クラウドインフラ設計セミナー レポート:
事業者はクラウドとどう向き合うべきか
柏木 恵子
2010/10/19
2010年9月14日に、@IT主催で「クラウドサービス提供を目指す企業のためのクラウドインフラ設計セミナー」が実施された。このなかではクラウド事業者のビジネスモデルや利用技術の状況が議論された。以下では、同セミナーの内容を要約してお届けする |
@ITは、2010年9月に、「クラウドサービス提供を目指す企業のためのクラウドインフラ設計セミナー」を開催した。同セミナーでは、データセンター事業者でありながら、PaaSの提供や、業界に特化したオンラインショッピングシステムの運用代行など、ユニークな取り組みを行っているブロードバンドタワーの代表取締役社長、大和敏彦氏や、クラウドサービスの動向に詳しい仮想化インフラストラクチャ・オペレーターズグループ(VIOPS)創立者でさくらインターネット研究所の松本直人氏が、クラウドサービスの現実について語った。
クラウドサービス間の連携も選択肢に
基調講演
「クラウド時代に事業者の生きる道とは」
株式会社 ブロードバンドタワー
代表取締役 執行役員社長 大和敏彦氏
コンピュータシステムの変遷を見ると、メインフレームからクライアント/サーバ、Webコンピューティングを経てクラウドコンピューティングへと変化してきた。変遷の本質の1つは、コンピューティング資源配置の最適化である。この流れは以前、集中から分散に向かったが、管理の容易性の面から再び集中に向かっているのがクラウドであるということもできる。つまり、一時的な流行ではなく、しばらく続くと考えられる。
また、ITインフラの「所有」から「利用」へという流れのなかで、ユーザーはどのレイヤでどのような内容のサービスを利用したいか細かく分かれてきている。IaaS、HaaS、PaaS、SaaSなどさまざまなサービスがあるが、IaaS/HaaSレベルでは価格破壊が始まっている。例えば米国のRackspaceというサービスでは、1時間1.5セントでクラウドサービスを提供している。スペック的にも、ある程度のことができるサーバである。このように、付加価値のないコモディティのサービスはこれからますます価格破壊が進む。
パブリッククラウドは安価ではあるが、SLA、遅延、セキュリティが弱点と言われている。これらを解決しつつ、クラウドのメリットであるスピードを提供することが、ビジネス成功のキーだ。そのためには、データセンター間や複数のクラウドをまたいだサービスが必要となる。例えば、AmazonのSLAは99.95%で、すべてのシステムで利用可能とはいえない。だが、開発環境ならばさほどのSLAは必要ないし遅延も気にしなくていい。そこで、開発段階ではAmazonのEC2を、実運用になったら自社データセンター内のリソースを使ってもらうようなサービスを提供する。あるいは、10台を1000台に拡張したいというニーズに応えるには自社で全てまかなうのは難しいので、ほかの事業者と協業してそのリソースを提供するという方法も考えられる。
その際、仮想マシンを簡単に移行できるツールが必須になる。そのためには、さまざまなレイヤでのツールはスタンダードを利用することが重要だ。例えば、ハードウェアはIAサーバ、仮想化はXen、KVM、VMware、仮想マシン管理はEucalyptus、ONE、Cloudstackなどが挙げられる。EucalyptusはAmazonと同じ管理環境で、CloudstackはRackspaceが使っているものである。連携したシステムを構築するには、こういったツールを使うことが必要になる。
クラウド時代のデータセンターがサービスを差別化するには、顧客にどのようなサービス内容をどの程度のサービスレベルで提供するかをしっかり見極めなければならない。ユーザーにとって下位レイヤは関係なくなるので、そこは効率化してコスト競争力をつけ、ユーザーインターフェイスを工夫して顧客を囲い込む。また、自分たち自身がクラウドの効果的使用者として上位レイヤのサービスを出していくことも有効だろう。
クラウドにおけるネットワークの役割は
セッション1
「クラウド型データセンターに最適化したネットワークインフラとは」
日立電線株式会社
情報システム事業本部 ネットワークエンジニアリングセンタ
副センタ長 末永正彦氏
