“新電波法”でRFIDビジネスは新たなステージへ
岡崎 勝己
2008年7月16日
非接触ICカードやRFID技術が社会にもたらす変化とは何か。ユーザーサイドから見た情報システムの意義を念頭に取材活動を続けるジャーナリストが、独自の視点で“近い未来”を探っていく(編集部)
2008年春、総務省は電波法を改正し、950MHz帯のRFIDシステムで従来必須とされたキャリアセンスなどの基準を大幅に緩和したミラーサブキャリア方式の利用を認めた。同方式は高速物流レーンなどでのRFIDタグの読み落としを防止できるものとして注目を集めている。
では、RFIDビジネスを展開する各社は今回の電波法の改正をどのようにとらえているのか。各社の取り組みを追った。
本格活用段階に入った950MHz帯省電力通信システム
「RFIDタグはいよいよ本格普及の緒に就いた」
業界関係者からこんな声が頻繁に聞かれるようになった。日本自動認識システム協会(JAISA)の調査でも、2007年におけるRFID(ICカード、タグ、チップ・インレット)の出荷金額は前年比27.2%増の187億円を記録。リーダ/ライタや応用機器の出荷金額は減少に転じているものの、各社の話を総合するとRFIDタグの利用に乗り出す企業が着実に増加していることはほぼ間違いなさそうだ。
そして2008年春、総務省はUHF帯タグシステムに関連する電波法の一部を改正。950MHz帯のアクティブタグシステムと短距離無線通信システムを対象にした技術基準を新たに定めるとともに、950MHz帯パッシブタグシステムにおける従来の技術基準の見直しを行った。
今回、総務省が電波法を改正したのはなぜなのか。その背景には(1)950MHz帯アクティブ系省電力無線システムの実用化、(2)950MHz帯パッシブタグシステムのさらなる高度化、という2つの狙いがある。
まず(1)について簡単に説明しよう。950MHz帯は2.4GHz帯よりも通信距離が長く、426/429MHz帯と比べて占有周波数帯を最大で600kHz幅まで広く取れることから、250kbps程度の伝送容量を確保できる。
そのため、同帯域を利用するアクティブ系省電力無線システムの実用化はかねてから注目を集めており、海外では800/900MHz帯を利用する短距離無線通信システムとしてZigBeeなどがすでに規格化されていた。
今回、同システムの国内における技術基準の策定は、いわば、950MHz帯の特性を生かしたシステム開発の進展に向けた基盤固めの意味を持つ。今後は、照明の明るさを制御するために、制御器間でネットワークを構築しマルチホップに通信するシステムなど、さまざまなシステムが登場すると見込まれている。
RFIDの普及・高度化を促すためミラーサブキャリアを解禁
一方、RFIDの将来動向を展望するうえで注目されるのが(2)だ。
RFIDシステムの利用拡大に伴い、今後は同一構内に設置されるリーダ/ライタが増加することで、リーダ/ライタの高密度化による他チャネルからの干渉や、リーダ/ライタのチャネル獲得が遅れる、いわゆるキャリアセンス待ち(LBT待ち)などの問題が発生しやすくなると推測される。
これらの問題を解消するために期待されていたのがミラーサブキャリア方式と呼ばれる干渉回避技術だ。同方式では、同一のチャネルで通信を行うベースバンド方式とは異なり、送波と受信波をずらして通信を行う。このため、同一のチャネルを使用するほかのリーダ/ライタのやりとりに受信帯域が影響を受ける心配はない。
また、互いに干渉を与えない2つのチャネルを利用することで、キャリアセンスを行うことなく周波数を繰り返し利用でき、かつタグコンフュージョンの心配を払拭(ふっしょく)することができる。
そこで、今回の電波法の改正では、「利用者の選択の幅を広げ、RFIDのさらなる普及を促すため」(総務省)に、空中線電力が1W以下の高出力型パッシブタグシステムにおける8チャネルと14チャネルはキャリアセンスを要さないチャネルと設定された。
併せて、同チャネルにおいてキャリアセンスを行わず送信する場合には、送信時間の規定を設けないなど従来の規定を大幅に緩和した。これにより、高密度なシステム配置に加え、高速物流レーンのRFIDタグの読み落としを防止できるリアルタイム性を備えたシステムの実現に向けた法制面の規定が整備されたわけだ。
工場のパレット管理にミラーサブキャリア方式を
この電波法の改正をRFID市場拡大のチャンスととらえる企業は少なくない。UHF帯のRFIDを軸にRFIDビジネスを展開している三菱電機もその1つだ。
會田一男氏 三菱電機 IT宇宙ソリューション事業部 IT宇宙ソリューション営業第一部 RFID機器課 課長 |
同社でIT宇宙ソリューション事業部 IT宇宙ソリューション営業第一部 RFID機器課 課長を務める會田一男氏は「UHF帯は電波が飛び過ぎる故に電波干渉や、それによるLBT待ちが発生し、現場で使いにくいという認識を持たれているケースが少なくない。ミラーサブキャリア方式によって、そうした認識を払拭することができれば」と期待を寄せる。その活用を進めるに当たって同社が期待を寄せている用途が、工場におけるパレット管理などの分野だ。
これまで三菱電機では、重要書類や固定資産の管理、人や車の入退場管理など、セキュリティ分野を中心にビジネスを展開してきた。しかし、2008年に入り物流分野におけるビジネスも急速に拡大している。中でも工場におけるパレット管理などのリターナブル容器管理のニーズが高く、1つの工場内に複数台のリーダ/ライタを設置するケースも少なくないという。そこでの電波干渉を解消する手段として活用しようというわけだ。
同社では「効果を確認したうえで啓蒙(けいもう)を行うことが重要」(會田氏)との考えの下、電波法の改正前にミラーサブキャリア方式に対応したリーダ/ライタを製品化した。専用施設で実証実験を重ねるとともに、セミナーを開催し、その結果を紹介してきた。そこでの経験に會田氏は大きな手応えを感じているという。
「セミナーでは出席者からミラーサブキャリア方式に関するさまざまな質問が寄せられ、企業の同方式に対する関心の高さを実感できた。今後、事例などを通じて利便性を訴えることで、さらなるユーザーの開拓につなげたい」(會田氏)
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Page1 本格活用段階に入った950MHz帯省電力通信システム RFIDの普及・高度化を促すためミラーサブキャリアを解禁 工場のパレット管理にミラーサブキャリア方式を |
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電波法改正によりミラーサブキャリア方式の展開が柔軟になった。950MHz帯パッシブタグはRFID普及を促進できるのか
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