連載 PCメンテナンス&リペア・ガイド第6回 意外に故障の多いパーツ「電源ユニット」の基礎3. ATX対応電源ユニットの注意点 林田純将 |
ATXの規格やその設計ガイドでは、電源ユニットについて出力電圧の種類やその電気的特性(電圧の許容範囲や各種信号のタイミング)、ケースやコネクタの物理形状、空冷ファンによる冷却の必要条件などが、細かく規定あるいは推奨されている。しかし、電源ユニットに必要とされる仕様は、利用されるPCの仕様(消費電力や発熱量、ケースのサイズ、拡張性など)に大きく左右されるため、あえて規格でははっきり規定されていない部分があったり、特殊なPCケースに形状を合わせるため規格に合致しない部分があったりする。以下では、ユーザーとしてATX規格および実際の製品において注意すべき点を取り上げよう。
ATX電源ユニットの出力電圧
ATX電源は、電圧にすると+12V、+5V、+3.3V、−5V、−12V、+5VSBという合計6系統の出力がある。
出力電圧 | 用途(電力供給先のパーツ) |
+12V | 各種ドライブのモーター、PCIスロット、プロセッサ・コアの電源(電圧を下げて利用)など |
+5V | マザーボード上のロジックIC、各種ドライブ、PCIスロット、プロセッサ・コアの電源(電圧を下げて利用)など |
+3.3V | メイン・メモリとその周辺回路、PCIスロット、そのほかマザーボード上の低電圧対応ロジックICなど |
−5V | (メイン・メモリで使われることもあるが、ほとんど使用されていない) |
−12V | PCIスロット(ほとんど使用されていない) |
+5VSB | ソフトウェア・パワーオン/オフ、Wake On LANなどパワー・マネジメントに関係する回路 |
ATX電源の出力電圧とその用途 | |
合計6系統の出力が規定されている。電源ユニットの選択では、各出力電圧の最大容量が重要なポイントとなる。 |
■+5VSBの役割
このうち、特殊なのはパワー・マネジメント用の電源である+5VSBだ。SBは「StandBy(待機状態)」を意味する。すなわち+5VSBは、PCの電源がオフの間(待機状態)も電源ユニットから供給される電力である。
以前のAT電源では、PCのフロントパネルにある電源スイッチは、電源ユニットに直結されており、このスイッチをオフにすると、電源ユニットからの電力供給は完全に絶たれてしまう。そのため、電源スイッチを直接操作してオンにすることでしか電源を入れることができなかった。しかし、ATX電源では、この+5VSBにより、電源がオフになっていても、コンセントから電源ユニットに電力が供給されている限り、マザーボードに+5Vの電力を供給し続けることができる。
これにより、電源のオン/オフを「マザーボード側からの指令」で行えるようになっている。例えばフロントパネルの電源スイッチは、電源ユニットではなくマザーボードに接続されており、マザーボード上のパワー・マネジメント回路がスイッチの状態をチェックしてATX電源ユニットにオン/オフの指令を与えている。このため、例えば電源スイッチをオフにしたとき、PCの電源がオフになるのではなく、スタンバイ状態になるといった設定もできる。また、WindowsなどのOSの終了時に自動的に電源がオフになるといった機能も、この仕組みにより実現可能となっている。いまでは当たり前となっているこれらの機能の実現には、ATX電源も関係しているのだ。
最近の電源ユニットで比較的問題が多いといわれるのは、この+5VSB関連のことである。これの電流容量が小さいと、スタンバイやその復帰に失敗する場合が多いのだ。ATX 2.01では最大電流容量が0.72A以上ならばよいと規定されていたが、最新のATX2.03では1.0Aを必須、2.0Aを推奨している。特にWake On LAN(LANからの指令による電源オン)やUSBキーボード/マウスの操作による電源オンでは、電源オフの状態での消費電力が比較的大きい。こうした機能を利用する場合は、+5VSBの最大電流容量をチェックする必要がある(できれば2.0〜2.5A以上がよい)。これは電源ユニットに貼ってあるスペックのラベルを見ると分かる(下の写真)。
電源ユニットの電気的な仕様を記したラベル | ||||||
たいていの電源ユニットは、このように入力および出力の仕様を記したラベルが付いている。電源ユニットを交換する際には、このラベルの記載内容を基に新しい電源ユニットを選ぶため、重要な存在である。 | ||||||
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スタンバイやWake On LANに関する設定画面 |
これはBIOSセットアップの画面。スタンバイの動作に影響するのは「ACPI Suspend Type」などの設定だ。こうした設定はOS上でも必要になる場合がある。 |
■各出力の電流容量は、電源ユニットによって異なる
+5V、+3.3Vなど+5VSB以外の出力の最大電流容量は、ATX規格では特に定められてはいない(ATX電源の設計ガイドには、各出力に対する電流容量の配分の例が記載されているが)。そのため、各出力の電流容量の大小によって、電源ユニットの最大出力も変わってくる。雑誌などで掲載される電源ユニットの出力は、トータルで供給可能な最大出力ということになる。このため、同じATX対応と銘打たれた電源ユニットでも、出力が小さいものや大きいものが存在するのだ。
■入力電圧はAC115V?
