RFID+ICブックレビュー

ユビキタス社会を予測するための3冊


岡田 大助
@IT編集部
2008年1月22日

 目下、日本政府は「u-Japan」と銘打った情報通信政策を推進している。「u」とは「ユビキタス」を意味している。2010年までに「『いつでも、どこでも、何でも、誰でも』ネットワークに簡単につながるユビキタスネット社会」を実現するための国家戦略である。

 2004年、それまでの「e-Japan」政策の後継として総務省が打ち出したユビキタス政策は、社会基盤としてのユビキタスネットワークの整備、情報通信技術(ICT)の高度利活用、安心・安全のための環境整備を掲げた。目標とする2010年まで2年を残すところとなったが、はたしてユビキタス社会は実現するのだろうか。

 今回紹介する書籍には、ユビキタス社会を構築するための技術や制度について知見を広げることができるものを選択した。いかんせん、ユビキタス社会が実現途上の社会インフラであることから、取り扱われるコンテンツについては予測レベルを超えるのが難しいが、イメージをつかむことはできるだろう。

■日本は「コンテンツ」で世界の表舞台に舞い戻れるのか

図解でわかる! ユビキタス・コンテンツビジネスのすべて

前坂俊之、野口恒 著
PHP研究所 2006年
定価1500円+税
ISBN4-569-64829-0


 ユビキタスネットワーク上でやり取りされるコンテンツと聞いて、まず何を思い浮かべるだろうか。数年前まで「日本はアニメやマンガ、ゲームなどのコンテンツ大国」として生き残ることができるという言説があった。しかし筆者は、台湾や韓国などを中心とするアジアの国々に追い上げられ、安穏としているわけには行かなくなったという。

 本書は、69項目のQ&A方式でユビキタスコンテンツビジネスの行く末を分析した入門者向けの手引書だ。「ユビキタス社会の特徴とはどのようなものか」といった基本的な事柄から、「コンテンツビジネスの成功要件は何か」「今後、どのようなコンテンツが脚光を浴びるのか」といった起業のための指南書といってもいいだろう。

 u-Japan戦略におけるコンテンツビジネスを「生活基盤支援」「安心・安全」「便利・快適」「知的欲求・満足」を実現するためのサービスコンテンツの4つに分類している。しかし、その多くは具体的なサービスコンテンツの提供が開始されていない。ユビキタス時代のサービスコンテンツに関するビジネスチャンスを見出すことができるだろうか。

■無線デバイスの動作の仕組みから設計まで

ユビキタス無線ディバイス―ICカード・RFタグ・UWB・ZigBee・可視光通信・技術動向

根日屋英之、小川真紀 著
東京電機大学出版局
2005年
定価2400円+税
ISBN4-501-32450-3


 ユビキタス社会を実現するための技術として、非接触ICカードやRFID、UWB、ZigBeeなどさまざまな技術が注目されている。本書は、それぞれの技術を専門的に解説した中級者から上級者向けの構成となっている。

 全9章のうち、2章から6章までをRFIDシステムや非接触ICカードシステムを実現するための技術解説に当てている。これまでにもRFIDタグの種類や変調方法などを解説する技術書は存在していたが、本書では第4章をアンテナ、第5章を応答器、第6章をリーダ/ライタの技術に絞って詳細に取り上げている。

 極めて専門的な電気工学、電子工学の世界の話が中心となるものの、ふんだんに図や写真が取り入れられており、ユビキタス無線通信に興味があって、これから学んでいこうと思っている方にもお勧めの1冊である。

■ユビキタス情報社会の哲学を読む

ユビキタスでつくる情報社会基盤

坂村健 編
東京大学出版会 2006年
定価2800円+税
ISBN4-13-060800-2


 東京大学の坂村健教授といえば、国産OS「TRON」を提唱し、「どこでもコンピュータ」を掲げてインフラとしてのユビキタス社会を実現するために活動している第1人者として知られる。

 また、東京大学大学院情報学環は文部科学省の研究拠点形成等補助金事業のCOE(21世紀COEプログラム、グローバルCOEプログラム)としてユビキタスコンピューティングに関する議論や研究を行っている。本書は、そのフィードバックを集めたものだ。

 ユビキタス情報社会基盤を実現するためには、技術と制度といった2つの壁をどのように突破していくのかが課題だ。技術だけが理想を実現できたとしても、人間が生活を営んでいる社会(制度)によって発展を阻まれることがある。例えば、セキュリティやプライバシーの問題は技術だけによって解決されるものではない。

 本書は、技術解説書でもなければ制度の紹介書でもない。むしろ、ユビキタス時代を創り出すための哲学書と呼んだ方がしっくりくるだろう。ユビキタス社会を実現するために必要なものは何か、それは何故必要とされるのか。通読することで、技術と制度の本質を見抜く目が養われることだろう。

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