GREE Plartform Conference 2012まとめレポート

ここがヘンだよ
日本のソーシャルゲームと世界進出


GREE Plartform Conference 2012まとめレポート

五味明子
2012/4/26

【2】進出前に知らないと損する中国市場の予備知識

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 長引く経済の低迷や少子高齢化など、シュリンクする傾向にある日本市場だけで勝負するには、すでに限界と判断し、海外市場、とりわけ成長著しい中国を中心とするアジア圏への進出を検討する企業は多く、ソーシャルゲーム業界でもアジア圏に現地法人を設立する動きが加速している。

 だが、どんな業界にせよ、現地のユーザーのニーズを把握することは簡単ではない。特に「市場サイズが大きいから」と中国進出を図ったものの、まったく成功できなかった例は数多く存在する。だがやはり、ソーシャルゲーム業界にとっても膨大なユーザーを抱える中国市場は、未知な世界なれどあらがえない魅力を放っていることは事実だ。

 「中国ゲーム市場で成功をつかむには、まずは中国市場をよく把握する必要がある」こう語るのは、Hoolai Games 代表取締役社長 兼 エグゼクティブディレクター 黄建氏。「Hoolai三国」「Hoolaiホテル」「ハート泥棒」など、日本でも人気の高いソーシャルゲームを配信するプロバイダのトップ(総経理)である。

 以下、黄氏が行ったセッション「中国・韓国・台湾で成功したゲーム会社の戦略とは」の内容から、日本のソーシャルゲーム企業が中国市場で成功するためのヒントを探ってみたい。

 まず現時点における中国のソーシャルゲーム市場の規模感をつかんでおこう。オンラインゲーム市場の規模は現在約5000億円、うちソーシャルゲームの比率は約11%、600億円規模の市場だ。13億という人口を考えれば、意外と少なく感じる数字だが、逆にいえば、まだ伸びる余地が大きいということでもある。

中国におけるオンラインゲームの傾向。長い間人気だったMMORPGが徐々にシェアを下げ、ソーシャルゲームが伸びている

 Hoolaiが2011年にリリースし、世界的な大ヒットを記録した「Hoolai三国」は、かの『三国志』をモチーフにしたソーシャルゲームだ。重厚長大なストーリーが多いMMORPGが主流の中国オンラインゲーム市場にあって、ライトなタッチのソーシャルゲームで三国志の世界観を分かりやすく届けたことで、女性や子供も含めた幅広いユーザー層から大反響を呼び、短い期間で1億ユーザーを超えるソーシャルゲームへと成長した。日本でも、GREEで配信されたことなどもあり、数多くのユーザーを獲得している。

分かりやすいストーリー性と魅力的なキャラ設定で大ヒットを記録した「Hoolai三国」

 「Hoolai三国」を他の三国志ゲームから際立たせているポイントはいくつもあるが、ここで注目したいのは、モバイルデバイスへの対応だ。黄氏によれば、中国におけるオンランゲームユーザーはソーシャルゲームも含めてPCユーザーが多数派を占めており、モバイルユーザーも大幅に伸びてはいるものの、まだPCのシェアには遠く及ばないとのこと。

 だが「Hoolai三国」はリリース直後からiOSおよびAndroidで展開し、結果として大きな成功につながった。中国のiOSアプリ市場では何度もグロスランキングで1位を獲得しているという。「中国のモバイル市場は年間で80%伸びており、急激に拡大している。だが中国のプロバイダは、まだモバイルに対応しきれていない。日本のプロバイダはモバイル対応の経験を積んでいるので、中国市場で頭角を現せる可能性は高い」(黄氏)

スマートフォンは中国でも大きくシェアを伸ばしている

 その急激な成長を遂げている中国モバイル市場の中でも、やはり主流を占めるのはiOS、そしてAndroidだ。

 現在、中国のiPhoneキャリアはChina Unicom(中国聯通)で、iPadを含め約1000万台のiOS端末が普及しており、Appleにとって世界第2位の市場である。これに加え、まだアップルと契約していない最大手キャリアChina Mobile(中国移動体通信)がiOSを扱えば、中国におけるiOS端末の導入台数は3000万台を超えると見られている。

 だが、それ以上に普及しているのがAndroid端末である。中国のスマホの約半分はAndroid端末であり、黄氏によれば「1台のiPhoneの影に4台のAndroid端末がある」という。ちなみにiOSの現在のシェアは12%ほど。ソーシャルゲームのモバイル対応も、この2大プラットフォームに行えばいいはずだが、物事はそう単純には運ばない。

