マンスリー・レポート動き始めた次世代プロセッサ(2002年9月号)デジタルアドバンテージ |
8月の前半は、欧米ではサマー・バケーションであり、日本でもお盆休みがあることから例年、製品発表は少ない。しかし、米国では9月から新学期が始まることから、8月中ごろから後半にかけて、学生をターゲットとした製品発表が行われる。今年もその例にもれず、AppleからはMac OS X 10.2(開発コード名:Jaguar)が、AMDとIntelからは、それぞれ動作クロックが引き上げられたプロセッサが発表されている。そもそも、IBM PC自体が発表されたのも1981年8月12日のことだ。果たして今年の8月はどういった月になったのだろうか。
AMDが再びプロセッサ価格を改定
地球温暖化の影響か、世界各地で異常気象が発生している。特に8月上旬のヨーロッパ中部と東ヨーロッパを中心とした集中豪雨は、チェコの首都プラハやドイツのエルベ川流域に大きな被害を与えた。ドイツの古都ドレスデンで、エルベ川の氾濫によって街の中心部が水没した様子は、連日ニュースで報道されたのでご記憶の方も多いことだろう。
ドイツのドレスデンというと、AMDの主力の半導体製造工場であるFab 30のある場所。当然、洪水の影響が懸念されるところだ。AMDのニュースリリースによれば、「洪水の影響はまったくなく、社員の士気も維持されている」という。現在、AMDは、Fab 30でしかプロセッサを製造していないため、洪水の被害に遭わなかったのは幸運といえるだろう。
そのAMDだが、8月21日にAthlon登場3周年を記念して、Athlon XP-2600+/2400+の発表を行った。Athlon XP-2600+は動作クロック2.13GHz、2400+は2GHzで、Pentium 4に続いて、Athlon XPも実動作クロックで2GHzを超えたことになる。また、この発表に合わせてAMDは、Athlon XPを中心に再び値下げを行った。前回の「マンスリー・レポート:不景気とPC価格の関連性(2002年8月号)」でも述べたように、価格の引き下げによる需要の喚起を目的としたものと思われる。もちろん、IntelがPentium 4-2.80GHzを投入する予定であったことも、Athlon XPの高クロック版の投入と値下げに大きな影響を与えているのは間違いないだろう。
プロセッサ | 6月10日 | 7月26日 | 8月21日 | 値下げ幅 | 8月27日 | 値下げ幅 |
Athlon XP | ||||||
2600+ | − | − | 297ドル | − | 297ドル | 0% |
2400+ | − | − | 193ドル | − | 193ドル | 0% |
2200+ | 241ドル | 230ドル | 183ドル | 20% | 183ドル | 0% |
2100+ | 224ドル | 180ドル | 174ドル | 3% | 174ドル | 0% |
2000+ | 193ドル | 163ドル | 155ドル | 5% | 155ドル | 0% |
1900+ | 172ドル | 150ドル | 139ドル | 7% | 139ドル | 0% |
1800+ | 160ドル | 142ドル | 130ドル | 8% | 130ドル | 0% |
1700+ | 140ドル | 130ドル | 114ドル | 12% | 114ドル | 0% |
1600+ | 130ドル | − | − | − | − | − |
Athlon MP | ||||||
2200+ | − | − | − | − | 224ドル | − |
2100+ | − | 224ドル | 224ドル | 0% | 206ドル | 8% |
2000+ | 224ドル | 188ドル | 178ドル | 5% | 178ドル | 0% |
1900+ | 214ドル | 179ドル | 170ドル | 5% | 170ドル | 0% |
1800+ | 192ドル | 166ドル | 161ドル | 3% | 161ドル | 0% |
1600+ | 154ドル | 150ドル | 150ドル | 0% | 149ドル | 1% |
モバイルAthlon XP | ||||||
1800+ | − | 335ドル | 301ドル | 10% | 301ドル | 0% |
1700+ | 235ドル | 210ドル | 205ドル | 2% | 205ドル | 0% |
1600+ | 192ドル | 185ドル | 180ドル | 3% | 180ドル | 0% |
1500+ | 175ドル | 175ドル | 169ドル | 3% | 169ドル | 0% |
