【4】開発者が本音で語る「ここがタイヘンだよ世界進出」
芸者東京エンターテインメント CEO ファンタジスタ 田中泰生氏 |
日本のソーシャルゲームは世界に通用するのか。ここ最近、たびたび議論の中心となるテーマである。日本を代表するトップクリエーターが集結したパネルディスカッション「開発者の視点から見るグローバルプラットフォーム」では、国内市場と海外市場の共通点と相違点、そして開発者としての譲れない想いとユーザーニーズとのすり合わせに関する活発な討論が行われた。
ここでは、各参加者ごとの“ゲーム開発者とグローバル市場”に対するコメントを紹介したい。モデレータは芸者東京エンターテインメント CEO ファンタジスタ 田中泰生氏。
パネリストたち。左から、スクウェア・エニックス モバイル事業部プロデューサー 安藤武博氏、セガ オンラインエンタテインメント研究開発部 戦略企画セクション セクションマネージャー 椎野真光氏、カプコン 東京制作部 ソーシャル事業室長 兼 開発運営室長 杉浦一徳氏、グリー 執行役員メディア事業本部長 兼 開発本部副本部長 吉田大成氏 |
■ JRPGはやっぱり日本人が作らないと - スクウェア・エニックス 安藤氏
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ここ1、2年、「ソングサマナー 歌われぬ戦士の旋律」「ケイオスリングスII」などiPhone向けのゲームで世界的ヒットをいくつも飛ばしているスクウェア・エニックス モバイル事業部プロデューサー 安藤武博氏。10カ国以上のiTunes Storeゲーム部門で1位を獲得した「ケイオスリングス」のヒットについて「多分、米国のマーケの言うことを聞いてたら、あそこまでヒットしなかった」と振り返る。「やっぱり日本のRPG(JRPG)の感性は海外のマーケターには通じにくい。例えば、「ショタ」とかは彼らには理解できないし(笑)」
一方で、最初からグローバルで展開するゲームの場合、それなりに各国の文化に愛する配慮は必要だとも語る。例えばケイオスリングスでは、さまざまな肌の色をした登場人物が出てくるが、欧米のマーケからは「肌の色が同じ人間同士が殺し合いをするなんて考えられない」と言われたからだという。「『エッシャー』(ケイオスリングスの登場人物の1人)の肌の色を浅黒くしたのも、それが理由。ただし、人種や宗教に関する配慮は必要だけど、ゲームとしての面白さは日本人の自分の感覚を通したい。海外の開発者がJRPGを作ると、間違いなく変なモノができる(笑)」と安藤氏。JRPGの世界を描けるのは、やはり日本人ならではの感性が重要という想いは強いようだ。
また、最近話題に上ることが多いカードゲームについては「カードゲームが日本のゲームのすべてじゃない」という意見を述べる。「ガチャは言ってみれば地図が抽象化されたJRPGのようなもの。ゲームの世界の1ジャンルにすぎない。カード全盛みたいな取り上げ方がされることが多いが、みんなでカードばかり作ってもつまらないし、自分はカードとは違う方向性を探したい。例えば、『タワーディフェンス』のように海外ではウケているのに日本ではさっぱり…… というゲームの中にもヒントがある気がする」
■ 行き過ぎたローカライゼーションは、かえってマイナス!? - セガ 椎野氏
数多くのIP(知的財産)を保有するセガにあって、「龍が如く」「J.LEAGUE プロサッカークラブをつくろう! MOBILE」「サムライ&ドラゴンズ」など数多くの大ヒット作品を手掛けてきたセガ オンラインエンタテインメント研究開発部 戦略企画セクション セクションマネージャー 椎野真光氏。特に最近は、“完全フリーミアム”形式で提供を開始した「サムライ&ドラゴンズ」が注目されている。
世界的ヒットも多い椎野氏だが、「『Kingdome Conquest』(セガのソーシャル対戦ゲーム)のように現地の担当者の意見をそのまま取り入れたら見事にハズレた」という。グローバルでの失敗経験も多いようだ。
椎野氏は、グローバルでの経験を通じて、「あまり現地の文化を取り入れ過ぎても成功しない。それよりは、現地法人をうまく巻き込んで国内のゲームを売った方がいい。ゲーム制作の面白さの物差しは、常に自分の中に持っているべき」という感触を持っている。ただ、現在、セガは海外の売り上げが伸びている状況にあり、これを仕組みとしてうまく取り入れる方法を模索しているという。
