第1回 どうしたらRFIDエンジニアになれますか?
西村 泰洋
富士通株式会社
ユビキタスシステム事業本部
ビジネス推進統括部
ユビキタスビジネス推進部
担当課長
2007年1月24日
RFIDシステムの基礎トレーニング
今回は、RFIDシステムの基礎トレーニングについて解説します。具体的には、以下のような項目が挙げられます。
- 基礎知識の習得(1〜2日)
- ハードウェア、ソフトウェアに触れる(1日)
- 通信範囲を体験する(3〜6で1〜2日)
- 対象物、利用環境による性能の減衰・向上を確認する
- 設置位置、貼付位置による性能の減衰・向上を確認する
- 一括読み取り
- 現場での読み取りテスト(2日、準備含む)
- サンプルプログラムの開発(2〜3日)
それでは、項目ごとに説明していきます。
1. 基礎知識の習得
これは先述のとおり、RFIDシステム導入バイブルをはじめとする@ITなどのWebサイト上の記事やRFID関連の書籍などを読めばよいでしょう。
2. ハードウェア、ソフトウェアに触れる
実際にRFIDシステムを構成するハードウェア、ソフトウェアに触れるためには、開発キットなどを取り寄せると良いでしょう。例えば、13.56MHz帯RFIDシステムの開発キットを利用して、学習者が1人で実行します。
システムとしての最小構成(ICタグ、アンテナ、リーダ/ライタ、PCまたはサーバ)を組んで、ユーティリティソフトなどで読み取り処理を実行します。ここでは読み取りや書き込みにおけるベーシックな方法を確認してください。例えば、アクセスメソッドを1枚読み取りにして、ICタグの端を持つ、吊るしてみる、スタンドに置くなどICタグ単体の状態を変化させてみます。
3. 通信範囲を体験する
2で基本的な読み取り、書き込みの処理を把握したら、次に通信範囲の縁をなぞるように体験します。13.56MHz帯であれば60センチ程度、2.45GHz帯であれば1メートル超、UHF帯であれば3メートル前後のラグビーボール形状の通信範囲を感じることができるでしょう。
ただし、ここで注意したいのは、電波暗室であればきれいなラグビーボール形状を感じることができますが、実際の利用環境(オフィス、工場、物流センターなど)では形状が変化する点です。
「その環境ではどういう形状になるのか」ということを必ず確認してください。そうすることで、通信距離という“線”でなく、通信範囲という“面”を感じられるようになります。
従来使われているバーコードですと、光線を当てるために“点”というイメージが強いのですが、RFIDの場合は面になりますので、これを自ら感じ取ることは非常に重要です。
なお、この項目以降は、通信範囲の大きい周波数帯を選ぶと、その分トレーニングに要する時間が長くなります。
4. 対象物、利用環境による性能の減衰・向上を確認する
3で機器の通信範囲をつかんだら、実際に対象物にICタグを貼付して、読み取りをします。このとき3で測定をした場所で同じように実行してください。
ここでは、金属、水分を含む物、ダンボールなど、さまざまな対象物を選んで通信範囲の変動を確認してください。なお、時間がない場合は通信距離で測定しても構いません。
5. 設置位置、貼付位置による性能の減衰・向上を確認する
ここでは、リーダ/ライタ、アンテナの設置位置やICタグの貼付位置を変えると、通信範囲や通信距離にどのような影響が生ずるのかを確認します。違いを確認するだけでなく、一歩進んで、その場所(利用環境)あるいは対象物において、最適な機器の設置位置、貼付位置も見いだすようにしてください。
6. 一括読み取り
ここではアクセスメソッドを複数枚読み取りに設定します。実際に一括読み取りができるのかどうか、どうすればより確実に読み取りができるようになるかなどを試してください。
一括読み取りは対象物の並べ方やICタグの貼付位置で性能が大きく変動します。例えば、10枚のICタグ(対象物)を使って、確実に一括読み取りができる方法を考えてみてください。
7. 現場での読み取りテスト
ここまでで対象機器の基本的な性能をイメージできたと思います。ただし、それは、その場所(利用環境)での性能です(電波暗室で確認したのであれば、その機器の基本性能となりますが、電波暗室を利用できる読者は少数派になるかもしれません)。
しかし、その経験は無駄にはなりません。実際に自分で試した結果は、ほかの環境との比較対象となるので、非常に重要なデータになります。さらに、メーカーから得られた機器のスペック情報を加えて分析することで、さまざまな現場で、環境や対象物から受ける影響を推測できるようになります。
これを踏まえて、実際の現場で読み取りテストをします。ここで重要なのは、読み取り率が100%になる条件を見つけるということです。
現場でのテストに当たっては、業務(Business Process)、対象物(Object)、利用環境(Environment)という3つの視点から、事前に最適な周波数帯と機器を選定しておくべきです。もちろん、「テスト項目一覧」も準備して臨む必要があります。
8. サンプルプログラムの開発
可能であれば、メーカーが提供しているAPIコマンドを理解したうえで、実際にプログラムを組みます。
ICタグのIDを読み取るだけの簡単なものから始めるとよいでしょう。プログラミングに慣れるまで、物理的なインターフェイスや各種設定に関する項目で時間を要するでしょう。
理想的なトレーニング方法とは
RFIDシステムの基礎トレーニングは、上司やコーチなどが講習などを行うのではなく、各項目の大枠だけを示して、学習者本人がさまざまな資料を自分で参考にしながら進めていくようにしてください。今回紹介したRFIDシステムの基礎トレーニングは、最短で2週間程度で修了できます。
RFIDシステムはようやく規格や利用方法などが固まりつつありますが、まだまだ日々進歩していくものです。新システム系全般にいえることですが、自分で学んで調べて解決していく習慣が必要です。そして、そのようなシステム適用の現場では、自ら学んでいく姿勢と思考法が求められます。
次回は、業務分析・利用シーン想定についてのトレーニングについて解説します。
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Index | |
どうしたらRFIDエンジニアになれますか? | |
Page1 RFIDシステムのプロフェッショナルとは何者か RFIDプロフェッショナルになるために不可欠な3つの要素 スキルアップトレーニングにも2種類ある |
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Page2 RFIDシステムの基礎トレーニング 理想的なトレーニング方法とは |
Profile |
西村 泰洋(にしむら やすひろ) 富士通株式会社 ユビキタスシステム事業本部 ビジネス推進統括部 ユビキタスビジネス推進部 担当課長 物流システムコンサルタント、新ビジネス企画、マーケティングを経て2004年度よりRFIDビジネスに従事。 RFIDシステム導入のコンサルティングサービスを立ち上げ、自動車製造業、流通業、電力会社など数々のプロジェクトを担当する。 著書に「RFID+ICタグシステム導入構築標準講座(翔泳社)」がある。 |
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