マンスリー・レポート不景気とPC価格の関連性(2002年8月号)デジタルアドバンテージ |
7月から8月にかけては、ボーナス商戦明けや夏休みの影響などから、例年新製品の発表は少ない。そんな中、Intelが「Itanium 2」の発表を7月9日に行った。Itanium 2の発表に関しては、「解説:Itanium 2はバックエンド・サーバ市場を切り崩せるか?」を参照していただきたいが、同時にItanium 2搭載サーバを発表したベンダが、日本HPと日本電気、日立製作所と少なかったことや、Itanium 2の主力OSと目されている64bit版Windows .NET Serverの出荷時期が相変わらず明らかにならないことから、若干盛り上がりに欠けてしまった。なお64bit版Windows .NET Serverは、7月24日にRC1がリリースされたが、2002年内の製品版出荷は微妙な情勢となっている。Itanium 2搭載サーバが順調に立ち上がるには、64bit版Windows .NET Serverは必須であるだけに、早期のリリースを期待したい。
周辺機器などにも目新しいものはなく、ニュースとしては各社の業績関連発表などが目立った。そこで、今回はAMDとIntelの第2四半期の業績発表ならびに、7月30日に発表となったIBMによるPwC Consultingを中心に見てくことにする。
AMDとIntelの第2四半期決算
6月の決算予測に続き、7月に入りAMDとIntelから正式な第2四半期決算が発表となった。AMDは、6月18日の売上予測の下方修正に続き、7月2日には2度目の修正を行い、結果的に6億ドルにまで下がってしまった。7月17日(米国時間)に発表となった第2四半期の決算は、売上高6億ドルと修正どおりに着地したものの、当初の8億2000万〜9億ドルからは大幅な減少となった。それに伴い、純損失は1億8494万ドルと大幅に膨らんでしまった。
AMDによれば、「特に北米とヨーロッパにおいて、PC市場が期待よりも弱含みとなった結果」であるという。ただ実際のところは、北米やヨーロッパのPC市場の影響よりも、むしろIntelがPentium 4への移行を強力に推進している影響を受けた結果ではないかと思われる。IntelがPentium 4の性能向上と低価格化を推し進めた結果、AMD Athlon XPの魅力が失われつつあるのが原因だろう。そのためか、AMDは7月26日にAMD Athlon/Duronシリーズの大幅な価格改定を行い、デスクトップPC向けを中心に15%前後の値下げを断行している(最大はモバイルDuron-1.2GHzの26%の値下げ)。後述のようにIntelも大幅な値下げを行うとウワサされており、AMDとしては第4四半期にクライアントPC向け新プロセッサ「ClawHammer(開発コード名:クローハマー)」が投入されるまで厳しい戦いが強いられそうだ。
一方、Intelの第2四半期の売上高は、63億ドルと前年同期比7%減となった。6月6日に行った売上高の下方修正では、62億〜65億ドルとしていたので、何とかその範囲内に収まったという感じだ。この結果、第2四半期の純利益は4億4600万ドルと、2002年第1四半期からは52%減少したという。52%の減少とはいえ、4億4600万ドル(約535億円)もの純利益を確保したことは、現在の経済環境を考慮すれば立派なものだろう。
売上高下方修正のニュースリリースの中でIntelは、その理由として「主にヨーロッパでの需要が予想より軟調であるため」と述べている。それを裏付けるように、Intel全体の売上の中でヨーロッパの比率が第1四半期の23%から第2四半期では20%に低下している。また、アジア・パシフィックは堅調に伸びているが、日本は景気の低迷が影響してか、これまでの9%からここ1年は7〜8%と若干低くなっている。
米国 | アジア・パシフィック | ヨーロッパ | 日本 | |
2000年第1四半期 |
39%
|
25%
|
27%
|
9%
|
2000年第2四半期 |
43%
|
26%
|
22%
|
9%
|
2000年第3四半期 |
42%
|
27%
|
22%
|
9%
|
2000年第4四半期 |
41%
|
25%
|
25%
|
9%
|
2001年第1四半期 |
35%
|
28%
|
25%
|
12%
|
2001年第2四半期 |
37%
|
31%
|
22%
|
10%
|
2001年第3四半期 |