「海外のユーザーのニーズは実際に展開してみないと分からないことが多い」と椎野氏。例えば、「Kingdom Conquesetは遊び方のカルチャーが国によって違い過ぎたので、「国ごとに戦場を分けるか」「中国などは、さらにリージョンごとに分けた方がいいのか」「国と国の戦いを煽った方がいいのか」など開始してからさまざまな課題が見えてきたという。ほかにも、海外のユーザー、特に欧米人はレイド(同盟)を組ませるとダメ。「なぜ、お前に従わないといけないのか」などと言い出すユーザーが続出するというように、日本だけで展開していては見えてこなかったことも多いという。
またカードゲームに対しては「ガチャのように日本で成功したスタイルが海外でも受け入れられる余地は十分にある」とカードゲームの展開に強い関心を寄せていることを明かす。ただし「日本のようにカードにお金をつぎ込むユーザーがどの程度存在するかは未知数。研究が必要」と慎重なマーケティングが必要という姿勢を見せている。
■ 国ごとに強いIPを作ることがグローバル展開のベース - カプコン 杉浦氏
ゲームをあまり知らない人でもカプコンの大ヒットゲーム「モンスターハンター」(通称「モンハン」)なら聞いたことがあるのではないだろうか。そのオンラインゲーム版である「モンスターハンターフロンティアオンライン」の運営を統括する人物がカプコン 東京制作部 ソーシャル事業室長 兼 開発運営室長 杉浦一徳氏だ。
カプコンは長年培ってきたIPが主体のゲームメーカーであるため、グローバルでの展開も「各国で強いIPを作る」(杉浦氏)とIP中心の戦略を取っている。日本で大人気のモンハンシリーズはアジア以外、特に欧米市場でのウケはいまいちとのことで、これは「モンスターハンター」というタイトルに抱くイメージが大きく異なることが理由らしい。このためIPの展開はアジア向け、北米向け、と切り分けて行っているとのこと。
ソーシャルゲームの魅力として、世界中のユーザーが1つのゲームを楽しめるという点を挙げる向きも多いが、杉浦氏は「狩猟民族と農耕民族の感覚の違いは、かなり大きい」とユニークな見解を披露。「基本的にユーザーは自分と同じ価値観のユーザーとプレイを楽しみたいもの。だから、無理に世界中のユーザー同士がつながる必要はない。感覚の近いユーザー同士が楽しめるように、サーバの立て方ひとつにも、ものすごく気を使っている。国ごとに異なる法律の問題も重要。『世界で1つのゲームを楽しむ」というスタイルは成功より失敗の方が多いはず」(杉浦氏)
最近のカードゲームの流行に対しては、上司から「GREEの『Zombie Jombie(ゾンビをモチーフにしたカードゲーム)』が売れているのに何をやっているんだ」と急かされている(笑)」ため、新たな企画を検討していると語る。「カードゲームは世界に通用するシステムだと思うがジャンルの1つでしかない。カードゲームが受け入れられるかのカギは欧米市場、特に米国での動きが重要になってくるのでは」(杉浦氏)
■ 世界共通でウケるゲームを作りたい - グリー 吉田氏
最後に紹介するのはグリー 執行役員メディア事業本部長 兼 開発本部副本部長 吉田大成氏。『釣り☆スタ』『探検ドリランド』『モンプラ』など、グリーの人気ゲームの統括/監修を務めてきた。現在は主に同社のグローバルメディア戦略を担当している。
各国を回ってプラットフォーム立ち上げを指揮する吉田氏は、グローバルでビジネスを行う基本として「各国の得意な部分をなるべく生かすようにして、足りない部分を日本が補足するような姿勢」で取り組んでいるという。
そのスタイルが奏功したのが今年3月に日本、中国、韓国を除く全世界でリリースしたスマホ向けカードゲーム「Zombie Jombie」だろう。リリース直後、北米のダウンロードランキングに4位に入り、「カードゲームは日本以外で通用しない」という常識を覆したゲームとして高い評価を得ている。「カードゲームというジャンルが世界で認められた証」(吉田氏)と自信を深めたグリーだが、「アイテム課金を国ごとで、どう展開するかなど課題も多い」と慎重な姿勢も崩していない。
リリース直前まで米国でUIを作り込み、クリエイティブのディレクションを行ってきたという吉田氏だが、海外でゲームをヒットさせるには「全世界でウケる共通のフォーマットがある。例えば、2.5頭身のキャラは、ほぼどこでもウケがいい。一方でローカルのコアなユーザーに合わせて絵柄を思い切って変えるという手もある」という2つの観点が重要だとしている。
もう1点、グリーのグローバル戦略で興味深いのは「タイトルへのこだわり」だ。ほかのパネリストがグローバルでも通用するタイトルを考えるときは現地のチェックに頼るとしているが、吉田氏は「タイトルに使う単語は2つか多くてもせいぜい3つ。この短い言葉でゲームの世界観が伝わる。また、商標の問題もあるので、カードゲームにはシリーズ化しやすい名前を付けている」と語る。
