解説 Tablet PCは企業クライントの本流になれるのか?(後編) |
前編では、主にWindows XP Tablet PC Editionの実装について見てきた。ここからは、Windows XP Tablet PC Editionの使い勝手を中心に、企業クライアントとして実用的に利用可能なものなのか、という点について検証していきたい。
Windows XP Tablet PC Editionで動作する3種類のアプリケーション
Windows XP Tablet PC Editionをひと言で表せば、良くも悪くもWindows XPということになる。すでに述べたようにWindows XP Tablet PC Editionは、Windows XPをベースに拡張したものであり、最初からペン・デバイスによる利用を前提に設計・開発されたものではない。つまり、そのユーザー・インターフェイスは、必ずしもペン・デバイスに最適化されていはいないことを意味する。画面2は、Windows XP Tablet PC Editionを起動したところだが、一般のWindows XPとほとんど変わらないことが分かるだろう。
画面2 Windows XP Tablet PC Editionを起動したところ |
Windows XP Tablet PC Editionは、画面を見ても、通常のWindows XPとの差を見つけることが難しいほどだ。 |
実際、Windows XP Tablet PC Editionのデスクトップ上でペンは、既存の2ボタン・マウスと同等なポインティング・デバイスとして扱われる。マウスとの違いといえば、ペン先を画面から浮かせた状態*1で、左右に振るジェスチャ(インエア・シェイク:in-air shake)により、後述のTablet PC入力パネルを呼び出せることくらいだ。Windows XP Tablet PC EditionがあまりにもWindows XPのままであることを補うため、多くのTablet PCでは、フレーム部(液晶ディスプレイの周囲)にショートカット・ボタンを配置し、使い勝手を向上させる工夫をしているくらいだ。
*1 電磁誘導式のタブレットを標準とするTablet PCでは、専用ペンを画面に密着させなくても一定の距離(約1cm上空)に近付けただけで、ペン・デバイスが認識される。ペンが認識されているにもかかわらず、ペン先が画面に密着していない状態を「ホバー」と呼び、この状態でペン先を左右に振るジェスチャを「インエア・シェイク」と呼ぶ。 |
ただし、こうした仕様を一概に悪いということはできない。Windows XP Tablet PC EditionがWindows XPをベースにしているからこそ、通常のWindows XP上で動作するアプリケーションのほぼすべてがTablet PC上で動作するからだ。いくらペンに最適化された使いやすいOSであっても、既存のOS環境と互換性がなければ、いちからアプリケーション資産を蓄積する必要が生じるし、そもそもソフトウェア開発者がまず新しいOSの新しいAPI(あるいはライブラリ)に慣れるところからスタートしなければならなくなる。これでは、対応アプリケーションは揃わないし、その価格も上がってしまうだろう。そして、何よりも普及までに長い時間がかかってしまう。こうしたことはMicrosoftもユーザーも、すでにWindows CE(Pocket PC)で十分に経験済みである。既存のOSを拡張するというWindows XP Tablet PC Editionのアプローチは、理想的ではないかもしれないが、現実的なものといえるだろう。
こうした背景から、Windows XP Tablet PC Edition上で動作するアプリケーションは、大きく3つに分けられる。1つは一般のWindows XP上で動作する、特にペン・デバイスを意識していないアプリケーションである。もう1つは、Windows XP Tablet PC Editionを前提にペン・デバイスの利用を想定したアプリケーションだ。残る1つが、既存のアプリケーションを拡張して、ペンやインク・データのサポートを行ったアプリケーションである。残念ながら、現時点では圧倒的多数がペン・デバイスの利用を意識していないアプリケーションだと思われる。
こうした既存のアプリケーションに対してペンでテキストを入力するために用意されているのが「Tablet PC入力パネル」だ。Tablet PC入力パネルは、上述のようにインエア・シェイクで呼び出すことができるほか、タスク・バー左側のアイコンをペンで軽く画面上を叩く「タップ」によって呼び出せる。