1400+ | 150ドル | 150ドル | 150ドル | 0% | 150ドル | 0% |
モバイルAthlon 4 | ||||||
1600+ | 192ドル | 185ドル | 180ドル | 3% | 180ドル | 0% |
1500+ | 175ドル | 175ドル | 169ドル | 3% | 169ドル | 0% |
1.2GHz | 150ドル | 150ドル | 150ドル | 0% | 150ドル | 0% |
1.1GHz | 125ドル | − | − | − | − | − |
1GHz | 125ドル | − | − | − | − | − |
モバイルDuron | ||||||
1.3GHz | − | 120ドル | 89ドル | 26% | 89ドル | 0% |
1.2GHz | 120ドル | 89ドル | 69ドル | 22% | 69ドル | 0% |
1.1GHz | 89ドル | 69ドル | 59ドル | 14% | 59ドル | 0% |
1GHz | 69ドル | − | 59ドル | − | 59ドル | − |
Duron | ||||||
1.3.GHz | 72ドル | 64ドル | 64ドル | 0% | 64ドル | 0% |
1.2GHz | 68ドル | 64ドル | 64ドル | 0% | 64ドル | 0% |
AMDのプロセッサのOEM向け価格 | ||||||
値下げ幅はその前の値下げ時からのもの。 |
日本では、一時に比べてAthlonシリーズ搭載のPCが話題に上らなくなってきた。ところが、米国では8月19日にHewlett-Packardが発表したAthlon XP採用のデスクトップPC「Compaq D315」が注目を集めている(HPの「Compaq D315に関するニュースリリース」)。これはCompaq D315が、大手PCベンダ製として米国で販売される初のAthlon搭載の企業向けクライアントPCであるためだ。日本ではすでに日立製作所などからAthlon搭載の企業向けクライアントPCが販売されているが、米国ではやっとということのようだ。AMDは、長らく企業向けPCにAthlonが搭載されることを望んでいたが、企業向けPC市場は保守的であるためか、Intel以外のプラットフォームは敬遠されがちで、なかなか採用が進まなかった。Athlonという、チップセットも独自なプラットフォームを開発して3年、やっと実を結び始めたということなのだろう。
2002年末にAMDは、さらに野心的な64bitのプラットフォーム「Hammerシリーズ」の投入を行う。Athlonブランドとなるハイエンド・デスクトップPC向けから始まり、2003年中ごろにはサーバ向けの「AMD Opteron(オプティオン)」の提供が行われる。Hammerシリーズが採用する64bitアーキテクチャは、AMD独自のもので「x86-64アーキテクチャ」と呼ばれる。かつてx86アーキテクチャが16bitから32bitに拡張されてきたように、x86-64アーキテクチャでは既存の32bit x86アーキテクチャを拡張する形で64bit化を行うのが特徴だ。そのため、32bit x86アーキテクチャとは互換性を完全に維持している。この点、x86アーキテクチャとまったく新しい命令体系/アーキテクチャを採用したItaniumプロセッサ・ファミリとは異なる(Itaniumプロセッサ・ファミリも、一応x86アーキテクチャとの互換モードを備えているが、補助的なものである)。
つまりAMDでは、AMD-K6までのソケット互換をAthlonシリーズで打ち破り、次にHammerシリーズではIntel互換のアーキテクチャ(Itaniumアーキテクチャ)という壁を突破しようとしているわけだ。当然、こうした命令体系/アーキテクチャの変更は、OSやデバイス・ドライバのサポートが必須となる。Linuxについては、SuSE(ドイツのLinuxディストリビュータ)が早くからHammer対応を表明していた(そのあと、Red Hatの対応も表明された)。しかし、Windowsについては、「AMDとMicrosoftが64bitコンピューティングで協力する」という声明が発表されるにとどまっており、具体的にいつ、どのような形でHammerシリーズに対応した64bit版Windowsの提供が行われるのか明らかにされてこなかった。