 まず海外のプロバイダや開発者は中国の現地事情つまり、ユーザーの好みや動向、商慣習、マネジメントをなかなか把握できていないことが挙げられる。「例えば、ユーザーが好むアイテム1つとっても、中国と日本のユーザーでははっきりと違いが出る。日本のユーザーは、きれいなアクセサリや洋服にお金を払うが、中国のユーザーはもっと現実的で勝てるためのアイテムを求める。牧場育成ゲームなら、作物を成長させるための肥料にお金を費やす」と黄氏。こういった感覚は現地でマネジメントを体験していない限り、身に付けることは難しい。

 またAndroidについては、「機種ごとの適応性と課金の複雑性」を課題に挙げる。中国で普及している端末はローエンドなものが多く、特に、日本で普及しているものと比べると解像度はかなり低いので、そういった端末に合ったゲームが必要になる。また、中国のプラットフォーマーはAndroid端末に対して複雑な課金システムを取っており、これが普及を妨げる大きな障害となっている。

Hoolai Games 代表取締役社長 兼 エグゼクティブディレクター 黄建氏「Android/iOSともに中国でモバイルゲームを普及させるには、かなりの障害がある」

 「30以上ものAndroidアプリストアが乱立しており、そのすべてが独自の課金システムを採用している。加えてキャリア課金の手数料が他国に比べて非常に高い。そしてiOSユーザーと異なり、Androidユーザーは課金システムそのものに慣れていないというボトルネックがある」(黄氏)

 黄氏は「プロバイダが中国でのプラットフォームとしてAndroidかiOSのどちらかを選ぶなら、現時点ではiOSの方を勧める」という。だが、iOSにもある意味、Android以上に厄介な“不正課金”という問題が存在する。黄氏は「中国でiOSの不正課金問題がどれだけ深刻化を知ったら、きっと日本のプロバイダはひどく驚くと思う」と語る。

 これは国際的なクレジットカード犯罪グループがiTunesのアカウント情報を盗み、eBayなどのオークションサイトを通して別のユーザーに転売する仕組みが成立している事情に大きく起因する。盗まれたアカウントを落札したユーザーは、それを使ってアイテムを低価格で購入でき、アカウントを盗まれたユーザーはアップルに報告するので、ゲームの購入残高は抹消される。だが開発者やプロバイダは、この損害を回収できない。アップルは個人情報にひも付く支払い履歴を公開しないので、泣き寝入りするしかないのだ。黄氏によれば、開発者の月次収益全体の30〜50%が、この被害に遭っているという。

 最後に黄氏はまとめとして、中国のソーシャル/モバイル市場で成功するためには、以下の4つの条件がそろうことが必要だと語る。

  1. ライトユーザーを対象にした分かりやすいデザイン
  2. 中国に対する“微に入り細に入った”深い知識
  3. 現地と組んだマーケティング/プロモーション
  4. 販路の確立とプラットフォームの選定

 「中国のソーシャルゲームは急速に伸びている市場だ。そして、確実にモバイルに向かっている。さまざまな課題はあるが、その流れは止まらない」(黄氏)という。グローバル化を目指す国内プロバイダが、この好機をとらえるには、結局“現地をよく知る”というごく当たり前の原則を徹底することに尽きるようだ。

【3】携帯キャリア4社はグローバルでかく戦えり


インフィニティ・ベンチャーズLLP 共同代表パートナーの田中章雄氏「クパチーノの会社(アップルのこと)に携帯電話に載せるアプリを審査されるなんて、本来なら『治外法権だ!』とキャリアは叫びたいのではないだろうか?」

 「10年前は誰も『プラットフォーム』なんて言葉を使わなかったし、モバイルアプリ開発者も、こんなにたくさん存在しなかった。スマホ、CP、アクティブユーザー、アイテム課金……、オンラインゲームを取り巻く世界は大きく変わったと実感する」

 こう語ったのは、インフィニティ・ベンチャーズLLP 共同代表パートナーの田中章雄氏。その劇的な変化はプロバイダだけではなく、ソーシャルゲーム業界とビジネスで深く結び付いている携帯キャリアにとっても大きな影響を及ぼしている。

 特にキャリアにとっては、国内の市場動向だけを気にしていればよかった時代は終わり、グローバルを見据えたビジネスを余儀なくされている点が10年前と大きく異なる。キャリアの言うことをおとなしく聞いていたメーカーやプロバイダに囲まれ、ガラケーを基盤にした「モバイル鎖国」を満喫していたキャリアにとって、「スマホ黒船の襲来」(田中氏)はビジネスモデルの大幅な転換を迫るものだった。