クラウド型データセンターには、サーバの仮想化やストレージの統合によって、ITリソースの利用を効率化することや利便性を向上させること、そしてCO2排出量の削減など環境性能の向上やTCOの削減が求められている。さらに、ビジネスの重要なインフラとしてノンストップであることも期待される。このような要件を満たすためにネットワーク側で対応しなければならない内容として、L2リーチャビリティの拡大、ハイパフォーマンス、ネットワーク帯域の効率化、サーバ仮想化連携や低消費電力化などがある。
データセンターのネットワークには2種類ある。基幹ネットワークとサーバ収容ネットワークである。まず基幹ネットワークに求められるのは拡張性、広帯域・高効率、高い信頼性の3つだ。これを解決する方法としては、トポロジーはスター型よりもリング型が適している。リング型トポロジーはスパニングツリーの設定が面倒という問題もあるが、配線数が圧倒的に少ないため、敷設コストや管理工数を減らすことができ、拡張性に優れている。また、ハードウェアアシストによりスパニングツリーの弱点を解決した独自プロトコルもいくつか出ており、日立電線のAPRESIAでも採用している。
サーバ収容ネットワークで求められているのは、サーバ環境の大規模集約化やマルチテナンシー、リソースの有効活用や稼働率の向上といった変化にいかに対応するかである。ここには、種々の新技術が登場している。まず、サーバの集約によるコネクション数増加に対応するには、広帯域ネットワークが必要になる。10Gbpsイーサネットがそれに当たる。また、ライブマイグレーションに対応するために仮想サーバとスイッチの連動も重要になる。仮想サーバ間のトラフィックはソフトウェアの仮想スイッチで中継するとマシンに負荷がかかり、パフォーマンスに影響が出かねない。そこで、外部のスイッチにオフロードする技術がIEEEで検討されている。その他、ストレージインターフェイスとコンピューティングのインターフェイスを統合するFCoEなどの技術が注目されている。
「余計なコスト」をクラウドで排除する
セッション2
「Dell PAN Systemで実現するIT基盤の仮想化とダイナミックデータセンター」
デル株式会社
システムズ・ソリューション統括本部
アドバンスド・ソリューション開発本部
ビジネスディベロプメントマネージャー 馬場健太郎氏
企業のIT予算のうち、既存のシステム運用に投資されるのは全体の約80%、そのうち人件費が50%を占めている。サイロ化し、垂直化かつ硬直化した既存システムでは、システムごとに個別の環境があり管理がある。可用性向上のためのハードウェア/ソフトウェアおよびバックアップやリカバリのシステムも別である。ここに、余計なコストがかかる原因がある。コンポーネントを共通化・標準化し、各システムが標準インフラ上で運用されるようにすることで、余計なコストを省くことができる。
現状のデータセンターには、「システムの導入・移行に時間がかかる」「冗長化されたハードウェアが多すぎる」「インフラの運用管理に人件費がかかりすぎる」「災害対策が必要だがコストがかかりすぎる」「設置スペースや消費電力を削減したい」といった問題がある。これらの課題を解決するものとしてデルが提示するのが、BRS(ビジネスレディソリューション)である。BRSは、システム運用のためのコンポーネントをすべて備えた「オールインワン」であること、電源を入れたらすぐに利用可能な「ターンキーソリューション」であること、そして拡張性や信頼性が高くTCO削減効果が期待できることを特長としている。
デルのBRSのうち、プライベートクラウドソリューションは「Dell PAN System」として提供されている。迅速なサーバプロビジョニングと定義化を提供し、高い信頼性と省スペース/省電力を実現するデータセンターソリューションで、運用コストの実現が可能になる。また、N+1のHA機能や、ディザスタリカバリの機能も提供する。
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クラウドに求められる自動化と省力化
セッション3
「クラウド設計に向けて押さえておくべきポイントとは
〜ノベルのマルチプラットフォーム対応クラウドソリューション」
ノベル株式会社
営業本部 SEグループ
マネージャー 飯田敏樹氏
