解説 Tablet PCは企業クライントの本流になれるのか?(前編) |
B5サブ・ノートPCクラスのハードウェアを採用するTablet PC
パッケージとしてソフトウェア単体での販売が行われないWindows XP Tablet PC Editionを利用する唯一の方法は、最初からこのOSが搭載されたPC、すなわちTablet PCを購入することだ。上述したとおり、現時点でMicrosoftは、Windows XP Tablet PC EditionをモバイルPC向けのOSとして位置付けている。一口にモバイルPCといってもさまざまなセグメントが存在するが、MicrosoftはTablet PCを最もモビリティの高いものとしている。以前からB5サイズより小型のミニ・ノートPCが製品化されている日本では、少なくとも10.4インチ・クラスの液晶ディスプレイを搭載したTablet PCは、必ずしも最も小型軽量なPCではない。しかし、メインストリーム・アプリケーションがストレスなく使えるレベルの性能を持つ、という前提条件を付ければ、「モバイルPC」という位置付けに該当するのかもしれない。もちろんMicrosoftが最もモビリティが高いという最大の根拠は、キーボードが不要なTablet PCなら立ったままでも利用できる、ということには違いない。とはいえ、万が一落とした場合のことを考えると、通勤電車などの中での利用は勧められない。
この最もモビリティの高いPCというセグメンテーションにより、Tablet PCのハードウェアにはいくつかの共通項が生じる。それをひと言で表せば、おおむねB5クラスのサブ・ノートのハードウェアということになる。もちろん、実際にはA4ファイル・サイズの製品も発表されているし、B5サブ・ノートPCより大きな12.1インチ・クラスの液晶ディスプレイを搭載した製品の発表もある。しかし、基本的には、ハードディスクのみを内蔵するシングル・スピンドルで、1.5kg前後の重量を持ち、プロセッサに超低電圧版Pentium IIIあるいはTransmetaのCrusoeを用いるというのがTablet PCで最もポピュラーな構成である。まさしくこれは、B5サブ・ノートPCに準じるものだ。ただ、認識エンジンの負荷の問題もあるためか、B5サブ・ノートPCの中でも最もプロセッサの動作クロックが高いハイエンドということになる。その分、一般的な傾向として、性能は高いが、冷却ファンなどの動作音も少々うるさくなってしまう。
Tablet PCにラインアップされる2種類のフォームファクタ
Tablet PCのハードウェアで最も特徴的なことは、現時点で2種類のフォームファクタが想定されていることだ。1つはコンバーチブル・タイプ、もう1つがスレート・タイプである。
ソーテックのTablet PC「AFiNA Tablet AT380B」 | IDF Fall 2002 Japanで展示されていた富士通のTablet PC |
一般的なノートPCと同様の使い方も可能なコンバーチブル・タイプを採用するソーテックの「AFiNA Tablet AT380B」。価格は25万9800円と、同クラスの一般的なノートPCに比べると若干高めの設定となっている。 | ストレート・タイプを採用する富士通のTablet PCは、各展示会で参考出品されている状態。写真は、ドッキング・ステーションと一体化され、液晶ディスプレイ一体型デスクトップPC状態になっている。 |
■コンバーチブル・タイプの特徴
コンバーチブル・タイプは、一般的なノートPCと同じく、キーボードと液晶ディスプレイを装備するものだ。一般的なノートPCと異なるのは、ディスプレイ部にペン・デバイスをサポートするためのデジタイザ(電磁誘導式)が組み込まれていることと、ディスプレイ部が180度回転することだ。ディスプレイ部にデジタイザを組み込むのは、Tablet PCとしては必須の条件となる。PDAなどに用いられる感圧式ではなく、電磁誘導式のデジタイザが用いられるのは、ディスプレイ上で書き込む際に、手がディスプレイ表面に接触することによる誤作動を防ぐためだ。電磁誘導式のデジタイザは、後述のスレート・タイプにも共通する特徴だが、実際にどんな解像度のデジタイザを採用するか、どのようなペンを用意するかはハードウェア・ベンダによって異なっており、ここがTablet PCを選ぶ際のポイントの1つとなっている。
デジタイザが組み込まれたディスプレイ部を回転させ、キーボード部と密着させることで、コンバーチブル・タイプのTablet PCはその名前の通りの「タブレット」形状になる。基本的な利用形態としては、タブレット形状になったTablet PCを左手でかかえ、右手で書き込む(左利きの人は逆になる)。ディスプレイ部には、液晶表示部を表にした状態で固定できるラッチが用意されるため、書き込み中にグラグラすることはない。
