圧やサイズ・形状など基本仕様を規定するのはもちろん、マザーボード上の接続端子の位置など細かいところも設計ガイドで指示している。これによりマザーボードはもとより電源ユニットについても、各メーカー間の互換性が飛躍的に向上した。その後、AT電源は姿を消していき、現在では省スペース型を除いたデスクトップPCの電源ユニットの多くがATX電源になっている。また、SFX電源も物理形状こそ異なるものの電気的特性は基本的にATX電源と同じ部分が多いので、ここでは、現在市場でも多く見られるATXのVer.2.0xに対応した電源ユニットを中心に解説していく。

規格名称 特徴 サイズ
ATX 2.03 もっとも基本的な電源ユニットの規格。そのほかの電源ユニットの規格は、このATX2.03から派生している 150×140×86mm
ATX12V ATX 2.03電源に+12V専用の電源ケーブル/コネクタを加えたもの 同上
SFX ATX電源のサイズをmicroATX向けに小型化したもの。-5V電源が省略されている 100×125×63.5mmほか
SFX12V SFX電源に+12V専用の電源ケーブル/コネクタを加えたもの 同上
現在のデスクトップPC向け電源ユニットの規格
省スペース型で見られる独自形状の電源ユニットも、電気的特性はSFXやSFX12Vなどに従っているようだ。

■写真や図で見るATX電源
 ATX電源とはどんなものなのか、まずはPCから取り出した電源ユニット単体の写真から見ていこう。

ATX電源の例 ATX電源の背面 空冷ファンを2つ内蔵する電源ユニット
金属製の四角いケースで覆われた電源回路の部分と、PCの内部パーツに電力を供給する数本の電源ケーブルからなる。ケース部分の大きさは150×140×86mm(規格上の数値。突起部含まず)。実際の製品では、これとサイズ大きく異なるものも存在するが、基本のサイズはこの写真のものだ。 スリットが空いている部分には空冷ファンが設置されており、電源ユニット内部やPCケース内部の熱を排出する役割を負う。その右下にあるのはコンセントと接続する電源コネクタと、その入力電圧を切り替えるスライド・スイッチ(赤い部分)だ。電源ユニットによっては、この赤いスイッチがなかったり、電源ユニットを完全にオン/オフするメイン・スイッチが装備されたりすることもある。 これは、背面と底面の両方に空冷ファンが取り付けられている電源ユニットの例。空冷ファンの位置や数は、PC内部の冷却に大きな影響を及ぼす。代替の電源ユニットを選ぶ際は、ファンの数や位置をなるべく合わせた方がよい。

ATX電源の電源ケーブル/コネクタ
接続先のデバイスによって、電源コネクタの形状や電圧の種類などが異なる。
  マザーボード用の電源ケーブル/コネクタ
  予備のマザーボード用電源ケーブル/コネクタ。マザーボードによっては不要なので、これを持たない電源ユニットもある
  ハードディスクやCD-ROM/DVD-ROMドライブ用の電源ケーブル/コネクタ
  フロッピードライブ用の電源ケーブル/コネクタ

ATX電源のサイズの規定
これは設計ガイドに記されていたものの1つを抜粋したもの。空冷ファンや通気口、ラベルの位置などが細かく指示されているのが分かる。
 
  関連リンク 
デスクトップPC「Dimension」シリーズの製品情報ページ
 
 

 INDEX
  [連載]PCメンテナンス&リペア・ガイド
  第6回 意外に故障の多いパーツ「電源ユニット」の基礎
    1. 電源ユニットが故障しているときの症状
  2. 電源ユニット規格の歴史と種類
    3. ATX対応電源ユニットの注意点
 
「連載:PCメンテナンス&リペア・ガイド」
 


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