ネイティブに通用する英語センスも重要だが、それよりも「例えば『ドリランド』は世界中でこれで勝負していきたい。エゴだと思われるかもしれないが、このネーミングで認知されることを狙っている」と語る。『釣り☆スタ』のような秀逸なネーミングで勝負してきたグリーならではの戦略といえるだろう。
【5】累計コイン、消費額、ユーザー数などでゲームを表彰
カンファレンスの最後には「GREE Platform Award 2011」受賞タイトル18作品の表彰式が行われた。GREEのパートナー企業が「GREE Platform」を通じて提供したソーシャルゲーム約2000タイトルの中から、GREE Platformの共通通貨である累計コイン、消費額、ユーザー数、ユーザーのアプリ利用状況などの要素を総合的に判断し、受賞作品を選んでいる。
受賞企業の人々 |
受賞作品は以下の通り。
- 殿堂入り特別表彰:『ドラゴンコレクション』コナミデジタルエンタテインメント
- 殿堂入り:『プロ野球ドリームナイン』コナミデジタルエンタテインメント
- 総合大賞:『FIFAワールドクラスサッカー』エレクトロニック・アーツ
- 恋愛ゲーム最優秀賞:『王子様のプロポーズforGREE』ボルテージ
- シミュレーションゲーム最優秀賞:『ぼくのレストラン2』Synphonie
- RPG最優秀賞:『クローズxWORST〜最強伝説〜』コナミデジタルエンタテインメント
- 優秀賞
- 『ドラゴンリーグ』アソビズム
- 『海賊道』gumi
- 『女神フロンティア』ウィルアーク
- 『Jリーグ ドリームイレブン』コナミデジタルエンタテインメント
- 『バイオハザード アウトブレイク サバイヴ』カプコン
- 『デジモンコレクターズ』バンダイナムコオンライン
- 『モンハン探検記 まぼろしの島』カプコン
- 『陰陽師〜平安妖奇譚〜』ドリコム
- 特別賞
- 『100万人のWinning Post』コーエーテクモゲームス
- 『バハムートブレイブ』オルトプラス
- 『戦国ポケッツ〜超美麗萌えカードバトル〜』インブルー
- 『Destroy Gunners Z』シェード
総合大賞を獲得したのはエレクトロニック・アーツの「FIFAワールドクラスサッカー」。同社シニアプロデューサー 里吉洋樹氏は「たくさんのお客さまに遊んでもらったからこそ受賞できた作品。ユーザーの皆さんには心から感謝している。当社にとって最も重要なコンテンツであり、スタッフ一丸となってアップデートしてきたが、こういった賞をいただけるとモチベーションのアップにつながる。現在、当社はスタジオを拡大してスタッフを積極採用しているところ。今後もこういった賞をいただけるような良い作品を作っていきたい」とコメントした。
ソーシャルゲームがやるべきことは、まだ多い
ソーシャルゲームの世界は、閉塞感の漂うほかのエンジニアリング業界とは明らかに違った空気が違った速度で流れている。プラットフォーマーや、ビジネスパートナーであるキャリア、プロバイダも、グローバルで勝負することを非常に強く意識し、ユーザーの動向を細かく調査し、何よりもうかるモビジネスデルを常に貪欲に探している。
開発の速度も、最新のIT技術の導入も、経営判断も速い。だからこそ、新しい動きに反発する勢力も当然のように存在する。特に、「コンプガチャ」のような利益率が恐ろしく高いシステムには「射幸心を煽る」と批判的な意見が多い。私見だが、こうした批判勢力に対し、ソーシャルゲーム側は現在、十分な説明責任を果たしているとは言い難いように思える。
FacebookやTwitterとは異なるユーザー層を抱えるソーシャルゲームの世界が、世の中にさらに認知されていくには、魅力的なコンテンツと社会的責任の双方が求められる。そのためにグリーのようなプラットフォーマーとプロバイダがやるべきことは、まだ多く残されている。
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INDEX | ||
GREE Plartform Conference 2012まとめレポート ここがヘンだよ日本のソーシャルゲームと世界進出 |
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Page1 ヘンな業界? 「ソーシャルゲーム」の最新事情 ソーシャルゲームのためのユーザー分析の基礎知識 |
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