 ここでは「ルールをひっくり返され、国内キャリアはビジネスをやりにくくなったのでは?」と問い掛ける田中氏をモデレータに、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル、そして韓国のキャリアであるSKプラネットからもパネリストを迎えて行われたディスカッション「携帯キャリアのグローバル戦略」の内容を基に、各社のグローバル戦略の概要を紹介する。

パネリストたち。左から、SK planet T store事業本部 Global COE Team部長 陣憲奎氏、その通訳、NTTドコモ キャリア・ビジネス担当部長 山本陸男氏、KDDI 戦略推進部 部長 江幡智広氏、ソフトバンクモバイル サービスアライアンス部門 ジェネラルマネージャー 加藤理啓氏

NTTドコモ

 パネリストはキャリア・ビジネス担当部長 山本陸男氏。同氏はまず、ドコモのグローバル戦略の柱として以下の3点を挙げている。

  1. 各国キャリアへの戦略的投資 … 香港・HTCL、台湾・Far EasTone、韓国・KT、フィリピン・PLDT、グアム・docomo(100%出資)、バングラデシュ・robi、インド・TATAの7キャリアに出資、優先ローミングやプラットフォームビジネスを展開
  2. アライアンスを通じた各国キャリアとの事業推進 … コネクサスモバイルアライアンスや独vodafoneとの提携、韓KTとChina Mobileと組んだ日中韓事業協力など
  3. 各国プラットフォーム事業への進出 … 欧州/ベトナム/中国の3拠点からゲーム、音楽、マンガ、広告などのコンテンツ配信サービスを展開

 基本的には、各国のキャリアとの協力関係をベースに、コンテンツアプリの提供や課金システムの構築を推進しているドコモ。市場として最も大きいのはインドで、最近力を入れているのは昨年コンテンツ配信をスタートしたベトナムだ。また、中国でのプラットフォームビジネスは百度(バイドゥ)やD2Cと組んで行っている。

 現在、ドコモの海外ビジネスの比率は約20%、この数字を今後伸ばしていくには、「特に、アジア圏における富裕層とBOP層(低所得層)へのそれぞれの訴求と課金システムの構築がカギになる」と山本氏。

 例えば、スマホへの対応をとっても、富裕層とBOP層では大きく異なってくるという。「富裕層では(iPhoneなど)グローバル標準のスマホが普及しているが、BOP層は2000円前後のスマホライクなフィーチャーフォンが主流。従って、端末フリーなアプリのニーズの方が大きい。

 課金システムについても、富裕層であればクレジットカード経由の自由度の高い課金システムが適用できるが、BOP層はプリペイド方式が主流なので、その残高の範囲内で通用するSMS経由のキャリア課金に頼りがちになる。そうした制限の中では、1本3ドル程度のコンテンツ提供が現実的な落とし所になる」(山本氏)

 今後は、これまでの方針を継続するとともに、変化する端末メーカーとキャリアの関係に注意しながら、アプリ配信ビジネスにかかわっていくとしている。特にアップル、グーグル、フェイスブックなどのOTT(Over the Top)プレーヤーの力が伸びていることで、ドコモを含むキャリアがダムパイプ化する危険性に対し、どう対応していくのかが注目される。

KDDI

 パネリストは戦略推進部 部長 江幡智広氏。同氏は2006年にKDDIとグリーが提携したサービス「EZ GREE」の担当者でもある。

 KDD時代からグローバルでビジネスを展開しているKDDIは現在、世界26カ国/59都市に96カ所のオフィスを持っている。そして、現在のグローバル戦略は「アジアに注力」「各国キャリアとの協力」が基本だと江幡氏。具体的には、中国の代表的キャリアであるChina Mobileと提携し、アプリ配信などのビジネスを展開している。

 また、KDD時代から引き継いだ資産である世界各地のデータセンターを有効活用し、ソーシャル+クラウドベースのサービスにも着手していきたいと語る。

 そして、もう1つ同社の動きで注目したいのが国内外のソーシャル関連ベンチャーに対する積極的な投資だ。Androidアプリ開発ベンチャーを支援する米国の投資ファンド「A-Fund」へのグリーとの共同出資や、2月には有望ベンチャー企業を支援するコーポレートファンド「KDDI Open Innovation Fund」を設立するなど、特にアプリ開発者に対する支援が目立つ。江幡氏は「国を問わず、世界の人々と一緒に仕事をしていくという強い意思を持った開発者を応援したい」と語り、今後も投資を継続していく姿勢を見せている。

