元麻布春男の焦点
Intelが語る向こう1年のプロセッサ戦略
――明らかになる次期Pentium 4の姿――


2. 製造力こそがIntelの力

元麻布春男
2002/05/10


 さて、今回のアナリスト・ミーティングで全スピーカーがそろって触れたのが、Intelの生産能力やプロセス技術といった、半導体の製造面の話だ。Intelが半導体メーカーである以上、すべての事業が製造技術と無関係であるハズはないのだが、全員が製造面について語るのは過去のアナリスト・ミーティングを振り返っても珍しい。現時点でIntelが自社の製造技術について、自信を持っていることの裏返しといえるかもしれない。

 画面3はクレイグ・バレット最高経営責任者のスピーチで使われたスライドである。同種のスライドは過去にも公開されていたが、製造能力を200mmウエハと300mmウエハで分けたこと、最も近い競合会社の推定生産能力を書き足したことが目新しい(競合会社がAMDであることは、ヨーロッパ中央部に緑の点があることで明らか)。ちなみに、F20(Fab 20の略で工場の名前)はオレゴン州ヒルズボロ、D2はカリフォルニア州サンタクララ、F22はアリゾナ州チャンドラー、F17はマサチューセッツ州ハドソン、D1Cはオレゴン州ヒルズボロ、F11Xはニューメキシコ州リオランチョの前工程工場を指す。F20、F22、F17の3カ所はロジック(主にプロセッサ)、D2がフラッシュメモリで、D1CとF11Xはロジックとフラッシュの両方を手がけていると思われる(300mmウエハ化の効果については「頭脳放談:第13回 300mmウエハは2倍お得」を参照)。

クリックで拡大
画面3 0.13μmプロセス製造による製造能力
300mmウエハによって急速に製造能力が向上することが分かる。競合会社と比較すると、その量は圧倒的である。

 このグラフで興味深いのは、D1CとF11Xの2カ所にすぎない300mmウエハによる製造工場の生産量が、4カ所ある200mmウエハによる製造工場の生産量計を上回っている点だ。ウエハの300mm化による生産コストの低減は良くいわれるところだが、生産数量の点でも大きく貢献することが分かる。300mmウエハ化によって、生産数量を増やしながら、製造工場の数を減らせるという効果もあることが分かる(つまり、製造工場の増設が不要になり、その分コスト・ダウンできる)。

 また、このグラフはあくまでも0.13μmプロセス製造の分だけで、2003年中ごろから量産がスタートする90nmプロセス製造(全量が300mmウエハだといわれている)の分は含まれていないことを記憶しておく必要がある。いずれにしても0.13μmプロセス製造への移行は急速に進んでおり、ポール・オッテリーニ社長のプレゼンテーションによると、本年の第2四半期には0.13μmプロセス製造によるプロセッサの出荷量が0.18μmプロセス製造を上回り、0.13μmプロセス製造への量的移行が行われることになっている(画面4)。

クリックで拡大
画面4 0.13μmプロセス製造と0.18μmプロセス製造の比率
2002年第2四半期には、0.13μmプロセス製造が50%を超えると予想している。こうした他社に先行した製造プロセスの採用が、Intelの利益率の高さにもつながっている。

 こうしたプロセスの微細化やウエハの大型化によるメリットは、財務を担当するアンディ・ブライアント副社長のプレゼンテーションで、より詳しく説明されている。画面5はPentium 4の製造に必要となるコストをダイ当たりで比較したものだが、0.18μmプロセスのWillamette、0.13μmプロセスで200mmウエハを用いたNorthwood、300mmウエハを採用すると同時にダイ面積を10%縮小したNorthwood(145mm2から132mm2へと縮小)、そして90nmプロセスによるPrescottと、着実に減少していることが分かる。

クリックで拡大
画面5 製造プロセスと製造に必要となるコストの関係
このように製造プロセスの進化と300mmウエハの採用により、大幅にコストが下がることが分かる。

 画面6は、デスクトップPCおよびノートPC向けプロセッサ(つまりはクライアント向けのIAプロセッサ)に占める300mmウエハの割合を示したアンディ・ブライアント副社長のプレゼンテーションだが、2003年第2四半期に300mmウエハの割合が急激に増加している。ひょっとすると、この時期にPrescott(90nmプロセス+300mmウエハ)の量産が開始されるのだろうか。Prescottの製造は、当初はD1C(Prescottの世代で量産工場に転換される可能性が高い。後継のD1Dは2003年第3四半期に稼働予定)で行われ、そのあとアイルランドのレイクスリップに建造中のFab 24が加わるものと思われる。

