解説IDF Spring 2004レポート 4. クライアントの話題は利用法にフォーカス
元麻布春男 |
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乏しかったクライアント系の話題
エンタープライズ系の話題が豊富な中、クライアント系の話題が豊富だったとはいい難い。その理由の1つは、DPG(デスクトップ・プラットフォーム事業部)の基調講演が、デジタル・ホームや企業向けデスクトップのように、技術や製品そのものよりユーセージ(利用法)にフォーカスしたものになっているからだ。これは前回のIDFから見られる傾向なのだが、話題が技術からビジネスへ、上流から下流に移るに伴い、どうしても国や地域の事情が占める割合が増えてくる。例えば、日本と米国は、所得や社会・技術基盤といった部分で似通っていても、コンテンツ・ビジネスのあり方や通信インフラといった部分では必ずしも同じではない。むしろ大いに異なるといった方がよいかもしれない。デスクトップPCにせよノートPCにせよ、米国に比べて日本の方が小さなものを好むという文化的な違い(?)もある。今回のIDFから併催されることになったSolutions Conference(これまでのIDFはSystems Conferenceと称して開催された)と合わせ、日本国内の事情と必ずしも合致しない部分が増えてきた印象がある。
それはともかく、デスクトップPCやノートPCで目新しい話題といえば、DDR2メモリとPCI Expressに対応したチップセットということになる。デスクトップPC向けはハイエンドが、Intel 875P(Canterwood)の後継となるAlderwood(アルダーウッド)、メインストリーム向けがIntel 865G(Springdale)の後継となるGrantsdale(グランツデール)で、ノートPC向けがIntel 855GH(Montara-GM)の後継になるAlviso(アルビソ)というラインアップだ。しかし、これらの開発コード名はすでに明らかにされており、今回公開された情報ではない。今回公開された情報は、これらチップセットに関する詳細だ。
図9はデスクトップPC向けプラットフォームについてまとめられたもので、この図では特にAlderwoodとGrantsdaleは区別されていない。両チップセットはIntel 875/Intel 865同様、同じダイをベースにしたものと考えて間違いないだろう。AlderwoodとGrantsdaleの相違点もIntel 875/Intel 865同様で、PAT(Performance Acceleration Technology)とメモリ・バスのECCサポートが主要な違いだと思われる。ノートPC向けのAlvisoも、内蔵グラフィックスの動作クロックや外付けグラフィックス用のPCI Express x16のサポートがない、シリアルATAのポート数が少ないといった違いがあるものの、基本的な仕様はほぼ同一だ。
図9 2004年のデスクトップPC向けプラットフォーム |
最大の変更点は、PCI Expressのサポートだろう。また、DDR2メモリもサポートされる。 |
まずPCI Expressだが、デスクトップPC向けチップセットでは4本のPCI Express x1レーン(すべてがスロットとして実装されるかどうかはマザーボードの構成による)とグラフィックス用にx16レーンを1つサポートすることが明らかにされた。その一方でIntel 875でサポートされていたCSAは省略されているが、この図9のどこにもギガビット・イーサネットがないことが目につく。どうやらIntelが準備中のPCI Express x1対応のギガビット・イーサネットチップは、スケジュールが遅れているらしい。
GrantsdaleとAlvisoに内蔵されるグラフィックス・コアはDirectX 9に対応したものになる。Pixel Shader 2.0をサポートするが、Vertex Shader 2.0はプロセッサによる処理となるようだ。図9でグラフィックスの出力が直接チップセット(GMCH)からではなく、Pentium 4を経由しているのはどうやらこれを意味しているようだ。Intel High Definition Audioというのは、これまでAzalia(アザリア)という開発コード名で呼ばれていたものだ。今回のIDFでは、Dolby Laboratoriesとの提携が表明され、Intel High Definition Audio向けに同社のCODEC技術が提供されることが明らかにされた。