それが、8月20日と21日の2日間に渡って開催された、マイクロソフトの次期サーバOS「Windows .NET Server」に関するプレス向けワークショップで間接的ながら状況が明らかになった。64bit版だけに絞って概要を説明すると、Windows .NET ServerではEnterprise Server(Windows 2000のAdvanced Serverに該当)とDatacenter Serverの2種類だけがItaniumプロセッサ・ファミリの64bitに対応するという。Hammerシリーズ(AMD Opteron)については、当初のWindows .NET Serverでは対応が行われないことが明らかになった。つまり、AMD Opteronのサーバについては、Windows .NET Server環境下では単なる32bitのx86アーキテクチャのプロセッサとして使うことになる。もちろん、Linuxベンダの多くはx86-64アーキテクチャに対応することを表明しているので、Linux+Opteronという組み合わせは可能だ。とはいえ、Linuxを除く商用UNIXやWindows .NET Serverのサポートがない状態では、それでなくても保守的なサーバ市場で一定の評価を得るのは難しいかもしれない。唯一、7月31日にIBMが同社のデータベース「DB2」をHammerシリーズに対応させると表明したことは、明るい材料といえるかもしれない(DB2はLinux対応とのことだ)。
IntelはOEM向け販売価格に歪みが
一方のIntelは、8月26日のPentium 4-2.80GHz発表に合わせて、それまでデスクトップPC向けとしては最上位であったPentium 4-2.53GHzの価格を大幅に引き下げた。ただ、今回の値下げは、ウワサされていた全製品を大幅に引き下げるというものではなく、Pentium 4-2.53GHzを特別お買い得に設定したようなものである。それを示すように、価格改定が行われたPentium 4-2.53GHzと2.26GHzの価格差は2ドルとなってしまっているし、そもそも2.40GHzの価格が400ドルに据え置かれているため、2.53GHzとの間で性能と価格の逆転が起きている。こうした状態が長い間放置されるとも思えないので、近いうちに大きな価格改定が行われることになるだろう*1。景気の動向やPCの売れ行きなどを考えると、PC販売をプッシュするためにプロセッサ全体の価格を大幅に引き下げるのではないかと予想する。
*1 9月1日にPentium 4-2.40GHz以下を中心に大幅な値下げが行われた。詳細については、次回の原稿で報告したいと思う。 |
6月23日 | 8月2日 | 値下げ幅 | |
Pentium 4 | |||
2.8GHz(533MHz FSB) | − | 508ドル | − |
2.66GHz(533MHz FSB) | − | 401ドル | − |
2.6GHz(400MHz FSB) | − | 401ドル | − |
2.53GHz(533MHz FSB) | 637ドル | 243ドル | 62% |
2.50GHz(400MHz FSB) | − | 243ドル | − |
2.40GHz(533MHz FSB) | 400ドル | 400ドル | 0% |
2.40GHz(400MHz FSB) | 400ドル | 400ドル | 0% |
2.26GHz(533MHz FSB) | 241ドル | 241ドル | 0% |
2.20GHz(400MHz FSB) | 241ドル | 241ドル | 0% |
2A GHz | 193ドル | 193ドル | 0% |
1.80GHz(256Kbytesキャッシュ) | 163ドル | 163ドル | 0% |
Celeron | |||
1.80GHz | 103ドル | 103ドル | 0% |
1.70GHz | 83ドル | 83ドル | 0% |
1.40GHz | 89ドル | 89ドル | 0% |
1.30GHz | 74ドル | 74ドル | 0% |
Itanium | |||
800MHz(4Mbytesキャッシュ) | 4227ドル | 4227ドル | 0% |
800MHz(2Mbytesキャッシュ) | 1980ドル | 1980ドル | 0% |
733MHz(4Mbytesキャッシュ) | 4227ドル | 4227ドル | 0% |
733MHz(2Mbytesキャッシュ) | 1177ドル | 1177ドル | 0% |
Intel Xeon MP | |||
1.60GHz(1Mbytesキャッシュ) | 3692ドル | 3692ドル | 0% |
1.50GHz(512Kbytesキャッシュ) | 1980ドル | 1980ドル | 0% |
1.40GHz(512Kbytesキャッシュ) | 1177ドル | 1177ドル | 0% |
Intel Xeon | |||
2.40GHz | 615ドル | 615ドル | 0% |
2.20GHz | 262ドル | 262ドル | 0% |
2A GHz | 224ドル | 224ドル | 0% |