クリックで拡大
画面6 クライアントPC向けプロセッサにおける300mmウエハの割合
このように300mmウエハは順調に立ち上がり、2003年第2四半期に急速に比率が高まる。

フラッシュメモリも0.13μmプロセス製造へ

 以上は、主にIAプロセッサの製造プロセスと300mmウエハへの移行を示したものだが、今回のアナリスト・ミーティングではほかの分野における製造技術についても取り上げられた。画面7は、フラッシュメモリの製造プロセスの移行に関するロン・スミス副社長のプレゼンテーションである。左のグラフは、量産開始後四半期ごとの生産数量の伸びを示したもので、Intelが0.13μmプロセスによるフラッシュメモリの量産を、過去最大規模でスタートさせ、過去に例のない規模で増産速度を高めていく予定であることが分かる。右側のグラフはフラッシュメモリの生産量に占める0.13μmプロセスの割合を表したもので、今年の第3四半期にスタートしたあと、急激に0.13μmプロセスの量産が立ち上がることを示している。

クリックで拡大
画面7 フラッシュメモリの製造プロセスの移行について
フラッシュメモリも急速に0.13μmプロセス製造に移行し、2002年第4四半期には、0.18μmプロセス製造の数量を超える。0.13μmプロセス製造により、価格競争力を高めることが目的だろう。

 画面8はショーン・マローニ副社長のプレゼンテーションの最後に語られた、Intelコミュニケーション事業部の次の戦略を示したものだ。これまでIntelは、通信事業について非常に多くの企業買収を繰り返しながら拡大させてきた。しかし、次世代戦略の中心となるのは自社の製造技術である、と宣言している。Intelは通信向けの半導体製品にも、積極的に最先端の90nmプロセスと300mmウエハによる量産技術を投入するようだ。スライド下部に書かれた、「90nmプロセスは通信関連業界に変革をもたらす」というスローガンは、90nmプロセスでIntelは通信関連半導体分野でもトップに立つ、という意思表明だと考えられる。

クリックで拡大
画面8 通信分野における次の戦略
90nmプロセス製造と300mmウエハの採用によって、通信分野の制覇も行うという宣言である。

 以上のようにIntelは、ほぼすべての事業分野でプロセスの微細化と、300mmウエハの導入を積極的に進めていくつもりのようだ。しかし、こうした製造技術の革新を行うことができるのも、同社が世界最大の半導体会社であるという規模を持っているからこそだろう。実際、現時点で0.13μmプロセス製造による大規模ロジックを量産できているのはIntelだけ、といってもよい状況だ。つい最近、AMDがモバイル向けに0.13μmプロセス製造によるプロセッサの出荷開始を発表したが、すでに1年近く前からIntelがPentium III/Pentium 4を量産していることを考えると、他社に対し1年近いリードタイムを持っているといえる。このリードタイムは、2003年の90nmプロセスの世代にいち早くIntelが突入することで、さらに拡大する可能性さえ考えられる。このところ、次世代プロセスに関して、複数の半導体メーカーが手を結ぶケースが増えているが、強大なIntelに対抗するにはこうした戦略的提携を結ばざるを得ない、というのが実情かもしれない。記事の終わり

  関連記事
第13回 300mmウエハは2倍お得
Pentium 4-2.40GHzに見るIntelの強さの源泉
ヒミツ主義に包まれたIntelのプロセッサ製造拠点を暴く
 
 
 
 INDEX
  Intelが語る向こう1年のプロセッサ戦略
     1. 次期Pentium 4のプラットフォームはどうなる?
   2. 製造力こそがIntelの力

 「System Insiderの連載」


System Insider フォーラム 新着記事
  • Intelと互換プロセッサとの戦いの歴史を振り返る (2017/6/28)
     Intelのx86が誕生して約40年たつという。x86プロセッサは、互換プロセッサとの戦いでもあった。その歴史を簡単に振り返ってみよう
  • 第204回 人工知能がFPGAに恋する理由 (2017/5/25)
     最近、人工知能(AI)のアクセラレータとしてFPGAを活用する動きがある。なぜCPUやGPUに加えて、FPGAが人工知能に活用されるのだろうか。その理由は?
  • IoT実用化への号砲は鳴った (2017/4/27)
     スタートの号砲が鳴ったようだ。多くのベンダーからIoTを使った実証実験の発表が相次いでいる。あと半年もすれば、実用化へのゴールも見えてくるのだろうか?
  • スパコンの新しい潮流は人工知能にあり? (2017/3/29)
     スパコン関連の発表が続いている。多くが「人工知能」をターゲットにしているようだ。人工知能向けのスパコンとはどのようなものなのか、最近の発表から見ていこう
@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)

注目のテーマ

System Insider 記事ランキング

本日 月間