 「現在、ソーシャルの動きで注目しているのはHTML5ベースのサービスと子供向けのコンテンツ。HTML5がさらに普及し、ブラウザベースのコンテンツが増えれば脱アプリの時代も近いかもしれない。子供向けのソーシャルサービスとして、モンスターなどをキャラクターを採用したコンテンツがグローバルで急激に増えつつある。日本でもはやる可能性はある」(江幡氏)

ソフトバンクモバイル

 パネリストはサービスアライアンス部門 ジェネラルマネージャー 加藤理啓氏。通信インフラキャリアとしての長い歴史を引き継いでいるドコモやKDDIの立ち位置とは異なり、「当社はキャリアというよりインターネットカンパニー。初めにモバイルありきではなく、インターネットのトラフィックをモバイルでも活用しようというスタンス」であることを強調。目標は、あくまで「アジアでNo.1のインターネットカンパニーであること」だと語る。「インターネットカンパニーが、そのネットワークインフラをスマホを含めてクロスボーダー的に提供しているイメージ」(加藤氏)

 もっとも、単にインフラを提供するだけではなく、コンテンツビジネスに関してもグローバルレベルで各国のローカル企業と協力しながら展開している。例えば、最近ではインド1位の携帯キャリアBharti Airtelを傘下に抱えるBhartiグループと提携し、インキュベーションのジョイントベンチャー「Bharti Softbank」を設立したが、ゼロからサービスを構築するのではなく、現地に根ざしているローカル企業と一緒にビジネスを行っていく、この強力なパートナーシップがソフトバンクモバイルのグローバル戦略における生命線といえる。

 モバイル通信キャリアとしてインフラ拡充を図るために、世界中の企業や展示会を回り、「新技術の発掘にも余念がない」という加藤氏。最近チェックしたなかでは、今年1月のCESで表彰された「マジスト」という、映像をサーバで自動で検知/編集する製品が気になったそうだ。スマホで撮影した動画を、余計な人手を掛けることなく編集できる利便性に「キャリアにやさしいアプリ」という印象を持ったとのこと。今後は、こういった革新的な製品の国内展開も視野に入れていきたいとしている。

SKプラネット

 パネリストはSK planet T store事業本部 Global COE Team部長 陣憲奎氏。「全国民のほとんどがスマホを保有している」(陳氏)という韓国において、最大のモバイルプラットフォーム事業者としてビジネスを展開するSKプラネット。同社はアジア最大規模のアプリ/コンテンツマーケット「T store」を擁しており、海外からも自由にアプリを置けるオープン性が奏功し、急速な成長率で拡大している。

 韓国のITビジネスはローンチからグローバル展開を視野に入れているところがほとんど。T storeも同様で、陳氏の発言からも、ところどころ世界を強く意識していることがうかがわれる。日本でも展開するAndroidアプリストア「qiip(キップ)」もその1つで、最初からグローバルブランドとしてローンチ、各国の市場に進出する前には入念なマーケティングを行い、徹底的なローカライズを行うことを基本にしている。

 「韓国では『15日以内』というスマホアプリが人気だが、同じようなアプリを日本でそのまま展開しても、多分はやらない。逆に日本のコンテンツをそのまま韓国に持っていっても無理。現地のプロバイダや開発者と協業し、ローカライゼーションを図ることがグローバル戦略のポイント」と語る陳氏だが、日本のソーシャルゲームに対しては深い敬意を抱いているという。「日本のソーシャルゲームの企画力は間違いなく世界でもトップクラス。強い競争優位性を持っている。今後は、日本の開発者/プロバイダと一緒にグローバルを目指したコンテンツ展開を図っていきたい」(陳氏)

注目はインド市場

 方向性に違いはあれど、いずれのキャリアも「現地企業との提携」をグローバル戦略の核にしていると強調しており、中国、さらには成長著しいインドを中心とした南アジア市場にターゲットを定めている印象を受ける。特に、BOP層が多いインドでのスマホ市場の変化は、各キャリアのグローバルビジネスを左右する重要な指標だけに、今後とも見逃せない。

1-2-3

 INDEX
GREE Plartform Conference 2012まとめレポート
ここがヘンだよ日本のソーシャルゲームと世界進出
  Page1
ヘンな業界? 「ソーシャルゲーム」の最新事情
ソーシャルゲームのためのユーザー分析の基礎知識
Page2
進出前に知らないと損する中国市場の予備知識
携帯キャリア4社はグローバルでかく戦えり
  Page3
開発者が本音で語る「ここがタイヘンだよ世界進出」
累計コイン、消費額、ユーザー数などでゲームを表彰
ソーシャルゲームがやるべきことは、まだ多い


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