2GHz(256Kbytesキャッシュ) | 256ドル | 256ドル | 0% |
1.80GHz | 192ドル | 192ドル | 0% |
1.70GHz(256Kbytesキャッシュ) | 202ドル | 202ドル | 0% |
1.50GHz(256Kbytesキャッシュ) | 192ドル | 192ドル | 0% |
IntelのプロセッサのOEM向け価格(一部) | |||
詳細な価格は「Intel Processor Pricingのページ」を参照のこと |
Intelは、8月14日に次世代の製造プロセスとなる90nmプロセス技術の開発を完了したことを発表している。発表によれば、90nmプロセスでは低誘電率(Low-K)の絶縁材料として「カーボン・ドープ酸化絶縁材料」や歪みシリコンといった最新の半導体製造技術が採用されているという。90nmという微細化とともに、こういった技術を採用することで、さらなる高速化が実現可能であるともしている。90nmプロセス技術は、2003年後半に出荷予定の開発コード名「Prescott(プレスコット)」で呼ばれるNetBurstアーキテクチャ採用のプロセッサに適用されることが明らかにされている。多くの半導体ベンダが0.13μmプロセスへの移行に苦労している中、Intelは一歩先を行くことになるわけだ。
混迷の次世代光ディスク
最後に、混迷する次世代光ディスクの今月の動きを追っておこう。現在、波長405nmの青紫レーザーを利用する書き換え型光ディスクとして、ソニーやパイオニア、松下電器産業など9社が集まって規格化を行っている「Blu-ray Disc」がある。その一方でDVDの規格団体であるDVD Forumでも、次世代DVD規格として青紫レーザーを利用した高容量の規格を検討している。DVD Forumには、Blu-ray Disc陣営の企業も参加しているが、既存のDVD規格の延長としての規格が検討されている。具体的には、Blu-ray Discと同様のディスクに0.1mm保護膜を設ける方式と、DVDと同様の0.6mm厚のディスクを2枚張り合わせる方式の2種類がワーキンググループで検討されている。
こうした状況の中、8月29日にBlu-ray Discに参加していない東芝と日本電気の2社が、DVDと同様の0.6mm厚の2枚張り合わせによる規格をDVD Forumに提案した。両社によると、提案した方式には以下のメリットがあるという。
- DVDと同様の2枚張り合わせのため、現在のDVD製造技術の多くを活用することができ、ディスクの製造コストを抑えることが可能
- 既存のDVD規格との互換性確保が容易
- カートリッジ不要のディスク構造が可能で、ノートPC向けドライブなどが製造可能
- 2層ディスクの製造が容易
以下に東芝/日本電気による規格とBlu-ray Discの規格を簡単にまとめてみた。これを見ると、ディスク(2枚張り合わせと0.1mmの保護層)と対物レンズ開口数など、いつかの点で大きく異なっていることが分かる。
次世代DVD規格 | Blu-ray Disc | ||
再生専用 | 書き換え型 | 書き換え型 | |
容量 | 1層:15Gbytes/面 2層:30Gbytes/面 |
1層:20Gbytes/面 2層:40Gbytes/面 |
23.3G/25G/27Gbytes |
ファイル・フォーマット | UDF | ? | |
データ転送レート | 36Mbits/s | 36Mbits/s | |
ディスク・サイズ |
直径:120mm 厚さ:1.2mm(0.6mm×2)
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直径:120 mm 厚さ:1.2 mm(光透過保護層厚:0.1mm) |
|
レーザー波長 | 405nm | 405nm | |
対物レンズ開口数 | 0.65 | 0.85 | |
トラック構造 | ― | ランド&グルーブ | グルーブ記録 |
カートリッジ寸法 | ― | 約129×131×7mm | |
東芝/日本電気が提案している次世代DVD規格とBlu-ray Discの主な仕様 |
大きく2つの規格が提案されたことで、規格化に参加していないベンダもどちらの陣営に参加すべきか判断できる状態になってきた。どちらが優れているのか、製品を評価できない段階では判断ができないが、両方の陣営が中途半端に妥協することで使いにくい規格に変更するのだけは避けてほしいと思う。
Pick Up Online Document――注目のオンライン・ドキュメント |
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