第4回 SCM、物流分野におけるRFIDシステム


小野田 久視
日本オラクル株式会社
システム製品統括本部
アドバンストソリューション本部
RFIDビジネス推進部
担当マネジャー
2006年12月14日


 SCM全体の見直しの中でのRFIDの活用

 もう少し視点を広くした事例を紹介します。サプライチェーン全体の改善を望む企業は非常に多いと思いますが、現実的には成功事例に出合う機会は少ないといってもいいでしょう。

 ここで取り上げる企業では、SCM全体を見渡すと下記のような業務構成で運用しています。全体の流れとしては、

  1. 顧客や小売店からメーカー側に、商品の発注が電子的に行われる
  2. メーカーは海外の自社工場に生産指示を出し、物流センターに配送指示を出す
  3. 工場では生産指示を受け取って、生産を開始し、納期の連絡を物流センターに対して送信する
  4. 製品完成後、工場から出荷し、日本に向けて輸出を行う
  5. 日本に輸入し、物流センターに納品する
  6. 物流センターでは顧客・小売店からの発注情報にひも付く周辺機器をVMI(Vendor Managed Inventory)からピッキングし、パッキングし直して出荷する

というものです。一般的な流れのようではありますが、これを一気通貫で連携させ、なおかつ在庫の最適化を行うのは非常に難しいです。

 この企業ではすべての情報を受注番号にひも付け、それぞれの業務プロセスを細かく分けて、実績データを各プロセスの最初と最後に取得しています。実績データの取得方法は業務プロセスごとにもちろん異なります。実際の商品が流れる部分では、検品やピッキングの業務が発生するので、そこでRFIDやバーコードを活用しデータを効率的に取得します。もちろん現場での作業内容は検品ですので、1つの業務に割く時間を短縮することで全体のサイクルを回す時間を短縮することを目指しています。

 取り扱うデータは非常に大量となり、複数の国をまたぐことになります。そこで、SGTIN、SSCCなどのグローバルで完全にユニークになるEPCコードを積極的に活用するメリットが出てきます。コスト面での問題もあり、バーコードとRFIDを拠点ごとに使い分けていますが、データとしてはRFIDでもバーコードでも同じユニークな番号を利用しています。

 また、RFIDにより自動的に実績データをすべて取得することで倉庫内、工場内の在庫だけでなくSCM内を移動する物流在庫の完全な把握もすることができるようになるということも大きなメリットです。

 所得した実績データは一元的に管理し、そのデータからあらかじめ設定しておいたKPI(重要業績評価指標)と照らし合わせます。各プロセスのKPIは下記のようにカテゴライズして定義しています。

  • サイクルタイム
  • コスト
  • 紛失、ミス、破損

 それぞれの項目に対して、目標、現状、差分の3つの尺度でKPIを分析していきます。データを投入し、職責に合わせてダッシュボードを作成し、各業務プロセスの改善を実施していきます。全体を取りまとめるのはBPI(ビジネスプロセス改善)、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の業務部門が中心となって個別最適に陥らないように全体を見渡して、各業務部門と連携しながら業務改善を行います。

 RFIDによって変化するサプライチェーン

 企業は常に成長が求められますが、コストの増加は求められません。できるだけ低コストで、無人化できるところは無人化して全体のサイクルを短縮化していく必要があります。

 すべて人手を介していた各拠点での検品の一部を、RFIDを活用した検品に切り替えることで、企業の成長に伴う物流量の増加が起こった場合でも物流量に応じてコスト増とならない仕組みが構築できます。これは、SCMにかかわるさまざまな企業にとって必要なことといえるでしょう。

 現在、こういったサプライチェーンの中でのRFIDの活用が進んでいます。EPCglobalが標準化を進めるさまざまな技術を活用することによって、多くの企業のサプライチェーンが大きく変わっていくことが予想されます。上記のように大きなサプライチェーン全体を改善する中で、RFIDの技術を活用するメリットを感じる企業も増えてきました。

 今回は、1つの企業内で閉じている事例を紹介しましたが、1つの企業内のサプライチェーンを別の企業のサプライチェーンと連携させる事が現実的に普及しつつあります。米国ではWal-MartやBestBuyをはじめとした多くの企業で、サプライヤーに対してRFIDを付けて納品するように要求しています。日本でも家電量販店で同様のことが始まりました。今後この流れはさらに広がっていくことが見込まれています。

 このような要求に対応するためにSlap&Shipと呼ばれるパッケージが登場しています。次回は、Slap&Shipについて紹介します。

2/2
 

Index
SCM、物流分野におけるRFIDシステム
  Page1
サプライチェーンの6階層におけるRFID需要
返却可能な物流容器(RTI)の管理
Page2
SCM全体の見直しの中でのRFIDの活用
RFIDによって変化するサプライチェーン

Profile
小野田 久視(おのだ ひさし)

日本オラクル株式会社
システム製品統括本部
アドバンストソリューション本部
RFIDビジネス推進部
担当マネジャー

新規成長分野に対する市場立ち上げをミッションとし、2005年より製造業、物流業界を中心にRFIDを中心としたビジネスデベロップメントを担当。

RFIDシステムのエバンジャライズ、マーケティング、顧客企業の案件支援を中心に担当し、多くの企業のプロジェクトの立ち上げから設計、開発までを顧客企業と共に行い多くの事例創出に携わっている。

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