37%
|
31%
|
25%
|
7%
|
2001年第4四半期 |
33%
|
35%
|
25%
|
7%
|
2002年第1四半期 |
33%
|
36%
|
23%
|
8%
|
2002年第2四半期 |
35%
|
38%
|
20%
|
7%
|
Intelの各地域別の売上比率 |
このような軟調なPC市場を受けて、Intelは8月にもプロセッサ価格の大幅な改訂を行うとウワサされている。また、2002年内に発表することを明言しているPentium 4-3.0GHzの出荷を前倒しするのではないかという観測も流れている。これは、価格と性能面でPentium 4をプッシュし、既存のPentium III搭載PCから新しいPentium 4搭載PCへの買い替え需要を喚起する必要がある、ということのようだ。これまでも、Intelはプロセッサの出荷数量が落ち込むと、価格を大幅に下げたり、出荷時期を前倒しして性能を高めたりしてきた。このようなマーケティング戦略を実施するにあたっては、前もってPCベンダに対して予告が行われるため、こうしたウワサが流れることも多かった。そのことから、今回も値下げとPentium 4-3.0GHzの出荷前倒しが行われるのは間違いないだろう。
これまでの経験からいって、決算が思わしくないと、カンフル的にプロセッサの値下げが行われることになる。その結果としてPC価格が値下がりし、需要が喚起され、再びAMDやIntelの業績は向上する、という図式である。ただ、世界的に景気動向が不透明な中、プロセッサの値下げにより、いままでどおり単純にPCの需要が喚起される保証があるかは微妙である。
IBMがPwC Consultingを買収
7月30日にIBMが、PricewaterhouseCoopers(PwC)のコンサルティング部門であるPwC Consultingの買収を発表した。PwCは、昨今の米国の会計監査に関する不信感の増大と、それに伴う会計監査部門とコンサルティング部門の分離勧告などから、PwC Consultingを完全に分社化し、株式を公開する予定でいた。今回のIBMによるPwC Consultingの買収は、早期にコンサルティグ部門を分離したいPwCと、コンサルティング部門を取得しサービス分野を強化したいIBMとの思惑が一致した結果と思われる。
IBMは、PwC Consultingの買収によって、企業の人事や生産管理などのビジネス・コンサルティングと情報システムの構築を併せて請け負えることになる。特にERP(Enterprise Resource Planning)などの基幹業務系システムでは、従来のビジネス・プロセスの見直しも含めて情報システムを構築したほうが効果を得やすい。こうした分野に強いPwC Consultingの取得は、IBMにとって大きな戦力となるだろう。
逆にライバルであるHPやSun Microsystemsにとっては、PwC Consultingをビジネス・パートナーとしてきただけに痛手となる。特にHPにとっては、PwCの買収を一度試みているだけに打撃が大きいかもしれない(2000年9月に買収を提案している)。もともとHPがPwCの買収を考えたのは、サービス分野を強化したかったためだ。そう考えると、このときPwCの買収に成功していたら、Compaqとの合併はなかったかもしれない。新生HPの誕生に合わせたように、IBMによるPwC Consultingの買収が決まったのは、何か皮肉な感じもする。
日本HPとコンパックとの正式合併は11月1日
米国では2002年5月7日に合併が完了したHPとCompaqであるが、日本法人についても8月1日より営業活動の統合、11月1日には正式な合併が行われることが明らかになった。すでに米国での製品ラインの統合が進んでいるため、コンパックが「hp StorageWorks」や「hp ProLiant」とhpブランドの製品を販売することになるなど、歪みが生じていただけに、合併へのロードマップの提示が求められていた。今回、営業活動の統合が正式合併に先立って行われることで、新生日本HPの早期立ち上げが可能になるだろう。ただ、家庭向けPCの製品ブランドをどのようにするかなど、不透明な部分も残っている。これらについても早急に、製品ラインアップやサポート体制を明らかにしてほしいところだ。
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