また、コンセントから供給される電圧についても規定されているが、ATX電源が採用している電圧はAC230VとAC115Vの2種類となっている。日本のコンセント電源はAC100Vで供給されているが、電源ユニットは通常、80〜85%程度の入力電圧でも動作するようにマージンを設けてあるので115Vで使用しても問題ない。しかし、品質の悪い電源ユニットでマージン幅が少なかったり、タコ足配線や古いビル設備のせいなどでコンセントから供給される電圧がさらに低かったりする場合には、電源ユニットからの出力電圧も下がるといった問題が生じる可能性もある。
入力電圧を切り替えるスライド・スイッチ | |
日本国内では左写真のように115Vにセットしなければならない。間違えると最悪の場合、電源ユニットやほかのPCパーツが故障する可能性があるので要注意だ。 |
電源のタコ足配線 |
このように1系統の電源ラインから多数の分岐をすると、電圧が下がるなどのトラブルを招くことがある。これが原因でPCの電源トラブルにつながることもある。 |
■Pentium 4/Athlon対応電源ユニットとは?
最近になって、Pentium 4など消費電力が大きくなったプロセッサのために、専用の電力供給用ケーブル/コネクタを設けた「ATX12V」という電源ユニットの規格が策定された。これはATX 2.03をベースに、プロセッサ・コアなどへの電力供給に使われる+12V出力の増強と、その+12V出力をプロセッサ・コア電力の回路に供給するための専用ケーブル/コネクタの追加を規定したものである。そのほかの仕様はATX 2.03と同じため、電源ユニットには単に「ATX 2.03」と記されることが多い。電源ユニットの説明に「Pentium 4対応ATX 2.03」と書かれていれば、このATX12V対応である。逆に、ATX 2.03対応の電源でも、Pentium 4対応と表示されていなければ、ATX12V対応ではなく、Pentium 4搭載のPCでは使用できない可能性があるので注意が必要だ。
Pentium 4対応電源ユニットの例 | |
外観(左写真)からはほかのATX電源とほとんど違わないが、+12V出力の専用電源ケーブル(右写真)があればATX12V対応電源、すなわちPentium 4対応電源といえる。 |
Pentium 4と同様に消費電力が大きいAthlonシリーズ(Athlon/Athlon XP/Athlon MP)もまた、電源ユニットに大きな負荷をかけるプロセッサの1つだ。そのため、Athlonシリーズ対応と銘打たれた電源ユニットでないと、Athlonシリーズ搭載PCでは動作しないことがある。ここでいうAthlonシリーズ対応とは、ATX12Vのような専用ケーブルの有無ではなく、Athlonシリーズの大きな消費電力とその急激な電流変動などにも十分耐えられる電力供給能力があることを意味する。Pentium 4とは違い、専用コネクタが必要というわけではないので、Athlonシリーズ対応と銘打っていない電源ユニットでも動作することはあるが、単にATX 2.03と記された電源ユニットではなく、「Athlon対応」と明記されたものを選ぶ方が安全である。
■
次回は、実際に電源ユニットを購入するにあたって気をつけるポイント、電源ユニットの交換作業について述べていく。
関連リンク | |
デスクトップPC「Dimension」シリーズの製品情報ページ |
INDEX | ||
[連載]PCメンテナンス&リペア・ガイド | ||
第6回 意外に故障の多いパーツ「電源ユニット」の基礎 | ||
1. 電源ユニットが故障しているときの症状 | ||
2. 電源ユニット規格の歴史と種類 | ||
3. ATX対応電源ユニットの注意点 | ||
「連載:PCメンテナンス&リペア・ガイド」 |
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