連載 PCの理想と現実
第5回 USBの建前と本音、IEEE 1394の理想と現実?

コラム:iLINKが持つ互換性の問題

元麻布春男
2001/03/07

 ソニーはIEEE 1394に準拠した(ある意味サブセットである)「iLINK」の旗振り役であると同時に、早くからPCにIEEE 1394(iLINK)を標準搭載したメーカーの1つだ。しかし、問題の1つがiLINKが標準的に採用する4ピンのコネクタにある。この4ピン・コネクタは、最初の規格であるIEEE 1394-1995には定義されておらず、IEEE 1394aで追加されたものだ。そういう意味では、規格外のコネクタではないのだが、標準の6ピン・コネクタから4ピンに減らしたことで、本来IEEE 1394が持つある機能に制限が加えられてしまった。

IEEE 1394の6ピン・コネクタとiLINKコネクタ
左がIEEE 1394の標準コネクタである6ピン・コネクタ。右がIEEE 1394aで追加されたiLINKの4ピン・コネクタ。iLINKコネクタは、標準の6ピン・コネクタから電源供給用の2ピンが除かれ、小型化したもの

 6ピンから4ピンに減ったことで、直接的になくなった機能は、デバイスに対する電源の供給である。しかし、影響はそれだけではない。IEEE 1394から電源コネクタがなくなったことで、プラグ&プレイ機能にも制約が及ぶのである。たとえば、A、B、Cの3つの機器が、この順番でIEEE 1394によりデイジー・チェーンされているとしよう。AとCの接続性が確保されるには、Bのデバイス、少なくともBでケーブルが差されているPHY(物理層)に電源が投入されていなければならない。6ピン・コネクタなら、デイジー・チェーンを構成する機器のすべてに電源が入っていなくても、PHYには必ず通電されていることが保証されるが、4ピン・コネクタではデイジー・チェーンの機器すべての電源が入っていないと、PHYに通電されていることが保証されない。つまり、データをやり取りするのがAとCの2台だとしても、3台が4ピン・ケーブルで接続されている場合、A、B、Cの3台すべてに電源を入れておかなければならないのである。6ピン・ケーブルであれば、AとCに電源が入っていれば、それで大丈夫だ。

 もちろん、電源を供給可能な6ピン・ケーブルさえ使えば、何の問題もない、というわけではない。例えば、上の例でいうとAとBの2つがデータをやり取りしているとき、CとBの間のケーブルを外し、Cを他所に持っていけるか、というのは難しい判断だ。データだけからいえば、Cは外せるハズだが、もしIEEE 1394バスに電源を供給しているデバイスがCだけ(AとBがバス・パワードのデバイス)だったとしたら、Cのケーブルを抜いた瞬間に、AとB間のデータのやり取りは終わってしまう。中央集権的な管理者(いうまでもなくPC)のいるUSBと違い、ピア-トゥ-ピア(Peer To Peer)でのデータ交換が可能な(言い換えればUSBより高機能な)IEEE 1394では、ユーザーが常に気を配らなければならないことも増える。

 これはとりもなおさず、プラグ&プレイの実現が困難、ということでもある。特にユーザーの目の届く範囲だけならともかく、ホーム・ネットワークや、ホーム・ネットワークを強く意識したUniversal Plug and Play(UPnP)のようなアプリケーションを考えると、さらに難しくなる。例えば、「電源供給の問題は、ネットワーク系のアプリケーションではリピータ・ハブに常時電源を供給させる」、「管理の問題はPCが入った環境ならTCP/IP over IEEE 1394上でSNMPベースの管理ツールを動かす」、といったことで理屈上は乗り越えることが可能だと考えられる。だが、果たしてどこまで現実的か、という問題もある。フルスペックのIEEE 1394は、壮大な夢を実現可能なほど、多機能、高機能であるがゆえに、そのサポートは非常に難しい。

AV機器では同時に3台の接続をサポートしない

 これを踏まえて、もう1度4ピンのiLINKを考えると、機能が限定される代わりに、現実的なものになっていることに気付く。すなわち、iLINKでは、機器の接続を2台に限定し、ポイント-トゥ-ポイント(Point To Point)で接続するだけのインターフェイスにしているのである。現在、iLINKに対応したAV機器は、DVカムコーダー、D-VHSデッキ、MDデッキ、デジタルCSチューナー、デジタルBSチューナー、PlayStation 2といったもの(一部、生産終了したものを含む)だが、この中に2つのiLINKコネクタを備えたものはほとんど存在しないハズだ。つまり、これらの機器を用いて、同時に3台以上を接続するデイジー・チェーンは構成できないようになっている。これは意図的にそうなっているハズだ。

 また、以上の機器のうち、すべての機器の間で接続性が保証されているわけではない。たとえば、デジタルBSチューナーとD-VHSデッキは接続できるが、デジタルBSチューナーとDVカムコーダは接続できない(データ・フォーマットなどの違いという面もあるが)。PlayStation 2とD-VHSが接続できるという話も聞いたことがないハズだ。1つの規格に準拠しているからといって、それが接続可能であることを意味しない、というのは家電の世界では珍しいことではないし、どの機器とどの機器が接続できるかを決めるのは、あくまでもメーカーである。その代わり、接続性に対しメーカーが完全な保証を行う、というのが家電の世界なのである。PCの世界とは、考え方がまったく違う。こうした考え方の違いが、IntelにIEEE 1394を断念させたのではないかと思う。


 INDEX

  [連載]PCの理想と現実
  第5回 USBの建前と本音、IEEE 1394の理想と現実?
    IEEE 1394の理想と現実(1)
    IEEE 1394の理想と現実(2)
  コラム:iLINKが持つ互換性の問題
    コラム:次世代P1394bは家電にも向かない
 
「連載:PCの理想と現実」

 



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