ストレージではシリアルATAが4ポートに増え、パラレルATAが1チャンネルに減らされていることが目につく。AHCIのサポートにより対応ドライバ(Intel自らが提供する予定)を用いることで、パラレルATAのエミュレーション(マスター/スレーブのエミュレーションなど)も不要になる。また、新たに提供されるIntel RAIDにはMatrix RAID技術が含まれる。Matrix RAIDは2台のハードディスクにRAID 0とRAID 1の2つのボリュームを作成するものだ。例えば、80Gbytesのハードディスクが2台あったとしよう。Matrix RAIDを用いると1台目のドライブの第1パーティションと2台目のドライブの第1パーティション間をミラーリング(RAID 1)、2台のドライブの第2パーティション間をストライピング(RAID 0)に設定する、といったことが可能になる。サーバと異なりケースや電源に制約のあるデスクトップPCで、RAID構成に必要な最小限のドライブ数(2台)で信頼性と性能の両方を追い求めることを可能にするものだ。恐らくこの技術は、ノートPC用のチップセットであるAlvisoではサポートされないだろうが、代わりに省電力機能やテレビ出力機能の統合などがサポートされる。
このようにデスクトップPCのI/Oを強化する理由の1つは、IntelがデスクトップPCを家庭内のAVサーバにしようと考えていることと無縁ではない。サウスブリッジ(ICH6W)に無線LANのアクセスポイント機能を統合するのもその現れだと考えられる。
さて、DDR2メモリのサポートだが、DDR-400に加えDDR2-400およびDDR2-533のサポートが行われる。ノートPCもDothan(ドーサン)でFSBが533MHzに引き上げられるのに伴い、DDR2-533がサポートされる。難しいのは、実際に市販されるPCやマザーボードがどちらのメモリを採用するのか、必ずしも明らかでないことだ。ノートPCにおいては、現在サポートされているメモリがDDR-333どまりであることからDDR2へ移行した場合の性能向上率が高い上、省電力性(DDR2は消費電力が40%改善)もアピールする(同じことがサーバ用のレジスタードDIMMにも該当する)。
しかし、すでにDDR-400をサポートしたデスクトップPCの場合、ハイエンドはともかく、メインストリームはメモリの販売価格に左右される可能性が高い。メモリの価格は最終的には市場の需給関係で決まるわけだが、当初はDRAMベンダの意向が大きな比重を占める。DDR2メモリにはダイのオーバーヘッド(ただしそれほど大きくない)に加え、新しいパッケージ(FBGA)を採用するコスト増要因があり、フタを開けてみないと分からないというのが正直なところだ。
もう1つ、新しいチップセットで明らかにされたのは、ノースブリッジ(MCH/GMCH)とサウスブリッジ(ICH)間の接続に使われるインターフェイスだ。図10はMPD(モバイル・プラットフォームズ事業部)のアナンド・チャンドラシーカ(Anand Chandrasekher)氏のプレゼンテーションからとったものだが、Alvisoの項に見えるDirect Media Interface(DMI)がそれだ(ちなみにサーバ・ワークステーション向けのLindenhurst/Tumwaterチップセットでは、接続にHubLinkが用いられることになっており、ICH5/5Rが使われる)。
図10 2004年のノートPC向けリファレンス・プラットフォーム「Sonoma」 |
Sonoma(ソノマ)は、Dothan(プロセッサ)、Alviso(チップセット)、IEEE 802.11a/b/g対応の無線LANチップで構成される。無線LANチップは、Calexico 2(キャレキシコ2)という開発コード名で開発中である。 |
説明によるとDMIの物理インターフェイスはPCI Expressと類似したものだが、PCI Expressとは異なるものだという(サポートする帯域なども不明)。PCI Expressがまだ3GIOと呼ばれていた初期段階においてIntelは、PCI Expressをノースブリッジとサウスブリッジの接続にも使うといっていたが、ここにきてDMIに変更されてしまった。他社製チップセットとの混在を嫌った、あるいはリバースエンジニアリングを防止するといった理由も考えられるが、Intel自身による明確な説明はない。いずれにしてもDMIをサポートしたチップセット(Alderwood/Grantsdale/Alviso、900番台の型番が予定されている)には、新しいサウスブリッジ・チップが不可欠になる。
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というわけで、今回のIDFでは真新しい話題はサーバ/ワークステーション向けが中心で、クライアントPCについては細かな話題に終始した印象が強い。2004年4月7日と8日に東京で開催されるIDF Japanでは、日本でポピュラーなモバイルPC分野を中心に、情報のアップデートが行われることを期待したいところだ。
INDEX | ||
IDF Spring 2004レポート | ||
64bitへ動き出したIAサーバの胎動 | ||
1.IA-32の64bit拡張のインパクト | ||
2.更新されたItaniumプロセッサのロードマップ | ||
3.IA-32プロセッサのロードマップ | ||
4.クライアントの話題は利用法にフォーカス | ||
「System Insiderの解説」 |
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