クラウドインフラは、ネットワーク層(ネットワークやストレージとそれらの仮想化レイヤ)、サーバ層(物理サーバ、ハイパーバイザ、仮想サーバ)、ソフトウェア層(OS、ミドルウェア、アプリケーション)に大別でき、どの部分までを提供するかによって、アプリケーションまでならSaaS、ミドルウェアまでならPaaS、仮想サーバまでならIaaSなどと分類できる。ネットワーク層では物理サーバの要求通りに迅速に資源を切り出すためのリソース管理やプロビジョニングといった機能が求められ、サーバ層ではハイパーバイザの柔軟な拡張性や可用性のためのバックアップなど、運用管理に関するさまざまな機能が必要となる。そして、ソフトウェア層では構成を標準化して最小限の固有設定で新しい環境のプロビジョニングを可能になるテンプレート管理などが求められる。
クラウドインフラを構築する際、特定ベンダの製品を組み合わせた垂直統合型、マルチプラットフォームの製品を組み合わせるインテグレーション型、そしてオープンソースのソフトウェアを利用するなどいくつかのアプローチがある。また、ハイパーバイザがゲストOSをサポートしているかどうかも組み合わせによって異なる。クラウドを構築する場合には、どのレベルの信頼性が必要か、自社の技術者がどの程度充実しているかなどを考慮して各レイヤの製品を選択する必要がある。仮想化によって管理が複雑化することから、特にプライベートクラウドではOSやミドルウェアを標準化し、テンプレートによるプロビジョニングが可能な環境が適しているだろう。
ノベルのクラウドソリューションでは、クラウドに最適化されたOSであるSUSE Linux Enterprise Serverと組み合わせ、既存システムのマイグレーションや仮想サーバのバックアップ、プロビジョニングのほか、パフォーマンス管理やセルフポータルの機能が提供される。また、SUSEは標準的なハイパーバイザすべてで完全サポートされており、ホスト単位の課金により無制限のゲスト利用が可能などのメリットがある。
「クラウド」はどんどん多様化する
特別講演
「魅力的なクラウドサービスの作り方」
仮想化インフラストラクチャ・オペレーターズグループ(VIOPS)創立者
/ボードメンバー
さくらインターネット株式会社 松本直人氏
クラウドコンピューティングのサービスはIaaS、PaaS、SaaSに分類できるが、市場規模としてはSaaSが一番大きく、これが牽引してクラウド市場全体がゆるやかに成長している。IaaSのサービス提供の際に、最も重要となるのが課金体系である。既存の海外パブリッククラウドでは、多くがトラフィックやグローバルIPアドレスの追加が従量課金になっている。日本でIaaSを始めるなら、後発であることを考えて例えば固定料金である程度の自由度を提供するなど、海外サービスとの差別化が必要だろう。日本ではホスティング事業者がサービスメニューの1つとしてIaaS型のクラウドサービスを提供するケースが増えているが、ただリソースを貸すという単純な考え方ではなく、サービスのバリエーションや価格体系を工夫することで収益性を上げることが必要だ。
OSに関わりたくないという企業も増えているので、そのニーズに応えるのがPaaSである。OSや、場合によってはWeb系のアプリケーションまでインストールした状態で、開発環境とプラットフォームを組み合わせて提供する。利用者はアプリケーション開発に専念できるというわけだ。さらにそれを進めて、特定業務に特化したものがSaaSである。SaaSというとアプリケーション自体を提供するサービスというイメージがあるが、アプリケーション開発環境と配信プラットフォームの組み合わせで提供するスタイルもある。この場合、利用者は定型的なアプリケーションであればメニューにあるものを利用すればいいし、それを元にした類似のアプリケーションを自社で開発して利用することもできる。さらに、自社で開発したものを第三者に課金提供するプラットフォームにすることもできる。もっと先をいくものとして、現在どのようなクラウドサービスが旬で自社に適しているのはどれかといったことをコンサルティングし、インテグレーションを行うサービスを行う事業者も登場している。
クラウドの発祥の地とされる北米では、「セルフサービスがクラウドである」と言われる。海外ではSIerが介在することはなく、自社の開発者が自社のインフラを構築するに当たり、短納期やコストメリットということでパブリッククラウドを利用した。可用性やセキュリティに問題があっても、それで利用をやめるのではなく利用者と提供者が協力してサービスを改善していった。しかし日本では、特にこの10年でアウトソーシングやマネージドサービスの利用が普及し、ITインフラに関する意識がかなり違う。産業構造の中にしっかり根付かせるには、手厚いマネージドのサービスが必要だろう。
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