コンバーチブル・タイプは、一般のノートPCに極めて近いため、Tablet PCに対応していない既存のアプリケーションを使った場合の違和感が最も少ない。通常のWindows XP対応のアプリケーションならば、キーボードを利用することで問題なく利用できるのもメリットといえる。Tablet PCはこれから登場するものだけに、現時点では対応アプリケーションがほとんど存在しないが、コンバーチブル・タイプならそれは問題にはならないわけだ。前述のようにWindows XP Tablet PC Editionに対するOSアップグレードがなかったとしても、Tablet PCの機能をサポートしない普通のWindowsをインストールすることで、Tablet PCではなくなってしまうが、違和感なく利用できる。企業内などでOSのバージョンを統一したい、といった場合にも移行のリスクが最小限で済むわけだ。また、作る方にとっても、既存のパーツを多く流用できるだけに、リスクが少ない。
半面、コンバーチブル・タイプのTablet PCは、本来タブレット形状にして利用する際は不要なキーボードを内包する形になるため、厚みや重量の点で不利になる。液晶を回転させる部分の強度や、経年変化も気になるところだ。また、コンバーチブル・タイプのTablet PCが主流になってしまうと、対応アプリケーションの普及が促進されないのではないかという懸念もある。だが、何よりコンバーチブル・タイプのTablet PCの問題は、Tablet PCという新しいデバイスを利用しているのだという実感に乏しい点かもしれない。
■ストレート・タイプの特徴
それに対してスレート・タイプは、Tablet PCはかくあるべき、とでもいうような形状をしており、「ピュア・タブレット・タイプ」とも呼ばれる。ペンで手書き入力することに最適化されたフォームファクタだ。その分、Tablet PC対応アプリケーションを利用する上での使い勝手は高いが、非対応アプリケーションを利用する場合の使い勝手は、決して高いとはいえない。それを補うために、スレート・タイプのTablet PCのほとんどにドッキング・ステーションがセットされている。これにより、非モバイル時はデスクトップPCとして利用可能になるのだが、ドッキング・ステーションの添付がコストを押し上げている点も否めない。
ストレート・タイプは、Tablet PCとして最適化されている分、Windows XP Tablet PC Edition以外のOSでの利用は基本的に考えにくい。対応アプリケーションがまだ少ない現状では、スレート・タイプの活用は社内向けアプリケーションの開発力を持つ大企業によるバーチカル市場向けが中心となる可能性が高いだろう。
Tablet PCのもう1つの特徴
さて、Tablet PCのハードウェアに共通するもう1つの特徴は、レガシーの除去にある。Tablet PCにはシリアル・ポート、パラレル・ポート、PS/2キーボード/マウスといった外部接続端子は用意されていない(内蔵キーボードやポインティング・デバイスがPS/2インターフェイスを使っている可能性はある)。もちろん、Tablet PCが完全なレガシー・フリーということではないし、VGAやシステムBIOS、PC Cardスロットまで追放した完全なレガシー・フリーのハードウェアを、Windows XP ProfessionalをベースにしているWindows XP Tablet PC Editionがサポートできるとも思えない。もちろん、Windows XP Tablet PC Editionからシリアル・ポートやパラレル・ポートのサポートが削除されたとも思えないが、Tablet PCの共通項としてレガシーが削減された仕様になっていることは間違いない。
レガシーI/Oを削除する一方で、Tablet PCでは無線LANが標準で実装されている。最近のPCは、ほとんどがイーサネットにも対応しており、Tablet PCはイーサネットと無線LANの両方に対応することになるが、モビリティを重視するTablet PCにおいて、無線LANこそがプライマリのネットワーク・インフラと考えても良いだろう。
次ページからの後編では、Windows XP Tablet PC EditionならびにTablet PCの使い勝手を見ていくことにする。
INDEX | ||
Tablet PCは企業クライントの本流になれるのか? | ||
1.Windows XP Tablet PC EditionはWindows XPの上位互換 | ||
2.2種類あるTablet PCの形状 | ||
3. Windows XP Tablet PC Editionの文字入力方法 | ||
4. Windows XP Tablet PC Edition対応のアプリケーションの将来像 | ||
「System Insiderの解説」 |
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