第6回
物流を可視化するEPCISを知る
伊東 英輝
日本オラクル株式会社
システム製品統括本部
Fusion Middleware技術部
RFID&EDAグループ
シニアマネージャー
2007年2月19日
RFIDの技術的な理解は進んだ。これからは、RFIDを使ってどのようなシステムを構築していくべきかが問われる。RFIDシステム構築エンジニアに必要なスキルと知識を解説する(編集部)
RFIDがブレークする鍵は情報の可視化です。RFID技術は主に工場や店舗などのエッジ側で使用され、その効果を実証してきました。RFID技術によって得られた情報をネットワーク上で共有することによって、RFIDは本格的に普及します。
ネットワーク化の中心となるサービスがEPCIS(EPC Information Services)です。今回と次回でEPCISを取り上げ、EPCISを利用した次世代アーキテクチャを提案します。
EPCISは感知と通知の基盤
EPC(Electronic Product Code)は、物流の可視化のために、あらゆるモノにユニークなIDを付けるという発想から生まれました。EPCISはモノの流れのトレースを可能にするサービスであり、EPCに関する情報を取得し共有するための標準的なインターフェイスを提供します。EPCISにより、感知されたモノが何(what)であるか、どこで(where)、いつ(when)、何のため(why)に感知されたのかといった情報が共有できます。
例えば、特定のEPCは「A社の管理しているパレット」であり、そのパレットには「スポーツウェア会社B社」の「商品C」が荷積みされ、「D社倉庫」に「2007年1月5日」に「入荷された」といった情報が個品レベルまで蓄積されます。パレットを管理しているA社は常に自社の資産を感知しトレースできます。荷主であるB社は納期どおりD社に入荷された通知を受け取ることができます。
EPCISは、既存のサプライチェーンシステムを置き換えるのではなく補完します。EPCISはビジネスイベントの感知と通知のための基盤を提供するので、物流業務アプリケーションはEPCISを利用することによってリアルタイムシステムに移行できます。
国際物流の課題から考案されたEPCIS
EPCISは国際物流の課題を解消し、モノの流れを可視化します。物流には2つの課題がありました。
第一に、複数企業でモノをトレースする標準規格がなかったことです。標準規格がなかったことにより、システムごとに、モノを識別する方式から情報の格納、検索まで別々のアーキテクチャで設計されていました。システムは複雑化し、年々コストが増大することが業界全体の課題でした。標準規格があれば、製造、卸、小売の業界全体がシステム投資に対して恩恵を受けサービスレベルを上げられます。
また、標準規格は国内だけでなく海外まで求められています。グローバル化の流れは製造拠点にも販売地域にも進んでいます。例えば、中国の生産工場から日本の販売店舗までは物流業者、税関、ターミナルなど多くの企業や局が関与します。よってモノをトレースするための基盤は国際標準規格であることが重要です。
第二に、今までモノをトレースできたのはコンテナレベルで、個品レベルまでトレースできませんでした。個品レベルの情報がネットワークで共有できれば、個品レベルでモノのトレースができます。個品にユニークなEPCが割り当てられ、個品がコンテナやパレットに関連付けられることによって、個品レベルのきめ細かなトレースが可能になります。
EPCISは国際標準化団体であるEPCglobalが仕様策定した国際標準規格であるため、物流業界は統一的なアーキテクチャを世界中で利用できます。また、コンテナから個品までそれぞれシリアル管理できるEPCを使うことにより新たなサービスが創出できます。
EPCISはすでに利用可能
EPCISを利用するための環境は整っています。モノをトレースするためにはEPCIS以外にもさまざまな標準規格や技術が必要です。必要であるオブジェクトIDの標準、自動認識技術、デバイス抽象化、情報を格納・検索するための規格は、それぞれEPC、RFID、RFIDミドルウェア、EPCISによってすでに提供されています。
EPCglobalは、国際的なパイロットプロジェクトを実施するなど、EPCISを使用した実証実験を盛んに行っています。国内のソフトウェアベンダもEPCglobalを支持し、共同で相互接続を実施するなど、標準化を推進しています。
【関連リンク】 EPCglobal 物流部会における世界的な国際物流実証実験にNTTコムウェア、IIJ、日本オラクル、日本ベリサインが共同参画 |
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物流を可視化するEPCISを知る | |
Page1 EPCISは感知と通知の基盤 国際物流の課題から考案されたEPCIS EPCISはすでに利用可能 |
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Page2 インターネット技術を応用したEPCネットワーク EPCISの機能 EPCISのデータ |
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