このTablet PC入力パネルには、入力モードとして「手書きパッド」「手書き入力」「キーボード(ソフトウェア・キーボード)」「記号パッド」「全画面入力」の5種類が用意されている。これらのうち、日本語が入力可能なのは手書き入力とキーボードの2つで、手書きパッドと全画面入力は英語(英数字)専用に、また記号パッドは記号専用になっている。キーボードと記号パッドは、いわゆるソフトウェア・キーボードで、入力したい文字や記号をペン先でタップすることで、アプリケーションのカーソル位置に文字を入力できる。もちろん普通のキーボード同様、IMEを用いたかな漢字変換も可能だ。
画面3 Windows XP Tablet PC Editionのソフトウェア・キーボード |
日本語109キーボードと同様の配置のソフトウェア・キーボードを採用する。ただし、テン・キーは省略されているので、数字の入力が多い場合には少々不便かもしれない。 |
画面4 Windows XP Tablet PC Editionの記号パッド |
記号パッドは入力パネルとは別に表示される。記号専用の入力パッドであり、記号部分をタップすることで、対応する記号が入力できる。 |
日本語入力用の手書き入力は、左側に手書き文字入力用の枠(ボックス)、右側にクイック・キーと呼ばれる特殊キーが用意されている。手書き文字入力用の枠の大きさは5mmから50mmまで設定可能だが、あまり小さくすると認識効率が極端に低下してしまうので注意が必要だ。逆に大きくすると、アプリケーションの編集領域に入力パッドが重なって操作感が損なわれてしまう。この点は、ユーザーの慣れによって調整していくことになるだろう。枠内には、直接漢字を書くことも、ひらがなを書いて変換することもできる。画数の少ない簡単な漢字は直接手書きで、画数の多い複雑な文字はかな漢字変換で入力するのが現実的な使い方だろう。慣れや筆跡のクセにもよるだろうが、筆者が試した限りでは、手書き入力の認識の精度は比較的良好であった。なお誤認識した場合でも、認識した文字候補が入力パッドの上側に表示されるので、再び文字を書き直す必要性はほとんどない。
画面5 Windows XP Tablet PC Editionの手書き入力 |
このように直接漢字を入力することが可能だ。画数の少ない漢字ならば、ひらがなよりもむしろ認識率は高いようだ。 |
英数字入力用の手書きパッドは、日本語入力用の手書き入力から枠をとったような形状になる。筆記体による連続した文字を認識する目的でこのような形になっているのだろう。オプション設定により、PalmのGraffiti(あらかじめ決められた図形をペンでなぞることで、アルファベットや制御コマンドを入力できるようにする機能)ライクなブロック英数字認識機能を利用することも可能だ。全画面入力は、Tablet PC入力パネルのウィンドウに限定されず、画面のもっと広いエリア(画面7で黒色で示されている枠内)で手書きパッドと同等の入力が可能なモードだ。アプリケーションに直接入力できるわけではないので、違和感がまったくないわけではないが、連続して英語の長文を入力するのには便利かもしれない。
画面6 Windows XP Tablet PC Editionの手書きパッド |
手書きパッドは、英数字専用となる。筆記体での入力が行えるが、英語を母国語としない日本人としてはあまり便利な機能ではないかもしれない。 |
画面7 Windows XP Tablet PC Editionの全画面入力 |
画面の黒い枠内で手書きパッドと同等の機能を提供する。そのため、認識するのは英数字に限られ、日本語の直接入力は行えない。 |
次ページでは、Windows XP Tablet PC Editionの機能を発揮するアプリケーション「Windows Journal」の使い勝手を見ていこう。Windows JournalにWindows XP Tablet PC Edition対応のアプリケーションの将来像が見えてくるはずだ。
INDEX | ||
Tablet PCは企業クライントの本流になれるのか? | ||
1.Windows XP Tablet PC EditionはWindows XPの上位互換 | ||
2.2種類あるTablet PCの形状 | ||
3. Windows XP Tablet PC Editionの文字入力方法 | ||
4. Windows XP Tablet PC Edition対応のアプリケーションの将来像 | ||
「System Insiderの解説」 |
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